坂の下にある不思議1
このお店はどうなんだろうと思うことがいくつもある。いや、働かせてもらっていてあれなんですが。
そもそもアルバイトの大学生女子に店長を任して何ヶ月も海外に仕入れに行って、なおかつ連絡もつかないとかどこの秘境が仕入れ先なのか。
「オーナーそろそろ店頭の商品がなくなりますよ・・・」
店頭の在庫を埃から守る作業をしつつそうぼやく。
最近この店のコアなファンが増えつつあり、大手の市販品にはない魅力があり密かな人気を博しているのだとか。いつも大量に買っていくお得意様がそう言っていた。
店頭の在庫も手頃な値段のものは在庫が乏しくなっており、比較的高価なものもそれなりに売れている。つまり、このままあと一月もすれば売るものがなくなると言うことです。
「オーナあぁぁー」
大学の授業の時間が迫ってきたので閉店の看板を入り口にかける。表のシャッターを下ろして鍵をかける。
自転車に乗って大学に向かう。鍵をポストに返すのを忘れていたがまだ店長は帰ってこないだろうから問題ない。この前は九ヶ月も帰ってこなくて最後の二ヶ月などは売るものも尽きて、来たお客と談笑する場でしかなかった。きっちりと給料はもらえたが。
「オーナーはどこにいるんでしょうねー」
と鼻歌を歌いながら走り抜ける街並みは冬の様相を呈しはじめていた。
大学の授業はとても面白い。このまま卒業して社会人になることなど想像もできないくらい今の環境に満足している自分がいる。
昼からの授業を終わらせてお店の様子を見にいく。今日はもう閉店だが、オーナーが帰って来てないかの確認も兼ねている。
大学の前の坂を降りながら住宅街の中を走り抜ける。住宅街の中に店を構えているオーナーは商売をする気があるのかと思うが、おかげで住居から近いところにバイト先があるのはいいことだ。
下り坂を曲がると住宅街の交差点に出る。角の少し大きな建物が私の職場だ。
「え、電気ついてる!」
オーナーが帰ってきた!
中肉中背で飄々としている三津家さんは不思議な人だ。ぼーっとしてるかと思えば不思議な言語を電話で喋っていたり。
一番不思議なのは・・・
「オーナーお帰りなさい!」
店の入り口を開けると同時に叫ぶ。
びっくりして手に持っていた小箱を落としそうになるオーナー。びっくりした顔も可愛い。
「ただいま帰りました」
小箱を棚の上にそっと置いたマスターが微笑みながらそう言った。
「仕入れの品の仕分けですか?手伝いましょうか?」
私は店内中に所狭しと置かれている袋や箱を見ながらオーナーに問いかける。
「気持ちはありがたいけどもう遅いから今日は帰りなさいね」
柔らかい表情で帰宅を促される。いや、待て待て。この長い期間の不在についての説明を今度こそしてもらわねば。
「わかりました。でも今回は半年もいませんでしたから色々と話さないといけないことがたくさんあります」
何が売れたかとか、常連さんからのお願いとか、売り上げや、支払いや、税理士さんからの連絡もあった。
「半年もいなかったかな?_今何月何日だっけ?」
きょとんとした顔で聞き返してくる。本当に不思議な人だ。
「今日は十一月の十二日ですよ」
もー浦島太郎ですかと笑いながら教えてあげる。
「時差のせいだねぇ」
穏やかに突っ込みを受け流してくる。大人の余裕を感じるその仕草に少しグッとくる。
ただし。明らかに今までとは違う異常事態でなければ。
「・・・うちは今後武器を売るんですか?」
店長の後ろに立てかかっている槍を指差して聞く。
「・・・・・えぇ?」
大学一年生の夏からバイトに来はじめてはや三年目。それなりに長いことオーナーとの付き合いはあるがこの時の顔は一生忘れない。
鳩が豆鉄砲を喰らったようなとはこのことだろう。
で、その槍なんなんですか?




