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僕と君は愛せない  作者: 和茶 わさび
狂るいはじめる愛情たち
40/42

4月6日 あれから

重苦しい空気が纏う春の陽気。



月日が経つのは早いもので色々な出来事が起こった三学期も終わり、新たな学年が始まることに誰もが胸躍らせる「通称・最高の待機時間」なる春休みに突入した。



閑散としていた大桜区名物である桜並木もその彩りを取り戻し、鮮やかなピンクに染まった桜道は多くの人々を賑わせている。



僕自身大桜区に来たのは去年の11月のため、まだその大桜区名物の満開の桜を自分の目に写したことは無い。


悠二くんやクラスメイト達から桜並木の美しさについて何度も説かれたことがあるから僕の期待は想像以上に膨れ上がっている。


いつかはこの目でその真相を確かめたいものだ……。











コンコンッ





おにぎりと味噌汁をのせたお盆を片手に僕は部屋のドアをノックする。




……返事は無い。



「開けるよー」



その宣告にも返事は無いが、僕はドアを開ける。





「……朝ごはんだよ」










「銀楼さん」











ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




今から約1か月前、僕達は悲劇に見舞われた。





それは僕がこれまでの人生で見舞われてきたどんな悲劇よりも凄惨で、悪辣で……僕達の心をいとも容易く壊してみせた。





それは1ヶ月、あの日のこと。



真奈から事実を告げられた僕は急いで病院を出た。



『……姉さんが近くに来ている……!!』



そして最悪なことに僕の家の場所もバレている。


僕は銀楼さんに危害が及ぶことを想像し、居てもたってもいられなくなり足の爪が割れて血が出ていることに気付かないほど一心不乱に走った。


自分が姉と対峙したと気に何ができるのか、トラウマに当てられて喚き散らかして気絶して……また玩具に逆戻りしてしまうのか。そんなネガティブなことを考えなかった訳じゃないけど、そんなことよりも銀楼さんに危害が加わることの方が何倍も僕には辛かった。



理由は分からないけど、僕は…銀楼さんが姉さんに立ち向かう理由になるほど大切な存在になっているのが嬉しかったんだ。





しかし





アパートに着いた頃には、僕の部屋にはバリケードテープが貼られ、アパートの下には何台ものパトカーがサイレンを鳴らしながら止まっていた。





そう、全てが遅かったんだ。






僕の最悪の想定は、見事に的中していた。


その日から銀楼さんとの連絡は取れなくなり、事件現場となった部屋には帰れず、当然学校にも行けず漫画喫茶に寝泊まりをし、重要参考人として警察署にて取調べを受けに行くという毎日が続いた。


そしてもちろん銀楼さんが警察署にて拘束されているという情報だけしか僕の耳には届かず何も分からない状況。


銀楼さんと全く連絡が取れず精神状態や体調、そして何を思っているかも全く分からない。


何も銀楼さんのことが分からず、その傷に寄り添ってあげられず、なにより銀楼さんのすぐ隣に居てあげられないのが一番苦しかった。



まさに地獄の日々だ。



僕が全てを知ったのはその生活になってから2週間がたったある日の事だった。



いつものように警察署に呼ばれた僕は、刑事の方から全ての取調べが終わったと伝えられやっと事件の全ての真相を明かしてもらえる運びとなった。






あの日僕の家は2日をかけて合鍵を作った姉に入り込まれていたこと



真奈をあんな目に遭わせたのは姉さんだということ。



姉と遭遇した銀楼さんは激昂した姉に命を極限まで脅かされ、自身を守るために割れたカップの破片を姉の喉元に突き刺したこと。


そして…姉の意識は未だに回復していないこと…。



言葉につまるような、現実味の無い言葉がつらつらと刑事さんの口から語られる。


真相を知れたのはいいものの、そのあまりに惨憺たる真相を前に僕は今まで感じたことのない絶望を感じたんだ。





真奈が傷つく時も、銀楼さんが傷つく時も…







なんで僕は…そばに…いてあげられない……。




この日、僕はあまりの自分の非力さに消えてなくってしまいたいと本気で思う夜を過ごした。


でも僕なんかより…銀楼さんと真奈は苦しんでいる。

僕が被害者ぶってネガティブな感情に押し潰され出る場合じゃない…!



