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シドの国  作者: ×90
カナデヤ一門

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292/305

291話 呪いの森

〜カナデヤ一門 呪いの森 (ラデック・ハザクラ・ジャハル・シスター・ゾウラ・レシャロワーク・ボブラサイド)〜


 背の高い広葉樹がどこまでも続く呪いの森。外から見ればどこまでも暗く、凶悪な獣が潜んでいるかのように不気味な静けさを保っている。


 しかし、一歩踏み入れば途端に視界は開け、散乱した太陽光が優しく辺りを包み込む。空では青葉がステンドグラスのようにキラキラと輝き、爽やかな葉擦(はず)れと鳥の(さえず)りが聞こえてくる。芳醇な土の匂いと、上質な魔力が豊富に含まれた、呪いとは無縁の幻想的な風景が広がる。


「でゅわ〜ん……! ノ・ロ・イ・ノ・モ・リ」

「レシャロワーク、それは何だ?」

「新しいマップ入った時に出るSE付きテロップ」

「聞いて損した」


 ゾウラの提案でレシャロワークが先頭を歩き、ハザクラとジャハルがそれを補佐する形で森を進んで行く。最後尾はゾウラとラデックが務め、戦闘能力の低いボブラとシスターを囲うようにして陣形を組んでいる。


「呪いのダイヤはこの森で採れるんだったな。ひとまずは奥に進んで行こう。(はぐ)れるなよ」

「見て見てハザクラさぁん。あの木めっちゃ動きそうじゃないですかぁ? 先制攻撃仕掛けましょ先制攻撃」

「人の声が聞こえても返事はするなよ。“死へ誘う声”が異能者の可能性がある」

「不自然に丸い木漏れ日ゾーン発見! Aボタンで調べてみよう!」

「呪いのダイヤを見かけたら触る前に教えてくれ」

「レシャロワークは命の木のみを見つけた! もぐもぐ……渋っ。最大HPが1上がった!」

「ラデック、こいつの声帯を封じてくれ」


 一行はレシャロワークの独り言にうんざりしながら進んで行くが、進めど進めど人工物らしきものは見つからない。何者かの声も、ダイヤも、呪いは(おろ)か人の痕跡すら出てこない。ただただ気持ちのいい森だけが続いているのみ。


 後ろの方にいたボブラがハザクラに呼びかける。


「おいハザクラ、道間違えてねぇか?」

「問題ない。ちゃんと方角を確認しながら歩いてる」

「そ、そうか? このままだと外に出ちまうんじゃねぇか?」

「森の中は方向感覚を失いやすい。俺とジャハルで互いに擦り合わせながら行くから安心してくれ」

「……わかった」


 だが、結局一行はそのまま森を抜けてしまった。道中不審な物は一切見つからず、体調に変化もなかった。


「人工物……いや、森を抜けただけか。立ち入り禁止の看板もあるな」

「はぁいはいはいはい。パーペキに解りましたぁ。順番通り進まないといけないタイプですねぇ」

「何か知っているのか?」

「え? 追い出される系の迷いの森って言ったらそういうモンでしょ。ゼノレダ伝説の森ダンジョンとか」

「聞いて損した」


 何の手がかりも得られなかった一行は、回れ右して再び森の中に戻ることにした。先頭ではハザクラとジャハルとシスターが案を出し合い、レシャロワークが役に立たない妄言を差している。


 しかし、最後尾にいたラデックは、今朝ボブラに言われたことが頭から離れずにいた。




「ずっと、別の使奴が付いてきてる気がすんだ」

「付いてきてる? いつからだ?」

「それこそ、お前達の仲間になった時にはもう既に。最初は仲間の1人かと思ってた」

「……見た目は? どこで使奴だと判断を?」

「いや、姿は見てねぇ。ただ、衣擦れだとか、足音だとかが時々聞こえるんだよ。誰かが通った気がしたり、そんなのがずっと続いてる」

「だとしたらデクスが気付く。あいつの異能は行為対象だ。感知範囲に対象行為があれば認知できる。それに警戒心が人一倍強いし。そうでなくともハピネスか使奴が気付く」

「だから怖いんだ。使奴もデクスもハピネスも気が付いてねぇようなヤツが、ずっとオレらの周りをうろちょろしてやがる……。そんなやつ、使奴くらいしかいねぇだろ? オレの気のせいならいいんだがよ……」

