幕間 「目覚めた子」
それは、とても虚しさを感じるものだった。
喪失感……いや、何か分からない。
……寒い。
何かが抜けていくような感覚。
体の中から何かが奪われていくようだ。
奪われる?何を。
力が入らない。
この体は、どうなっているんだ。
『嫌だ……返せ!僕のだ!』
目の前を流れていく、誰かの姿。
変わりゆく景色の中、消えていく。
これは記憶……走馬灯?
それとも、今か?
分からない。
全て混ざって、曖昧に。
落ちていくような、飲み込まれていくような。
暗闇なんて生温い。
黒と呼べるものさえ、そこには、無いのだから。
怒っている?怖い?悲しい?苦しい?悔しい?
……安堵?
どうだろう?
それがなんと呼べるものなのか。
表す言葉も見当たらない。
何一つ、思い浮かばない。
思考すら遠く、薄く伸ばされているようだ。
この中に見える全てに敵うはずもなく。
ただ無意味に、ただ無気力になっていく。
そんな……感覚。
ただ、海の中を漂うプランクトンのような、風に飛ばされる塵のような。
何者でもない自分。
ふと、何かに触れられたような気がして振り返る。
……何もない。
ああ、そうか。
何も見えないし、何を感じているかすら分からなくなるこの空間。
見えないのは、当然だ。
感じないんじゃなくて、初めから実感していたんだ。
ここはきっと自分自身の中なんだ。
誰にも邪魔されない。
自分のための世界。
心の中。
何も感じないのは、全部、見えているからなんだ。
そう結論づけた時、無いはずの体が、見えたような気がした。
少しずつ、前に進んでいるように見えた。
通り過ぎていく?
違う、出ていってるんだ、自分の中から。
待って……。
置いて行かれる。
誰かは分からない。
ただ、それを止めないといけないことだけが、分かっていた。
必死に、もがいている。
目の前のその人を止めるために。
でも、この世界で、体を持たない者が、それに追いつくことはできなかった。
溺れていくようだ。
足を絡め取られ、より深く、より大きく、包み込まれていく。
邪魔だ。
僕に纏わりつくな!
一気に腕を振り上げようと意識した。
その瞬間、全身を包む、殻のような物が、割れたような気がした。




