思うつぼ
アマン・デースの冷酷な言葉に対し、睡蓮は一切の対話を拒否し、先制攻撃をもって応えた。
「抜かせ! お前から葬る!」
彼女は、鎌を構えると同時にアマン・デースを狙ったが、我邪丸がその間に割って入った。
「おいおい、ダメだよお。そんなヤツを気に入っちゃ……。おいらの方がよっぽど君を絶望的に悲惨な様子で、後悔にむせびながらあの世に送ってやれるのに」
我邪丸は、アマン・デースへの対抗意識と、睡蓮への嗜虐的な欲求を露わにした。
次の瞬間、足元のガマが口を開いた。
(ブシャアッ!)
緑色の毒液が、睡蓮めがけて吹きかけられた。
睡蓮は、体調不良にもかかわらず、反射的に身をよじってそれをかわした。
しかし、その回避行動こそが、我邪丸の待ち伏せだった。
毒液をかわした直後、我邪丸の巨大な体躯から繰り出された重い蹴りが、睡蓮の腹部に深くめり込んだ。
しかし、その回避行動こそが、我邪丸の待ち伏せだった。
毒液をかわした直後、我邪丸の巨大な体躯から繰り出された重い蹴りが、睡蓮の腹部に深くめり込んだ。
(グッ――!)
強い衝撃と激痛が全身を貫き、睡蓮の体は大きく宙を舞った。
我邪丸の強烈な蹴りを受け、睡蓮は墓石に叩きつけられるように倒れ込んだ。
彼女は腹の激痛に耐えながら、さらに悪化した頭痛に呻いた。
(く……)
アマン・デースは、木の上から優雅に降り立つと、睡蓮に微笑みかけた。
「ふふ。頭痛かい? 理由は簡単さ」
彼は、睡蓮を苦しめていた体調不良の正体を、優雅に明かした。
「私が、港で君たちに呪いのパフュームを嗅がせたからね」
それは、単なる香水ではなく、特殊な呪いが込められた悪魔の罠だった。
「君が一番早く、しかも強く効果が現れているようだ。その内、身体が痺れて、私の言うことをきくようになる」
彼の目的は、暴力だけではなかった。
「頭では抵抗しても、どうしようもなくなる」
アマン・デースの呪いのパフュームによって、意識と身体の自由を奪われ始めている睡蓮を見て、我邪丸は歪んだ同情を示した。
「可哀想に。そんな姿見てられないなぁ」
しかし、その慈悲は、純粋な残酷さに裏打ちされていた。
「いいよ、いいよ。おいらが手足を削いで、そんなヤツの言うこと聞かなくてもいいようにしてやるよ」
我邪丸は、アマン・デースに操られるよりは、肉体を破壊されて動けなくなる方がマシだという、悪魔ならではの論理で、睡蓮に止めを刺そうと獰猛な笑みを浮かべた。
睡蓮は自己の状態を冷静に分析した。
(ダメだ! 悪魔二体に業霊武。手強すぎる)
彼女は鎌を握る手に力を込めたが、四方八方から容赦のない攻撃が畳みかけられた。
我邪丸は、巨大な体躯と圧倒的な膂力で直接的な打撃を繰り出し、
同時に、彼の土の能力が発動し、地面が変形したり、土の壁が出現したりして、睡蓮の動きを封じた。
さらに、業霊武が常に毒液や体当たりで睡蓮を攪乱した。
我邪丸は、巧みに業霊武を動かし、自身の土の能力と連携させながら、睡蓮を墓地の狭い空間に追い詰めていった。
睡蓮は、頭痛と船酔いのような感覚に視界が揺らぐ中、己の限界を知りつつも、ただ一歩も引かず、神具の鎌で迫りくる悪意を迎え撃った。
睡蓮が我邪丸と業霊武の連携攻撃に対処しようと、そちらに気を向けた、その隙をアマン・デースは見逃さなかった。
アマン・デースは、木の上から優雅に手首を振るうと、炎属性の攻撃を睡蓮めがけて放った。
炎の渦が睡蓮の身を焼き尽くそうと迫る。
睡蓮が炎を神具の鎌で受け流そうとした瞬間、さらに別の異変が起こった。
墓地の近くに咲いていた、美しい深紅の薔薇たちが、突如として命を持ったかのように動き出した。
薔薇のツルが鋭い棘となって睡蓮の四肢を狙い、その花弁にはおぞましい口が開き、睡蓮の血肉を求めて襲いかかった。
アマン・デースの炎と、我邪丸の土、そして薔薇の棘という三方向からの属性の異なる攻撃に、体調不良の睡蓮は完全に孤立無援となり、絶体絶命の窮地に立たされた。
睡蓮を追い詰めている状況にもかかわらず、我邪丸とアマン・デースの間には内輪の対立が生じていた。
我邪丸は、アマン・デースの横槍に苛立ちを覚えた。
「邪魔すんなよな」
アマン・デースは、優雅に不満を返した。
「君こそ」
我邪丸は、自分の行動が童流からの正式な依頼であることを主張した。
「おいらは童流から直々にお願いされたんだぞ、この女を始末してこいと。お前は何なんだよ」
童流が、睡蓮を確実に始末するために我邪丸を派遣したことが明らかになった。
童流が、睡蓮を確実に始末するために我邪丸を派遣したことが明らかになった。
しかし、アマン・デースの行動原理は、依頼や任務ではなく、個人の美学に基づいていた。
「美しいレディがいたら口説く。私のポリシーだ」
アマン・デースは、睡蓮の命を奪うことよりも、彼女を追い詰めて楽しむこと、あるいは自分の支配下に置くことに興味があった。二人の悪魔の目的の不一致は、睡蓮にわずかな生存の隙を与える可能性を秘めていた。
アマン・デースは、我邪丸との対立を一時棚上げし、睡蓮に悪趣味な選択を迫った。
「なら、彼女に聞いてみよう。どっちに殺されたい?」
我邪丸は、自信満々に答える。
「おいらだよなぁ」
アマン・デースは、優雅に嘲笑した。
「私に決まっている」
体調不良と絶体絶命の状況に加え、二人の悪魔によるこの侮辱的なやり取りは、睡蓮の怒りを極限まで高めた
。
「貴様ら、二人まとめて地獄へ送ってやる!」
怒りの頂点に達した睡蓮は、状況を考えず、無闇に飛び出した。しかし、その衝動的な行動こそが、悪魔たちの罠だった。
睡蓮が飛び出した先には、巨大なガマ(業霊武)が口を開けて待ち構えていた。
ガマの粘着性の舌が素早く伸び、睡蓮の体を絡め捕った。
我邪丸は、興奮した様子で勝利を確信した。
「見ろおぅ。おいらを選んだんだ。見たか? アマン、お前じゃねえよ!」
睡蓮は、ガマに捕縛されたことで、身動きと反撃の機会を完全に失い、悪魔たちの手の内に落ちたのだった。




