11月19日 銀楼鈴音
ユウランサイドに戻ってきますー
「え?ユーランド、ドラハンやってたの?」
「うん、妹と一緒に狩る程度だったけど」
「うぉー激アツ!スレイヤーランクはどんくらい?」
「確か〜……500くらいかな」
「クソ強ぇじゃん!!」
「え、そうなの?」
「500くらいってオメーそりゃ強えよ」
「まぁでも妹とずっとやってたからなぁ」
はやいもので転校初日から今日で2週間が経った。
2週間同じクラスにいてわかった事だが悠二くんはめちゃくちゃ遅刻癖がある。
いつも早くて1時間目の終わりごろに教室に入ってきて、酷いときは昼休みに投稿するなんて日もある。
そんな悠二君だが今日は奇跡的に朝礼前に登校していて、正門前でばったり会った。
そのため一緒に教室へと向かっているのだが、意外や意外その道中で『ドラゴンハンター』通称ドラハンの話題となったのだ。
どうやらドラハンの拡張追加コンテンツが昨日発売したらしくそれを徹夜でやっていたため"逆"に朝礼前に登校する事が出来たのだという。
悠二くんもゲームをするんだと言う親近感を得た後に、寝なければ遅刻しないという最強のパワープレイに住む世界の違さを感じると言う、情緒が言ったりきたりする特殊な状態に戸惑いつつ……共通の話題であるドラハンの話に花を咲かせていた。
ドラハン……いや……ゲームを触ると真衣の顔を思い出す。
あの汚いメガネ、まだつけてるのかな。
いつも夜中までゲームに付き合わされて、2人で寝落ちして……真奈に叱られる。
あの日々がどれだけ幸せだったんだろうかと考えずにはいられない。
いや、やめろ。
考えたところで虚しいだけだ。過去は……戻ってこない。
今はこの大桜高校で、出来ることを探すんだ!!
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「よーし到着っと」
「う……ハァ……うん」
転入してから2週間が経って尚いまだに心臓破りのド級階段
に適応することは無く、僕の体は登る度に悲鳴を上げている。
「はぁ〜ん疲れてんな?そろそろ慣れろよ!」
バチン!!
「アッっ!?」
そんな貧弱な体に喝を入れるかの如く悠二君は僕の尻を勢いよく叩いた。
まるで尻が真っ二つに割れてしまったのではないかと言うほどの痛みが尻全体にパリパリと広がっていく。
「……ユーランド……なんで感じてんだ?」
「な、なにいってるんだよ!」
確かにびっくりして変な声を出しててしまったものの感じてなんか居ない。
全く……人聞きの悪いことを言わないで欲しいものだ。うん。
「変なこと言わないで教室入ろ」
「へいへーい」
ガラララララ
僕は教室の後ろ側のドアを開け教室に入った。
ん?
朝のホームルーム前というのはいつも、皆がある程度教室中に散らばって各々思い思いに会話をしているが。今日は何故か『ある席』を中心としてそこから半径5メートルほどに誰も人がおらず、男子も女子もみんな教室の端の方に固まって話をしている。
「うっ……」
「?」
「あいやなんでも……」
「……大丈夫か?」
教室を見回した時に複数の女子が視界に入ってしまったため、心臓がきつく締められるような痛みが襲う。
でもそんなことよりも、どうして皆端っこに固まって話をしているんだろう。
「なんかあったのかな」
謎は新参者の僕一人だけじゃまず解けない。
ここは1度、悠二君の力を借りる。
「あー、珍しくあいつがきてんだよ」
「え?」
『あいつ』って一体ーー
「お前の隣の席のやつ」
「え?」
「名前はーー『銀楼鈴音』」
「!!」
『銀桜鈴音』
座席表を確認した時に、僕の席の隣にあった名前だ。
しかし彼女は滅多に学校に来ないようで、2週間目にしてようやく今邂逅を果たせた。
