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僕と君は愛せない  作者: 和茶 わさび
狂るいはじめる愛情たち
39/42

3月3日 深淵の感情

少しだけタイトルを変えました!

「はぁっ……はぁっ……ぐっ」


目を見た瞬間、直感でわかった。


私の目の前にいるこの人は優蘭の……お姉さんだ…



な、なんで優蘭のお姉さんがここに……!




「そんなに呼吸を荒くしてどうしたの、私ほどじゃないにしても美しい顔が台無しよ?」



お姉さんは私の下ろしている髪を耳にかけ、頬を舐める。


「えっ……あっ……」



「フフフ、そんなに動揺してどうしたの?まさか緊張してるのかしら?」



っっ……どういう事だ。


今のこの状況に私は全くついていけず、置いてきぼりを食らっている。


1から情報を整理しよう……


部屋の鍵を開けて……中に入ったら何故かハイヒールがあって……そこにお姉さんが居た。


ダメだ、状況を整理しても尚理解が追いつかない。


そもそもなんでお姉さんがこの部屋にいるんだ。




……優蘭はあまりお姉さんのことを話さない。


けど話してくれたその全てがお姉さんのその人間的な醜悪さを端的に表すものだった。


優蘭はお姉さんを心の底から嫌悪していた。

そんなお姉さんがなんで優蘭の家に……


「あ、自己紹介が遅れたわね。私はユウランの姉の君咲真彩よ」


…や、やっぱりそうだ……


「銀楼鈴音と申します、よろしくお願いします」


「フフ、美しくていい名前ね」


「あ、ありがとうございます」


一応の形式として手を差し出すが、その手は取られることはなく



「ここで話すのもあれだし中に入って、フフおもてなしの用意はしてあるわ」



「え?…………は、はい」



お姉さんはまるで自分の家に友人を招くような素振りで私をリビングへと誘った。




あれ……ここ……優蘭の家……だよね……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一刻も早くここから立ち去りたい気持ちはありつつも、誘われるがままにリビングへと向かう。




「え……?あ……すごい……」



リビングに着き、その光景を見た途端思わず賛辞の言葉が零れる。


いつも私達が過ごしていたリビングがまるで貴族が過ごしているかのような優雅な空間に生まれ変わっていたのだ。


テーブルには装飾が施されたテーブルクロスが敷かれ、その上にはクロワッサンなどのパン類が並び、椅子なんかは今までの無地の椅子ではなく煌びやかな荘厳たる椅子に生まれ変わっていた。


心做しか鳥のさえずりまで聞こえてくる。




「フフ気に入ってくれたようで何よりだわ」




「……は……はは」



この装飾が素晴らしいものであるということは認めるが、これは優蘭の許可を取ってやった事なのだろうか。


優蘭が話してくれた情報から構成されたお姉さんの人物像からは到底許可を取るような人だとは思えない。


この人は……優蘭気持ちを踏みにじって自分の玩具にした最低最悪な人間……。



……この人は一体……何が目的なの……




「フフ、何立っているのよ座っていいわよ」



「っ……あっ……はい……」



「貴女には話があるの」


お姉さんの漆黒の瞳には全てを見透かすような何者も抗えなくさせる力でもあるのだろうか。

私は自分ではない何者かの意思に体を勝手に動かされ、押さえつけられるかのように椅子に腰を下ろす


お姉さんも椅子に腰ろし、パンを挟んで優雅な茶会……


と、なる雰囲気ではないか。


私自身、お姉さんのことを警戒しているのもあるけどお姉さんも私に対して何か怒っているかのような、そんなオーラを纏っている。


……恐らく……優蘭と交際しているということを何らかの形で知って、激怒していると言った所だろうか。

あんなことしておいて何様だという話ではあるけれど。


「貴女……ユウランとどういう関係なの?」



お姉さんは静寂を打破し口を開く。


「あ……どういう関係?……一応……お付き合いさせて頂いてる形ではあるんですけれど……」


「……」


ピリッ


私が質問通りに優蘭との関係を説明した途端、ただでさえ重かった空気がさらに沈む。


お姉さんの纏う禍々しいオーラがより一層黒色に染まって行く気がした。


「やっぱりそうなのね……」



「はい?」



「貴女についてユウランから聞いてることがあるの」



一呼吸置く。


優蘭がお姉さんに私のことを話してる?



