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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
君咲優蘭と銀楼鈴音
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12月15日 これまでの日々これからの日々

スマホを使っている人ならお馴染みのあのアラーム音が僕の部屋で所狭しと鳴り響く。


非常に軽快なリズムなので、ついつい踊りたくなってしまう人もいるみたいだが、僕の場合こんな朝に踊りたくなるほど酔狂な性は持ち合わせて居ないため、半開きの目を擦りながら重い腰を上げベッドから降りる。


僕は以前目覚まし時計を利用していたがスマホのアラームの方が使い勝手がいいことに気付いてしまい、以降ずっとスマホのアラームをメイン目覚ましにしている。

と言っても今日は土曜日なのでそんなに早く起きる必要性は無い。

どうせなら一日中ずっと眠りにつき、女性に酷いトラウマを抱かされない世界線の夢に浸かって現実逃避していたいものだ。



しかし


今日だけは例外だ、僕は呑気に夢の世界にはいれない。

何故ならある約束ががあったから…








ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー







僕は義理の姉の凶行や、濡れ衣を着せられ責め立てられる地元から逃げる為に縁もゆかりも無いこの街『大桜区』へと引っ越してた。




早いもので僕がここへ来てから1ヶ月の月日がながれた。まだ齢15の若輩ではあるが歳をとる事に時の進みが早くなるというのはこう言うことなのかと痛感する。




この1ヶ月でこの街も、11月のどこか少し優しい寒さから12月の身も凍る様な寒さに様変わりした。

玄関を開けて外に出ると思わず手で肩を抱き寄せてしまう。


しかし、寒さは厳しくなったものの、暮らし始めて1ヶ月も経てばさすがに道に迷うことも無くなった。

この寒さの中何時間も外でさまよっていたら確実に風邪を引いてしまうだろう。


と、あたかも自分の努力で道を覚えたのかと思われるようなことを言ったが土地勘が着いたのも、毎日学校帰りに悠二君が道案内をしてくれたり色々な所へ連れていってくれたからに他ならない。


悠二君には感謝してもし切れない、間違い無く彼は聖人だ。


こんな僕に優しくしてくれる人なんて義理の両親と妹達しか居ない…



悠二君に教えて貰った近道を歩き、家の最寄り駅まで数分で着く。

時間には余裕があるがどんなイレギュラーが起こるか分からない念には念をだ、人を待たせる訳にはいかないからね。



息を吐けば空気中で白い靄になって散っていく。

うまく説明出来ないけど僕は何故かこの光景が好きなんだ、この靄は冬の刹那的な温かさ、そして厳しさを教えてくれているような気がするから…。


家の最寄りの着いた。

大きくも小さくもない何の変哲もないフツーの駅が僕の街の足を支えている大切な駅なんだから感慨深い。


と謎の感傷に浸りながらまだICカードに対応していない切符専用の古いタイプだけが置かれている改札口を通り駅のホームへ向かった。



そして10分に一度来る電車に乗り隣町へ向かう。



この街は娯楽施設などはほとんど無いが、隣町の「芝崎区」まで行けば映画館、ゲームセンター、ショッピングモールなどの凡その学生が放課後を満喫できる娯楽施設が揃っている。(尚、それも悠二君に教えて貰った)


この田舎同然の何も無い町から電車で一駅で着く場所なのにも関わらず街の風貌が大違いだったため驚いた。

娯楽施設やショッピングモール、アミューズメント施設そしてカフェなどが完備されていて平日休日問わず多くの人で賑わっている。





ガタンゴトンガタンゴトン



「………」


僕は電車に揺られながら1ヶ月間に出会った人や起こった事に思考を巡らせていた。






『悠二君』


金髪にピアス。一見ガラの悪い兄ちゃん。


しかし根は優しく僕に色々な事を教えてくれた。


一緒にゲームセンターへ行ったし、普段見ないようなヤンキー系の映画も見に行った。昼食の弁当も一緒に食べてくれた。


僕の親友だ。

悠二君はどう思っているか分からないけど、僕は悠二君のことを親友だと勝手に思っている。







『大桜高校での日々』


僕のクラスの人達はみんないい人ばかりで直ぐに打ち解け合うことが出来た。


勉強でも分からない所を教えあったりして転入してすぐにあった期末試験を問題なく突破できが、文化祭や体育祭などのイベントは既に終わっているという事実を知ったときは決して小さくないショックを受けた。

それにクラス替えも1年に1度きっちり行われるらしい。だから僕がこのクラスメイト達と共に学校行事に挑む、という事は未来永劫訪れないのだ。


こればっかりは仕方ないけど、この素晴らしいクラスメイト達と一緒に学生生活を謳歌したかったものだ。







このとおりクラスメイトとも打ち解け、男子の友達は沢山できたが相も変わらず…









1ヶ月経った今も女性とまともに話すことが出来ない。










プシューーー





電車のドアが開く。目的地に着いたみたいだ。


例の約束の主は隣町の駅のホームで待っていると今丁度LINEが届いた。


散々待たせる訳にはいかないと意気込んでいながら結局約束の人を待たせてる訳だから面目が立たない。


後で謝ろう…


芝崎の駅はそこそこ大きい駅なので、いつも多くの人がこの駅で降車する。

例に漏れず今日も電車から多くの人が足早に駅のホームへと出て行く。



…こんな人ごみの中彼女を見つけるのは至難の技なんじゃないか?