しかし、こういうのもあれだが女の人の顔を見るだけで頭がおかしくなってしまうボクにはむしろ休んでくれていた方が好都合だったりする。
彼女が隣にいる限り授業中に隣の人が視界に入ってこないようにしなければいけない努力をしなくては行けなくなるから、今よりさらに授業にまわせる脳のリソースが少なくなってしまうだろう。
それにしても、不登校気味でクラスから腫れ物扱いされているというのはどこか僕に通ずる部分を感じる。
その苦しみを語り合うことは決してできないけれども。
「……だから、あんな腫れ物みたいな感じで……」
「まぁそれもあるけどよ」
「え?」
悠二君は腕を組み、眉毛に力を入れ目を見開きこちらを見てる。
「すげぇ美人だから皆近づけねぇんだ……」
「……あ……」
そゆことかーーーーーー。
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そして自分の席に着く。とりあえずトラウマの効力を食らう前提で挨拶をしなければ、第一印象はよくしなければいけない。
「僕、君咲っていいます、よろしくね」
「はい」
掠れて今にも消えそうな声で隣の人はそう返事をした。
よし、挨拶は済んだ。
一限目は……英語か。
一限目からカロリーの高い英語の授業を受けて、昼休みまで僕の体力は持つのだろうかと一抹の不安を抱きつつ鞄から英語の教科書を取り出す。
「……え?」
なんで僕は今、平然と英語の教科書を取り出して…机に並べているんだ?
僕は……今、隣の女の子に話しかけたのに?
え、あれ?もしかして僕……トラウマの効力を……受けてない!?
いつも、女の人と会話したら『心臓に痛みが走る』『呼吸がくるしくなる』『激しい目眩がする』などの症状がでてくる。
なのに今……体にはなんの症状も出ていない。
女の子である『ぎんろうさん』に話しかけたのにも関わらず、だ。
もしかして銀楼さんは女の子じゃなくて男の娘なのでは?と一瞬くだらない想像をしてしまうが、隣の人から発せられた声は男の娘であろうと出すことは困難な、か細く、繊細で…そしてどこか落ち着く音色を孕んでいる紛うことなき美しき声色だった。
『ぎんろうさん』は間違いなく『女の子』だ。
なぜ、女の子に話しかけてもトラウマの効力が発動しなかったのだろうか。
初対面の女の子に対して、実験を行うようなことをして申し訳ないなと思いつつ恐る恐る視線をぎんろうさんに移していく。
「……」
「……」
「……ぁ」
その時、僕の視界に入ったのは。
背筋をピンと伸ばした気品のある座り方をし、その美しい銀色の髪を目にまでかけ、その髪の隙間から見える赤みを帯びた黒い瞳は見るもの全てを魅了するかのようにさえ思えてしまう。
そんな美しい瞳は間違いなく僕の心臓を射抜いていた。
「.....どう...して?」
思わず声が漏れる。
隣の人は女の子なのにどうして顔が黒く塗りつぶされたかのような不気味な顔になっていないんだ?
もしかして、トラウマが解消されたのか?
教室中を見回す。
いや……クラスの女子にはいつも通り黒いモヤがかかっている。
一体……なんで……?
僕が唐突に降り掛かってきた『疑問』に困惑していると
「どうして...?」
目を見開き、こちらを凝視していた彼女もそう呟いていた。
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放課後。
「ユーランド、銀楼のコト気になっちゃた?」
「!?」
これで一日の授業が終わったと安堵し、ボーッとしていたらいきなり悠二君が爆弾をぶん投げてきた。
...?
「ぎんろう?」
ぎんろうとは誰のことなんだろう、、隣の席...?
「お前の隣に座ってる女の子だよ、珍しい銀髪のーー」
はっと思い返し、悠二君の言葉と同時に僕は隣の席を見る。
そうだ...この人だけは『例外』なんだ!!
