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シドの国  作者: ×90
ダクラシフ商工会

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285/304

284話 体で教えて見て学ぶ

〜ダクラシフ商工会 狗霽知(いぬばしり)大聖堂 光光コーポレーション社内空港〜


 数人の老人が、ワゴン車に揺られて滑走路を進んでいる。


「もう! ホント訳わかんない! どうして私達ばっかりこんな目に遭うわけ!?」

「ヤっちゃん落ち着きゃぁ……。そんにぎゃあぎゃあ喚いとったら、ワシらまで頭おかしくなっちゅうに」

「ダクラシフの連中も馬鹿ばっかりじゃな。悪魔郷如きに足元掬われるなんてのお」


 乗っていたのは、診堂クリニックから逃げてきた支部医院長の面々。診堂クリニックが人道主義自己防衛軍の傘下に入り、逃げてきた先のダクラシフ商工会もあっという間に陥落。今度は愛と正義の平和支援会に亡命しようと、配下にある企業のビジネスジェットで出国を図っていた。


 老人達はワゴン車から降り、ビジネスジェットの隣で待機している女性を小突いた。


「痛っ!」

「準備が遅いんじゃこのボケ!! 逃げ遅れたらどうする!!」

「い、いや、これでも急ピッチで……」

「やかましゃあ!!」

「痛っ!」

「口答えすんなボケ!! 言い訳ばっかすんな!!」


 わざと女性の足を踏みつけ、次々にジェット機の中に入って行く。その最中も文句を吐く口は止まらない。


「金もらっとんのだから、ちゃきちゃき働かんか。最近の奴らはほんと役立たんわ」

「ねぇ変な臭いする〜! 掃除したの誰〜!?」


 そうして最後の1人が乗り込もうとすると、外で待機していた女性が背中を蹴飛ばして中に押lし込む。


「ぎゃっ!!」

「ドラさん!! おい女ぁ!! お前何――――」


 バタン!! と勢いよく扉が閉められる。同時に、凄まじい刺激臭と共に眩暈が襲いかかる。窓越しに悪魔が笑う。


「悪い政治家は反省して、国は平和になりましたとさ。めでたしめでたし……じゃないんだよ! やっぱラストで悪者は死ななきゃ! 視聴者が納得しないよ!!」




〜???〜


 ジリリリリリリリリリ!!!


「はっ!!」


 目覚まし時計の音で、老人は目覚める。自分の状況を確認する間もなく、声をかけられる。


「おはよう、“ポーナー支部院長”」


 声のする“足元”に目を向ける。そこにいたのは、人道主義自己防衛軍総統、ベル・バルキュリアスだった。その隣にいるのは、診堂クリニック院長、ホウゴウ。ベルの方は薄笑いにも見える微笑みで、ホウゴウの方は今にも喉笛を切り裂かんと恨みのこもった眼差しを向けてくる。


 ポーナーは反射的に弁明を口にしようとしたが、視界に入った自分の体を見て言葉を失った。


 全裸で寝台に縛り付けられている。口元には酸素マスク、腕には点滴、その姿はまるで治療中の死刑囚である。


「な、なんだ……これは……!?」

「改正予定の“遺児隔離法”ですよ。ポーナーさん。ここはあの遺児隔離施設だった地下フロアです」


 ホウゴウは怒りに震える声を、必死に抑えてできる限り冷静に語る。


「ひとまず今は“特別刑務法”と呼んでいます。死刑囚を用いた医療協力の刑務作業。言葉を濁さず言うなら、死刑囚を使った非人道的人体実験です」

「は、は……!? な、何を馬鹿な……!!」

「馬鹿ですよ。ええ、大馬鹿です。でも、今までも何の罪もない障害児を閉じ込めて臓器だけ抜いて捨てて来たんですよ、私たちは。それに比べたら随分優しくなったと思いませんか? ねえ」

「そん、そんなことしてみろ!! 世界から爪弾きにされる!! 診堂クリニックはおしまいだ!!」

「へえ。罪のない子供を閉じ込めて殺すのは良くて、死刑囚の有効活用は反対するんですね」

「隠し通せると思うのか!? そんなことをして!! 決して許されることじゃない!! 考え直せホウゴウさん!!」


 ホウゴウはゆっくりとベルの方に振り返る。


「爪弾きにあうんですか?」

「まあ、されるだろうな。犯罪者だからと言って尊厳を踏み躙っていいわけではない。命は(すべか)らく尊ぶべきだ」

「では、このことは内密に」

「うん。わかった」


 ベルは一つ返事で頷き踵を返す。それと入れ替わるようにして、1人の少女がやってくる。


「ホウゴウちゃん、こんにちはー!」

「こんにちは、ニトちゃん。教科書持ってきた?」

「持ってきた!」


 この場に似つかわしくない幼気な少女は、ポーナーに向かってにっこりと笑う。


「初めましてー。元天邪終・闇喰達デンジャラスアングラーズのニトです! 今はお医者さん見習い! 今日はよろしくお願いしまーす!」


 そう言ってピースサインを頬につける。


「アタシ病気(シック)の異能者なんだけど、大疫病を治せるように今勉強中なの! それでね、鸚鵡(おうむ)症とか、義殺衝動とか、博愛譫妄(せんもう)とか、頭の病気みたいなやつは分かるんだけど、他のがよく分かんなくてね」