そして僕の使命は銀楼さんと真奈を立ち直らせることだと理解したんだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




銀楼さんに目立った外傷はなく姉は意識不明の重体であることから、元々は銀楼さんによる殺人未遂事件として捜査をしていたため銀楼さんを第一容疑者として拘束していたらしいのだが

捜査を進めていくにつれ、姉・君咲真彩の異常性と妹・君咲真奈の事故も君咲真彩の起こした殺人未遂事件だということが明らかになり、銀楼さんの行動の正当性が認められ取り敢えずの自由が与えられることになった。



刑事さんから真相を話された翌日、僕は銀楼さんの身元受け渡し人として署に赴き2週間ぶりに銀狼さんと再開することが出来た。


しかし、2週間も署に閉じ込められ、男性恐怖症の身でありながら朝から晩まで『男』に尋問され、そして何より自分の手で他者の命を死の淵に立たせてしまった罪悪感から、再開した銀楼さんはやつれ切っていてまともに話せる状態では無くなっていた。



銀楼さんの頬は痩け、目の下にはクマが出来ており、光も透き通るような美しい銀髪は縮れてクシャクシャになっていた。



『銀楼さん…』



『ゆう、、らん?』



『銀楼さん!!』



ぼくは涙を流しながら銀楼さんに駆け寄り抱きしめた。


涙の理由は分からない。

変わり果てた銀楼さんの姿をみて哀しくなったのか。

離れ離れになっていた銀楼さんと再会出来たからなのか。

自分の無力さを嘆いたのか。



選択肢を出し、国語のテストのようにその時の自分が抱いていた適切な感情を当てはめようとしても上手くいかない。


ただただ僕は銀楼さんを強く抱き締め人目をはばからず泣いた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



これが今から二週間前の話。




今の銀楼さんを1人にするということの危険さと、すこしでも安心を与えてあげたいという理由であの日からずっと僕の家に泊まってもらっている。



と、言ってもそう簡単に傷は癒えるはずもなく、いまだに話すことはおろかベッドの上からたつことすらもままならない状況だ。




「銀楼さん、ごはんだよ」



「……………」




僕が語りかけても銀狼さんは虚ろな目で空を見つめるだけ。銀楼さんは僕に反応すら示さない。



愚かな僕は、人と話すのが銀楼さんの今の精神状態じゃ不可能だから反応は示さないだけで、ご飯自体は食べれるはずだと考えていた。

そのためお盆をベッドの横にある机に置いて部屋を去ったのだが。


昼食を運びに寝室に入った時に全く手がつけられずに冷えきってしまったご飯が、机の上に置かれていたのを発見した。



銀楼さんは全くご飯に手をつけていなかったのだ。



そこで僕は考えを改めた。




僕の考えは甘かったんだ。

銀楼さんの傷の深さを見誤っていた。



僕がご飯をよそって食べさせてあげるしかない…!



僕はスプーンによそったスープを銀楼さんの口元に運ぶ。




しかし、銀楼さんはそれにすら反応を示さなかった。



口元で放置されていたスープは自身の出る幕では無いと悟ったのか急激に冷めていく。


僕も強ばらせていた腕が限界を迎えたのでスプーンを食器の上に戻す。





…これでも…反応を示さない…?