「その話、誰かに言ったか?」

「隙を見てイチルギとカガチとバリア、あとデクスとレシャロワークには言った。他の奴らにもいってんじゃねぇかな。気のせいとは言われなかったが、いかんせん確証がねぇからよ……」

「……イチルギが知らないなら、ヴァルガンではないのか……。(ちぬる)神社にそういうことができる使奴がいたが、だとしたら姿を隠す意味がわからないしな……」

「今のところは多分大丈夫だとは思う。サンキォン邸を出てから変なモンは見てねぇしな。その分ハピネス達が心配だけどよ」

「教えてくれてありがとう。俺も警戒しておく」


 ボブラの話を聞いて、ラデックはすぐに疑問が浮かんだ。その使奴は、何故見たら死ぬ絵を見ても平気だったのだろうか。もしラルバ達の後を付いてきていて、あの部屋で同じように絵を見たなら、その使奴も同じように動けなくなるのではないだろうか。だが、不審な人物の報告はない。


 その使奴は今どこにいるのだろうか。今もラルバ達と共にいるのだろうか。もしかしたらボブラが気付かないだけで、今も自分達の近くにいるのだろうか。





「おい、ラデック」

「え?」


 気が付くと、ハザクラが目の前にいた。


「考え事か?」

「あ、ああ。まあ、その、なんだ」

「どうした急に」

「ラデックさん」


 挙動不審なラデックに、シスターが声をかける。


「何だ? シスター」

「その件については気にする必要はなさそうです」

「え?」

「シスター? 何か知っているのか?」

「いいえ。私は何も……」


 彼は目を細めて小さく首を振る。そして、頭上に向けて指を差す。


「ただ、ハピネスさんがそう言えと」

「……そうか。覗き見と記憶操作を使えば、傍受されない通信魔法の代わりになるのか。他には何て言っている?」

「特には……。私も彼女の記憶を深く覗く勇気はありません。今回ばかりは見るなとも釘を刺されていますし、彼女なりに考えがあるのだと思います」


 ハザクラとラデックは不安そうに互いの顔を見合わせたが、ジャハルだけが手を打ち鳴らして進み始めた。


「ならば、ラデックの懸念事項は奴に任せて、我々はこちらに専念しよう」


 意気揚々と前に歩き出したジャハルに、ハザクラとラデックが早足で追いつく。


「ジャハル、ハピネスはあまり信用すべきじゃない。罠にかけられている可能性も考慮した方がいい」

「ハザクラの言う通りだ。ラルバさえ手玉に取る女だぞ、あいつは」

「そうだな。だが、奴は私達を殺そうとはしないさ」


 2人の助言にも、彼女は一切立ち止まらず前を見る。


「奴の目論見が外れるとしたら、それは私達が最善を諦めた時だ。奴は闇を照らしはしないが、奈落に先導することもない。最善の先に最良があるならば、どんな地獄でも渡りきって見せる」


 ハザクラは肩をすくめるも、無言で同意して前に歩き始める。歩き出さないラデックを引き摺って。シスターとゾウラもそれに続くと、レシャロワークだけがボブラに顔を寄せた。