 彼女は教科書をペラペラと捲り、一方的に話し続ける。


柘榴腫脹(ざくろしゅちょう)とか、溺死病とか。指とかが腫れたり、喉が裂けちゃう病気ってのは分かるんだけど、腫れとか裂けるのって病気って言うより怪我じゃない? だから、そのへんの違いがまだ分かんないの。分かんないから異能でも治せないんだよねー」


 教科書をパタンと閉じて、ニンマリと笑いかける。


「だから、教えて欲しいんだ! 体で!」

「待て、待ってくれ。待っへくえ!! あえ?」


 喋り始めたポーナーは、口元の違和感に舌が回らなくなる。見れば、ホウゴウが天井から垂れ下がった紐を握ってこちらを見下ろしている。

 

「これ以上うるさくなっても敵わないし、まずは舌勃起(ぜつぼっき)から行こうか。今待機している患者数は8名。8回は失敗できるよ。ニトちゃん」

「了解!」


 舌の違和感が強くなってくる、ビリビリと痺れ、鼓動を強く感じる。


「まっへ……!! か、かおむかあ……!!!」

「これが舌勃起の初期症状。舌のぶつぶつが大きくなってるの、分かる?」

「うん。このまま膨らんでいくの?」

「そう。蛇に噛まれたり、蜂に刺されたときに腫れるのに似てるかな。血流が集中して膨らんでるんだよ。だから動かしづらくなって、極端に呂律が回らなくなる」

「へー。でもそれってぶつけたところが腫れるのと一緒じゃない?」

「原因がちょっと違うかな。防御反応として起こる炎症と違って、舌勃起は血管の伸縮性そのものにダメージを与える。だから冷やしても腫れが治ったりしないの。普通の腫れは体が血管を拡張させてるけど、舌勃起は血管が弱くなる毒を出してる……みたいなイメージかな。もう少し見てみようか」


 痺れが段々と痛みに変わっていく。心臓の鼓動が、まるで感電させられているような尖った刺激をした全体に突き刺す。


「…………!! ………………!!!」

「もう声が出なくなってるでしょ? これ、舌根が喉を塞いじゃってるから音が出ないの」

「息できてる? これ」

「できてないよ。だから舌を引っ張って口の外に出してあげないといけない。やってごらん」

「やだよ汚い」

「ほら、ペンチ使っていいから」

「うえー」


 ニトがペンチで舌を挟み、嫌そうに引っ張り出す。耐え難い激痛が舌に巻きつき、ポーナーは全身を痙攣させて白目を剥く。口からは3倍以上に膨らんだ舌が引っ張り出され、まるで鳥の嘴のように天井を向いている。


「うわ、硬っ。ゴム玉みたい」

「これで鼻呼吸はできるようになったはず。本当は鎮痛剤とかを打たないと命の危険があるんだけど、ニトちゃんにはその過程も見てほしいからこのまま行くね。結構グロテスクだけど、平気?」

「今更〜。平気平気! 血だの怪我だのは暴走族やってたときにいっぱい見てるから!」

「そう? 辛かったら言ってね? あ、ほら、舌にひび割れが出てきた。血が吹き出るから気をつけてね」

「はいはい〜。うわー痛そー」


 激痛と麻痺が同時に舌を包み込む。全身が痙攣し、目の前が暗くなっていく。


「あ、ちょい待って、なんか閃きそう」

「本当? わかってきた?」

「あー、あー……はいはい。腫れじゃなくて……あー、シャボン玉は膨らむけどストローは膨らまない的なー……? あ、理解理解。いけそう」


 そう言ってニトがポーナーに触れると、天に向かって隆起していた舌がしなしなと萎み始め、だらりと頬に垂れた。


「イケた! 完治!」

「治ってないよ……。舌は萎んだけど伸び切ったままだし、中の細胞もぐちゃぐちゃになってると思う……」

「それは怪我じゃない? すごい太ってた人も痩せたら皮が余るじゃん。手術でどうにかしてよ」

「回復魔法で……いや、ここまで傷ついてると難しいかな……。使奴なら治せるかもしれないけど、他の外科医でも対処できるくらいには治したい」


 未だ激痛に身を悶えさせながらも、ポーナーはやっと許された口呼吸で必死に酸素を取り込む。溢れ出る唾液に幾度も喉を詰まらせつつ、涙声で微かな命乞いの声を漏らす。


「か、かふけけ……ううひへ……」

「じゃあ、もう一回やってみようか」

「あいあいさー」


 目を見開いて涙を流すポーナーに、ホウゴウは冷たく言い放つ。


「死んでいった子供達に、この程度で顔向けできると思っているんですか? 貴方ごときの、高々あと7回の苦しみで、万の命に釣り合うとでも?」


 そして、その目は監視カメラにも向けられる。


「皆さんは幸せですよ。あれだけ罪のない子供達を虐殺しておいて、たった数度の地獄で死ねるのですから。その上、人類救済の一助にもなれる。これ以上の容赦がありますか?」