どうすれば………



銀楼さんの姿を見る。


銀楼さんは元から華奢な体格ではあったが、今の銀楼さんは皮の下の肉が無くなり骨だけで体を構成しているのかと錯覚させるほど痩せきっていて、綺麗だった爪もカサカサになっている。



こんな状態でご飯を食べずにいたら、本当に栄養失調で死んでしまうのではないだろうか…




…っ……どうすれば………





……あっ……これ…なら…




その時僕はある一つの方法を思いついた。




その時覚悟したんだ。



銀楼さんの傷と向き合うことを。



そして……自分のトラウマによる弊害を受け入れることを。






『銀楼さん隣、座るね』




僕はベッド横になっている銀楼さんの隣に座り、銀楼さんの背中の下に手を入れ上半身を起こした。


いきなり上半身だけ起こされた銀楼さんの体はまるで

骨組みのしっかりしていないソフビ人形のようにふにゃふにゃと揺らめいている。


そんな銀楼さんの方をガシッと掴み僕の方に寄せる。


僕の顔のすぐ隣に銀楼さんの顔がある。



ドキドキと心臓の鼓動が聞こえてきた。



これしか…ないんだ…銀楼さんなら……きっと……受け入れてくれる。



トラウマに負けて銀楼さんに怯えてた僕を…銀楼さんは受け入れてくれた。どんな僕でも…きっと受け入れてくれる。





僕は自身の口にスープを含み、半開きな銀楼さん口を親指で開きそのまま口移しでスープを喉へと押し込んだ。


「おえっ、」



いきなりでびっくりしたのか、銀楼さんの嗚咽が部屋に響く。

罪悪感に押しつぶされそうになったがその直後、ゴクッとスープが銀楼さんの喉を通過した合図が聞こえてきた。




あぁ…やっぱり、口移し…なら…。食べてもらえる。




一縷の希望にすがった僕は、見事ギリギリのところでその希望を掴むことが出来た。



口からはみ出していた僕と銀楼さんどっちのものかもわからない唾液を拭い、もう一度口にスープを含み銀楼さんの口内に流し込む。



「おっ、えっえ」




銀楼さんは苦しそうに手足をパタパタとさせる。



「ごっ…ごめん!」


トラウマが発症したのかと僕は焦り、銀楼さんから離れるがそのあとにゴクッと飲み込む音が聞こえ銀楼さんはゆらゆらと揺れ、僕の胸元に自身の体を預けてきた。



…嫌がってる…訳じゃない…?


あ、…僕の口に含む量が多すぎて…喉が詰まっちゃったんだ。



「ごめんね、銀楼さん…ゆっくり、ゆっくり食べようね」




銀楼さんにご飯を食べさせる方法を見つけ、気持ちが逸ってしまった自分自身を律しゆっくりと少しずつ銀楼さんの口にスープを流し込んでいく。



途中から僕が手を加えずとも、銀楼さんは口を開けて僕を待ってくれていた。




「銀楼さん…愛してるよ」



スープを全て流し込んだあと、僕は銀楼さんの頬にキスをしそのまま唇にもキスをした。


銀楼さんがこれから先立ち直れなくて、一生この生活が続いたとしても…僕は銀楼さんを愛し続ける。そうしなきゃいけない。




それがどんなに辛い道だとしてもーーーー








そう、これが2週間前の出来事。




「…銀楼さん、隣…座るね」





銀楼さんは頷かない。




「今日の朝ごはんはね、鮭のおにぎりと豆腐の味噌汁だよ」



銀楼さんに返事は無い。



「おにぎりの塩加減、銀楼さんの好みに合わせてるからね」



僕の料理に、喜んでくれていた銀楼さんはもう居ない。




だけど、それでも





「じゃあ、準備はいい?」





銀楼さんを支え続ける。






それが僕の生きてる意味であり…使命だ。






鈴音が精神崩壊をしてしまったのは優蘭の予想通り、劣悪な環境下での取調べを男性恐怖症のみでありながら2週間以上受けたこと、そして自分の手で君咲真彩の喉を切り裂き生死不明の大怪我をおわせてしまった罪悪感から来ています。

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