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ただ僕は、今思い描くこの女と会いたい

 でけぇおっぱいの女を書く。だが、どんなでけぇおっぱいの女を書く?

 

 今回のテーマは『夢』だ。ケッシャの最後にふさわしい夢のある作品を書かなきゃいけない。

 もちろんでけぇおっぱいはただそれだけで夢だ。ただそれよりも更に踏み込んだ夢。

 現実の誰とも似ていなくて、それでいて僕が、僕達が恋い焦がれような相手。まさに夢。

「……狐耳巨乳お姉さんか」

「そうなのか!?」

 横にいたK君は何故か驚きの声を上げていた。

「うん、現実離れしててエロくて。何より僕は今人間離れした狐耳巨乳お姉さんを書きたい」

「……なら、それしかないな」


 打算はある。名前も、学校も、制服もない。誰にも似ていないから余計な邪魔を入れさせない。だけど、それよりも、僕は今そんなものには縛られずに、彼女を描きたい。

 

 

 解散宣言から一夜明け、朝のホームルーム前。僕はノートに鉛筆を走らせる。今回の設定はシンプルにした。人の生気で生きる妖怪のお姉さんと青年の物語だ。

 行為の事前と事後の文章は既に書いて博士に渡してある。これから僕が向き合うのはただ一つ、狐耳巨乳お姉さんとのセックス描写だ。


「今回はね、僕のセックスをそのまま書こうと思う」

「……したことないのに?」

「したことないから、僕がしたいことをそのまま書く」

 カリカリと鉛筆を走らせながらそんな事を話している。隣りにいた女子がものすごく怪訝な顔をしていた。

「……その尻尾の付け根の描写、いるのか?」

「絶対いる」

「なんでさ」

「夢だから」

「……なら、必要だな」

 

 朝のこの時間は短く、そして騒がしい。そのはずなのに僕にとってはずっと長く、そして静かに感じた。

 スラスラと進む鉛筆、ノートの白紙部分がみるみる減っていく。挟まれるK君との掛け合い。それ以外の声はまるで聞こえない。ざわめきは遥か彼方のものに感じられた。


 まるでこの教室に僕とK君しかいないような感覚。笑い声も、それを注意する教師の声も、いつの間にか消えて、耳に届くのは鉛筆がノートを走る音、椅子が軋む音。


 ああそうだ、最初はこうだった。




 初めて小説を書いたとき、僕はただ書きたかったから書いたのだ。確かに誰かに認められたくて、この学校を支配したくて、そうして小説を書いた。それもまた事実だ。

 ただ、僕が初めて『ユーキとヒナ』を書いたあの時はそんな事思っていなかった。ただ僕の思う世界を、この世界にも存在させたかったのだ。


 今の気持ちは、初めて小説を書いたあの日に近い。誰かのためではない、評価も、噂も、気にしない。


 授業のチャイムも、休み時間の合図も気にならない。指先は黒く汚れ、ノートの端をは折れていく。文章が思い浮かぶ速度に指がついていけない。いや、無理やりついていかせる。気がつけば消しゴムを使うこともなく書き続けた。


 ただ僕は、今思い描くこの女と会いたい。この女を存在させたい。


 その思いが僕の鉛筆を運んでいった。




 僕の夢をこれでもかと言うほどにねっとりと書き上げた最終作『コンきす』。その名の通りとにかく長く深いキスを念頭に置いて書き上げた。


 巨乳のお姉さんと長いキスをしながらエッチなことをしたい。このときの僕にとってそれが一番の願いであった。


 ケッシャの活動で得た様々な知識、掴んだ表現方法、日常から得た知見、その全てを注ぎ込んで生み出した僕の願望。



 チャイムが鳴る。僕はノートを閉じて、K君の机に置いた。


「書いたよ」

「待ってた」


 多くの言葉はいらなかった。これで最後だ、淋しくはない。


 僕の担当編集。僕の妄想は、僕の自己満足は、一番にぶつけるのは君が良いんだ。





 キャプテンによれば危ない写本はそれほど多く出回っていないようだ。きっと作者はすぐに飽きたのだろう。だからといって今更何か変わるわけではないが、すぐに邪魔が入るわけではなさそうだ。

「数枚、アレと同じ写本を見つけたけど、もう処分しといたぞ。ま、ちゃんと読んだ奴は引いてたさ。アレを楽しもうとは思わない」

「……ありがと。読んだ奴も口外しないようにね」

「もちろんだ」



 博士や有志の写本係達もよく働いてくれている。給料が出るわけでも大したお礼が出来るわけでもないのに本当によく協力してくれた。

「それだけエロいことに飢えてたってことだよ。このくらいのお礼をする価値は十分あった」

 そう笑いながら博士は写本を作っている。

「……ここちゃんとゴムつけるとこ書き加えて良い?」

「……いいよ」

 ファンタジー存在にもちゃんとエチケットを守る紳士な博士である。




 最終作『コンきす』を書き終える頃、K君によって既に作品の噂が流れていた。次が最後らしい、物凄い作品らしいと。

「舞台は整ってるよ、ニッカ君」

 K君は得意げな顔で笑っている。

「K君、これも頼むよ」

 そう言って僕はノートを手渡す。

「これって、原本の、黄色いノートだよね」

「うん、これも」


「……原本も回すってこと?」

 K君が驚くのも無理はない。原本が多くの人の目に触れれば僕の正体が明かされるリスクが高まる。筆跡もそうだ。それに、僕が必死にこのノートに何かを書いていた姿を、多くの人が目撃している。


「いいんだよ、K君」


 既に答えは決まっていた。


「ケッシャを終わらすなら、それは必要なんだ」

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