「……ボブラさぁん、どっかで隙見て逃げませぇん? 多分鬼っすよ、この先」

「好きにしろ。オレは行く」

「えぇ……。何で皆覚悟キマってんですかねぇ……。信用すべきじゃないって話したばっかじゃない?」


 ずんずんと進んで行くボブラを呆然と見つめた後、レシャロワークは真逆の方向に肩で風を切って歩き出した。


「へっ! こんな薄気味悪いトコいられるか! 俺は部屋に帰らせてもらうぜ!」

「レシャロワークさんも行きましょう!」


 しかし、戻ってきたゾウラに捕まり、ビブラートのかかった呻き声を上げながら森の奥へと引き摺り込まれていった。




 薄らと汗ばんだ額を爽やかな風が撫ぜる。心地のいい草木の香りと、豊潤な魔力が疲労を剥がしていく。


「しかし、本当に気持ちのいい森だな。ピクニックしたい」


 ラデックがぼそりと独り言を口にすると、ゾウラが駆け寄ってきて手を合わせた。


「そうしましょう! 私、お弁当作ってきました!」

「おお」


 ゾウラは魔袋からサンドイッチを取り出して皆に配る。いちごやキウイを生クリームと挟んだフルーツサンドの甘酸っぱい香りが辺りに立ち込める。


「うまそう……。香りがすっごい。いや本当にすごいな?」

「袋の中で魔抜けしないよう、強化魔法をたっぷりかけてみました!」

「強化魔法でどうにかなるのか?」

「わかりません!」

「……まあいいや。いただきます。あむ、甘ぁっ!!!」


 サンドイッチを頬張った瞬間、ラデックは口を開けたまま上を向いて固まる。


「あま、甘ふぎう、おみ込めあいほご甘い」

「あらら。強化魔法って味にも影響するんですねぇ」


 レシャロワークも同じように上を向いたまま固まっており、何とか口の中のものを溢さないように震えている。


「あま、あま」

「れ、れっかまほうかけへくえ」

「はい!」


 ゾウラが2人に劣化魔法をかけて味覚を鈍化させる。すると、ようやく空を見るのをやめ、唇を尖らせて顔を歪めた。


「……味がしない」

「ほんのちょっぴり甘いくらいですねぇ。でろでろに溶けた味の無いガム食べてるみたい」

「そもそも、どうせすぐ食べるんだから魔袋に入れる必要なかったんじゃないか……?」

「そうでした! すみません!」


 横ではシスターが反魔法で強化魔法を打ち消してサンドイッチを齧っている。


「……うまいか? シスター」

「え、まあ、はい。強化を剥がせば普通のフルーツサンドですからね」

「俺もそうすればよかった! どうして食べ終わる前に教えてくれないんだ!」

「二口で食べ切るから……」


 4人がわいわいと騒いでいると、それを眺めていたハザクラにボブラがサンドイッチを差し出した。


「俺はいい。ラデックにくれてやれ」

「お前ら、わざとじゃないよな? さっきから」

「何?」

「サンドイッチ! ハザクラそれ要らないならくれ」


 ボブラは全員の顔をじろりと睨みつけてから、溜め込んだ苦悩のガス抜きで溜息を漏らす。それは決して呆れではなく、恐怖と困惑の混ざったものだった。


「はー……。何か考えがある……って顔じゃねえよな……」

「何に気が付いたんだ? ボブラ」

「……いや、後で言う」

「…………? 分かった」


 再び森の奥を目指して歩き出す。数分ほど歩いたところで、ボブラが茂みの奥に何かを見つけた。


「なんだ? ありゃ……」


 少し仲間から()れて茂みに入って行き近寄る。


 そこにあったのは、呪いのダイヤだった。


「マジで落ちてんのか……。おーい! ハザクラ!」

「どうした?」

「呪いのダイヤがあったぞ! ここだここ!」


 呼びかけると、皆がボブラの方に近寄ってくる。


「ほら、これだ」

「全然気が付かなかったな。どうしてこんなところに……」


 その直後。ボブラを除く全員が大きく姿勢を崩して苦しみ出す。


「がっ……!? ぐっ……!」

「ううっ……!!」

「お、おい!? どうした!?」

『なっ、治っ、治れっ!!』


 ハザクラが異能で不調を無効化する。しかし、自己暗示をも破るほどに苦しみが押し潰してくる。


『効かないっ!! 効かないっ!! 俺には効かないっ!!!』


 幾度となく自己暗示をかけ続け、漸くハザクラは苦しみから脱する。


「っはあ!!! はあっ!!! はあっ!!!」

「大丈夫か……!? ハザクラ……!! 他の奴らは……!?」


 心配そうにボブラがハザクラを見て、辺りに目を向ける。


 立っているのは、ボブラとハザクラの2人だけだった。皆、草木の上に倒れ込み、滝のような汗を流して気を失っている。死んでこそいないものの、改造の異能を持つラデックさえ目を覚ます様子はない。


「これは……一体……!?」

「助けて」


 突如、森の奥から声が聞こえる。


「何だ……!?」


「助けて」


「こりゃ……」


「起きて」


「“死へ誘う声”か……!!」


「おはようございます」


「嫌だ」

「ありがとう」


「ご飯」

「助けて下さい」

「お母さん」


「またね」

「行ってきます」

「おいしい」

「ありがとう」

「助けて」


「こっちきて」

「遊ぼう」


「遊ぼう」

「遊ぼう」

「遊ぼう」

「遊ぼう」

「遊ぼう」

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― 新着の感想 ―
姿を見せず着いてくる奴、ラッ○ーマンのファンを思い出す。 凄い伏線なんだろうな! ワクワク!
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