009・目覚めと許可
「……ん?」
目が覚めたら、孤児院の寝室だった。
僕は、ぼんやり天井を見上げて、それから身体を起こしてみる。
すると、
「ユアン!?」
ちょうど部屋の戸口からこちらに入ろうとしていたアイネが驚いた顔をしていた。
すぐに駆け寄ってきて、頬を両手で挟まれる。
うにゅ?
「大丈夫、ユアン? どこか痛い所とかない?」
凄く心配してくれたみたい。
僕は「うにゅ」と頷いた。
彼女は安心したように息を吐いて、手を離す。
それから、僕がレッドウルフをやっつけたあと倒れたこと、その日からもう2日経っていることを教えられた。
(2日も?)
ちょっとびっくり。
そして、それを知ったからかわからないけど、
クゥゥ……
僕のお腹が鳴った。
アイネはキョトンとして、すぐにおかしそうに笑った。
「待ってて。食べ物、持ってきてあげる」
「あ、うん」
彼女は赤毛の髪をなびかせ、部屋を飛び出していった。
窓の外は、いい天気だった。
綺麗な青空が広がっていて、村の様子と遠くに森と山脈が見えている。
(……うん、生きてる)
それを実感した感じ。
キシッ
見れば、僕の『白い木の右腕』はいつものようにそこにあって、僕は左手でその表面を撫でてしまった。
…………。
やがてアイネが戻ってきた時には、みんなも一緒だった。
スープを食べながら、
「よかったな、ユアン」
「心配したんだぜ」
「ゆっくり食えよ~」
って笑いながら、ずっと話しかけられた。
僕も笑った。
みんなが無事だったこと、ちゃんと守れたことが嬉しくて、安心したんだ。
そうして僕らは笑顔の一時を過ごした。
◇◇◇◇◇◇◇
スープを食べ終わった僕は、院長先生の部屋に呼ばれた。
ドキドキ
ちょっと緊張する。
アイネからは、僕が眠っている間にしっかり怒られて、ちゃんと『魔物狩り』の許可をもらったって聞いているけど。
(僕だけ、また叱られるのかな?)
なんて不安に思ったり。
扉の前で深呼吸して、
コンコン
「失礼します」
院長先生の部屋に入っていった。
院長先生は正面の机の奥に座っていて、「いらっしゃい、ユアン」と微笑んだ。
……とりあえず、怒ってないみたい。
ホッと安心。
それから院長先生に勧められて、僕は手前の椅子に座った。
彼女は僕を見つめて、
「ユアン、体調は大丈夫?」
「うん」
僕は頷いた。
院長先生は「そう」と安心したよう息を吐いて、
「アイネから話は聞きました。でも、これからは自分たちだけで決めずに、私にもちゃんと相談しなさいね」
と、ちょっと叱られる。
僕は「……はい」とうなだれた。
そんな僕を見つめ、それから院長先生の視線は、僕の『白い木の右腕』に向けられた。
そして、
「ホーンラビットやレッドウルフを倒したと聞いたけれど、その右腕は、そんなに強いの?」
って聞かれた。
僕は少し考えて、
「ホーンラビットは簡単にやっつけられます。レッドウルフは、ちょっと大変だったかも……」
正直に答えた。
院長先生は、僕の話を聞いて考え込む。
「ユアン。もしよかったら、私にも、その力を少し見せてもらえるかしら?」
「うん、いいよ」
僕は頷き、椅子から立ち上がった。
(んん……っ)
メキメキッ
手のひらから『白い小剣』が生えてくる。
それを構えて、
「えい」
ヒュッ
僕の意思に反応して、『白い木の右腕』が『白い小剣』を振った。
目に見えない速さ。
「やっ、はっ」
ヒュッ ヒュヒュン
小剣の光が残像となって、空中に残っていく。
その風圧で、院長先生の服や髪がバタバタとなびいて、院長先生の目は丸くなっていた。
右腕の動きを止める。
てのひらに『白い小剣』を戻して、僕は椅子に座った。
(これでいいのかな?)
僕は首をかしげた。
見つめる先で、院長先生はハッとした顔をする。
「……す、凄いのね」
「うん」
「そう……これを見てしまったら、アイネの気持ちもわかるわね」
そう吐息をこぼす。
(???)
院長先生は、僕を見つめた。
「ユアン、貴方の力はわかりました」
「…………」
「無茶をしないのなら、これからも『魔物狩り』を認めます。でも、1つだけ約束してちょうだい」
約束?
キョトンとする僕に、
「その力で、自分とみんなのことを必ず守る……と」
真剣な声だった。
魔物の相手をするというのは、とても危険なことだ。
下手をしたら、命を失う。
お父さんやお母さんがいなくなってしまったように、僕自身が、そして、みんながいなくなってしまう可能性があるんだ。
だからこその言葉。
院長先生の、その強い思いが伝わってくる。
僕は大きく頷いて、
「はい、必ず」
そう約束したんだ。
◇◇◇◇◇◇◇
院長先生のお話が終わって、僕は部屋をあとにした。
でも、出る前に、
「ユアンの力は、本当にルナティア様からの祝福なのかもしれませんね。一応、『領都の大教会』にも報告させてもらいますね」
って言われた。
よくわからなかったけど、僕は「うん」って頷いておいた。
難しいことは、院長先生にお任せだよ。
部屋を出たら、廊下でアイネたちが待っていた。
「大丈夫だった、ユアン?」
叱られないか、僕を心配してくれてたみたい。
僕は笑って「うん、大丈夫だった」と答えて、みんなも安心したみたいだった。
それから、
「それじゃあ、ユアン。明日、またホーンラビットを狩りに行きましょう!」
アイネが小さな両手を握って、力強く言った。
目がキラキラしてる。
院長先生に許可してもらえたから、やる気に満ちているみたいだね。
僕は苦笑しながら、
「うん、いいよ」
って頷いた。