8/15
8話
朝の電車。
いつもの位置。
悠星は自然に前に立って、りことの間にさりげなくスペースを作る。
もうそれは特別なことじゃなくて、当たり前みたいになっている。
⸻
りこはカバンを前に抱えながら、その背中を見る。
(今日もだ)
⸻
言葉にしなくても分かる。
自分が“守られてる側の位置”にいること。
⸻
電車が揺れる。
少し強めの揺れ。
人の流れが一瞬だけ押し寄せる。
⸻
でも、止まる。
⸻
悠星の背中で、きちんと受け止められる。
⸻
(……大丈夫)
⸻
前みたいに慌てない。
⸻
悠星は何も言わない。
ただ、少しだけ足の位置を変えて踏ん張る。
⸻
りこはその動きを見ている。
⸻
(こういうとこなんだよな)
⸻
特別なことじゃない。
でも、ちゃんと自分に向いている。
⸻
電車が次の駅に近づく。
少し人が減る。
距離がほんの少しだけ開く。
⸻
りこは小さく声を出す。
「……ありがと」
⸻
悠星は振り向かない。
「別に」
⸻
少しだけ間。
⸻
その声が、前よりやわらかい気がした。
⸻
りこは何も言わない。
⸻
でも――
⸻
(この人、やっぱり優しい)
⸻
その気持ちは、前よりはっきりしていた。