「お、その反応は図星ってことかー?」
「うっ...あっちが…」
「へぇー銀楼のこと気になってるのか〜」
反論したいけど言い返せない。
四捨五入したら悠二君の言っていることは真実を捉えている、これに反論すれば逆に墓穴を掘ることになるだろう。
「だけど銀楼はやめた方がいいぜ?だってーー」
「え?」
そう言いかけると悠二君は何かに気づいたのか急に口を抑え言葉を遮った。
「いや!...まっそういう事だ、やるなら頑張れよーユウラン!!」
そう言うと悠二君はぐっとボーズを決め、ニヤニヤしながら教室を後にした。
嵐のような悠二君が去っていったあと、僕はというと呆然とその場に立ち尽くしていた。
ぎんろう
ぎんろう
ぎぃんろぉう
ぎぃいぃんろぉぉうぅぅ
と、
そのワードが僕の頭で永遠に再生されている。
そうだ...
この人だけは...
僕の視界から見える女の人は全て乱雑な黒色によって塗りつぶされている。
しかし、『ぎんろうさん』だけは何故かその効力を受けていないのだ。『ぎんろうさん』の顔は黒く塗りつぶされてるどころかモヤひとつない。
これは何かの間違いなのではないかと隣の席に座っているぎんろうさんを凝視してみるが、トラウマに塗り尽くされた僕の汚れた目でも彼女の光を含んだ銀発の輝きも、ルビーのような瞳も、整った顔も全てが鮮明に視える。
間違いなんかじゃない…
「どうなっているんだ...」
思わず声が漏れた。
僕はさらに彼女を見る。
彼女のその姿の美しさは言わずもがな、それに加えて光を失った宝石のような瞳と触ったら全てが崩れてしまうようなその儚さが彼女の魅力を増幅させている。
彼女の放つ、散る前の桜のような儚げな魅力に僕は囚われてしまった。
「……」
「あっ…」
ぎんろうさんの魅力に囚われてしまった愚かな僕の視線に気づいたのか、ぎんろうさんが気まずそうな顔をしてこちらに向いてきた。
あ...見すぎた。
と、内心後悔したけど『ぎんろうさん』とコミニュケーションが取れるチャンスかもしれない。
何故『ぎんろうさん』は僕のトラウマの効力を受けないのか。
その答えを知れれば僕の狂ってしまった人生はまだやり直せるかもしれない。
でも…どうやって話を切り出せばいいんだ?
しょ…初対面だし……
お互い目を合わせたまま沈黙が流れる、どうしよう…気まずい!!
沈黙の時間というものは1秒がとても長く感じる。
時計の秒針の進む速度は絶対的に一定であるはずなのに何故かスローモーションになったような気分に陥る。
どうしようどうしようどうしようーーーー
しかし、静寂は僕の予期しない形で打破された。
「...貴方はおとこ?」
「え…?」
僕がどうやって話しを切り出そうと考えていると彼女の方から言葉を発した。
その言葉は不意打ちのようなものでなんて話しかけようと迷っていた僕の全ての思考を砕いてきた。
これが所謂、思考停止と言うやつか…
「...おとこ...だけど?」
彼女の意味不明な質問に答える。
というか男じゃないのならなんなんだろう?男の娘だとでも思ったのだろうか。
「そう...なんだ」
「…どうして、、そんなこと聞いたの?」
「...」
僕がそう問いかけると、彼女は下を向き何かを考え込むように黙り込んだ。
また沈黙が流れる。でもさっきの沈黙とは違う。
何かが始まるという予感が僕の胸に漠然した形で現れ、さっきの沈黙には無かった高揚感と期待感に僕の心は包まれていた。
だから僕は不思議と、この沈黙を少し心地よく感じた。
数分考えたあと彼女は決心したかのような顔をしこちらを向いた。
「私の名前は銀楼 鈴音」
「…うん」
「あなたについて知りたいことがあるの」
「..……….え……?」
予想もしていなかった言葉に僕は混乱した。
知りたい...?僕のことを?何故?
そんな考えが次々頭の中を駆け巡る。
……だけど僕の口から出た言葉は頭の中で考えていた言葉の語群の中にはない物だった。
「僕も...君のことを知りたかったんだ」
自分でも予想してなかった言葉。脊椎反射で言葉が出るといった経験は今までしたことが無い…
…銀楼鈴音
彼女との出会いが、僕の運命を変えることになるのをまだこのときのーーーー僕は知らない。
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