 控え室に拘束されていた支部長らは、その映像の前で身を震わせていた。舌を噛み切ろうにも、口に詰め込まれた装具がそれを許さない。


「指や耳の細胞が膨張し皮膚組織を破壊する柘榴腫脹(ざくろしゅちょう)。波導閉塞により喉全体が硬化して裂ける溺死病。子宮内での形成異常と妊娠に似た症状を引き起こす不知懐胎(しらずかいたい)。表情筋がゲル状に変質し皮膚ごと剥がれ落ちる溶顔病(ようがんびょう)。ニトちゃんが治せない大疫病はまだまだ多い。その他にも治せるようになってほしい病気は数多くあります。皆さんは、まだまだ人の役に立てますよ」

「支部長さんたちの死は無駄にしないからねー!」




〜ダクラシフ商工会 給冥(きゅうめい)エージェンシー クインテット・パレス併設ホテル"雲海" エントランス〜


「何やってんのよ馬鹿!!」

「ぎゃあ!!」


 イチルギがラルバの顔面に膝蹴りを入れる。


「有名人をこっそり消すな!! 誰が後処理すると思ってんのよ!! やるんなら後始末まで全部やんなさいよ!!」

「いいじゃん行方不明で」

「良いわけないでしょ!! あと何よ特別刑務法って!!」

「いやアレはベルちゃん総統の案だから私知らない」

「結局アンタも面白いって思ってんでしょ!? 2人して私の苦労を増やすなって言ってるの!! 人体実験なんか許されるわけないでしょ!! 常識的に考えて!!」

「別に常識的に許されると思ってやってないヨ……」


 怒鳴り声を聞いたハザクラとラデックが、何事かと駆けつけてくる。


「どうした。何があった」

「多分ラルバが悪い。謝れラルバ」


 話を聞いて、2人は渋い顔でラルバを睨む。


「なによ」

「まあ……ベルが許可したなら俺から言うことは何もない……ラルバの擁護はしないが……」

「うーん……俺には国家運営のことはよく分からないからな……。イチルギが良くないって言うなら良くないんだろう」

「ダメに決まってんでしょ!! 国家運営どころか人としてアウト!!」

「はー、まーた皆がいぢめるよ。ラルバちゃんは今日もひとりぼっち」

「そんなことより、カナデヤ一門に向かうと言う話だが」


 不貞腐れるラルバを無視して、ハザクラがイチルギとラデックに入国証を手渡す。


「ヘレンケルが言うには、“トマ”に恩を売っておきたいという話だったが、あちら側からの申し出もあったらしい」


 何もわかっていなそうなラデックのため、ハザクラが確認も兼ねて説明を始める。


「ダクラシフ商工会の国刀である、眠姫(みんき)ヤクシャルカの他に、比肩する実力者がいる。それが“トマ”、それと従者の“ピスカリテ”だ。この2人から、とある調査を依頼されたそうで、それが俺達に回ってきた。というわけだ」

「何をすれば良いんだ?」

「さあな。そこまでは教えてくれなかった。向こうもこっちを信頼しているようではないようだし、最初は信用を得るところから始まりそうだ。その辺はラデックに任せようと思う」


 ラデックはいつも以上にポカンとした顔で目を丸くする。


「俺? 何で俺なんだ?」

「適任だからだ。行けばわかる」

「分かりたくないな……」


 拗ねるラデックを渋い顔で睨みつつ、イチルギがハザクラに問いかける。


「もう出るの? 私少し仕事してから行きたいんだけど」

「わかった。こっちもそこまで長くかかることはないと思うから、急がなくていい。ベルによろしく」


 イチルギは嫌なことを思い出して顔を(しか)める。ベルは元よりイチルギ達とは異なる正義を志しており、議論が平行線に終わることを今から予感しているのだ。それをハザクラは気の毒に思いつつ見送る。


 それから数時間後、荷物をまとめたイチルギ以外のメンバーはカナデヤ一門に向かって出発した。道中通りかかった等悔山(ひとくいやま)刑務所跡地では、瓦礫の撤去作業をする労働者達が焚き火を囲み談笑をしているのが見えた。


 彼等は決してハザクラに感謝をすることはない。恩どころか、存在さえ知ることはないだろう。ハザクラもまた、知られようとも思わなかった。この先彼が救う者の殆どは、彼に感謝をしないだろう。それが彼の選んだ道であり、望みなのだから。

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毎回恒例拷問タイム やっぱりこれだよね
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