と考えつつも僕は人混みをかき分けて彼女を探した。




そう。


今日の約束の主は…


この1ヶ月で僕に大きな衝撃と救済を与えた女性。



『銀楼鈴音』



である。



「すいません、すいません」


と言い人と人との間を通り抜ける。


人混みをぬけると多くの人が待ち合わせ等に利用している、大広間のようなスペースがある。


当たり前だがここにも人が沢山居る…見つけるのは厳しいかも…



そう思った矢先、



ふと前を見るとなぜか彼女は僕の前に立っていた。






「こんにちは…君咲くん」




「っっっ!?」




戦慄した。



何故なら彼女が近付いて来た事に僕は一切気付かなかったからだ。寝首をかかれたかのような冷たい水をいきなりかけられたかのようなそんな感覚が僕を襲う。なぜなら、



全く彼女の気配を…感じられなかった。



「銀楼さん…驚かせないでよ」


「ふふふ…私得意なの、気配を消すの」


ニコッと白い頬を少し赤らめ笑う。




「…そ、そうなんだ」


…な、なんでそれで頬をあからめるんだ…


「君咲くんって面白いね、こんな驚き方されたの初めて」


銀楼さんにそう言われて自分のポーズに意識を移行するとムンクの叫びの様なポーズをしていた。


…めっちゃ恥ずかしい…


「…」


自分のしているポーズにも意識をやれないほど僕は困惑していたというわけか。いつもなら自分が名画のようなポーズをしていたらそりゃ絶対に気付くのに…


「約束の時間丁度に来てくれてありがとうね」


「いや、待たせてごめんね」


「フフ、いいよ…私が早く来すぎてただけだから」


「どんくらいにここに着いてたの?」


「…1時間くらい前かな」



いっ…1時間!?



銀楼さんの集合時間を絶対に守るという固い意思に衝撃を超えドン引きをしている僕の事など知らずに、銀楼さんは向こうを向き右手だけを僕の方へ差し出してきた。


「じゃあ行こっか」


「…あ…」


手を…繋ぐ…ということか?

だけど僕はその手を眺めるだけで、自分の手を繋ぐのを躊躇ってし呆然と立ち尽くしてしまった。


銀楼さんは、僕のトラウマによる弊害の効力を受けない。

顔にモヤがかかっていないし、喋っても動悸は激しくならない、至ってふつうの心拍数を維持できる。




ただ…


それは話したり銀楼さんの顔をただ見ている時や服の上で触れ合った時だけなのではないかとふと思ったからだ。



手を握るという行為をしたら…肌と肌が触れ合ったら…相手が銀楼さんでも僕はパニックに陥ってしまうのではないか。

ネガティブな思想は螺旋状の階段の様に僕の頭をぐるぐる回った。

僕は常に最悪を想像してしまう、それが悪い癖…



「早く行こうよ?」



「あ、ごめー」





刹那。僕の手を彼女の右手が包んだ。

蜘蛛の巣の糸のように張り巡らされていたネガティブな考えは銀楼さんの行動によって張り裂けてなくなってしまった。


手と手が触れ合あう。



「どうしたの?君咲くん」

たじろぐ僕を見て銀楼さんは可笑しそうにニコッと笑う。




その笑顔はまるで芸術作品の様だった。



かのミケランジェロででさえ、彼女のこの笑顔よりも美しい彫刻を作ることは不可能だろう


「ご…めん」


あまりに美しいその笑顔に僕は何も考えることも出来ずただただ流れに身を任せるように銀楼さんの右手を握る。


トラウマが起こることを恐れ僕は目をつむった、そして脳内でカウントする。



1


2



3



…あ、、


3秒経っても、

トラウマによる弊害は起きなかった。

すべては僕の杞憂だったのだ。



「うん大丈夫みたい」



「え?なんのことーー」



言葉を続ける間もなく僕はそのままま彼女に手を引っ張られ、駅の改札を抜ける。


彼女の儚げな銀色と街を歩く有象無象の人々とのミスマッチが何故か僕に切なさを運ぶ12月。でもそのミスマッチ何故だが美しくて…聖夜だなんだとほざいているこの季節も悪いもんじゃない…


そんなことを考えながら僕は彼女に手を引かれるまま、どこか胸に高揚感を抱きながら街のネオン中へ沈んで行った。







だけど







この時はまだ知らなかった、数時間後に起こる悲劇を。




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