そんなハズーーー




「何回も振ってるのにしつこく付きまとってきて迷惑してるって」



「……え?」



「優蘭は誰にでも優しいから勘違いさせてしまったんだろうけど、姉として貴女に忠告するわ、これ以上優蘭に近付かないで。ほんと誰にでも優しくする癖直しなさいって言ったのに」



「……え?」



「分からなかったの?これ以上ユウランに近付かないで、優蘭と私に迷惑をかけないで」



「えっ……いや……どういうー」






何を言っているんだこの人は。





優蘭が、私の事を迷惑な存在だと思っている?


あまりに唐突な展開すぎて、私の低スペックな脳内CPUじゃ理解が追いつかない。


そもそも優蘭がそんなことを言うはずがない、……この人は私と優蘭を引き裂くために嘘をでっち上げている。


……なのに……なんでこの人こんなありもしない妄言をあたかも真実かのように語ることが出来るんだ。

テーブル越しに私を射抜くその眼光は嘘ひとつついていない人間のそれだ。


その人間を超越してるかの様な言動に恐怖を通り越し

て尊敬の念さえ産まれてくるからおかしなものだ。


……今はとりあえず少しでも多くの情報を集めないと!



「そう、優蘭が言っていたんですか?」



「分からないの?ユウランは貴女を邪魔な存在だと言っていたのよ?」



「……そんな訳ないのに………」



「何か言ったかしら?」



「あっいやっ、何も……」


私を射抜くお姉さんの目があまりにも禍々しい黒に染っていたため、思わず言葉につまる。



一体なんなの?……この人は!




「……銀楼さん、勘違いしてるいると思うけどユウランはね?私のモノなのよ」



「……え?」



「私が私の為に育ててきた私の為の人間なの」



「何……を言って……」



「だからアナタは優蘭の発育に邪魔なの、消えてもらえるかしら」



「…………」



「ユウランもそれを望んでいるわ?」




「ユウランは私といることを何よりの悦びとしているの」






あまりの物凄じさに私の言葉は殺される。


言っていることはただの頭のおかしな妄言。


ただこの人の言う妄言には、ただの戯言として片付けさせることは出来ない凄味があった。


でも、それは……間違っている……


そんなことを正しいものだと認識することは私には出来ない。


この人は優蘭を蹂躙した。


優蘭を閉じ込めて、犯して、その体と心に大きなトラウマを植え付けた。


そんな人間が……優蘭を語ることすら……私には許容できない。



だから……言う……全部!






「……私は……優蘭を愛しています……」






「……は?」





「そして、優蘭も私を愛してくれています。それが真実ですよ」




「……アナタ、何を言っているのかしら?」


その口は余裕の笑みを浮かべてはいるが、生存本能では無く怒りに身を任せ獲物を狩る肉食動物のような眼光ででしっかりと私の瞳を見据えている。




「優蘭は私と生きるために、私を選んでくれました」




「………………」



「もう1回言います。私達は愛し合っています。」





と、私がその言葉を吐いた瞬間。






何かが音を立てて壊れた。





ガラララッシャン!!




軽快で鈍い音を立てながら壊れたのはお洒落な装飾が施されたテーブル。



私は脊椎反射的に椅子ごと後ろに倒れる。




「!?」





……っ……私の言葉が……逆鱗に触れたのか?


それでもこんなっ……机を壊すなんて……!


これは装飾されたとは言え私と優蘭が沢山食事を囲んだ思い出の場所。あまりの理不尽さと喪失感に情緒が

壊れそうになる。



「ギィィ!!」



「えっ!?」



私の情緒など気にもとめず、奇声と共に投げられたのはお姉さんの手元にあったコーヒーカップ。


空に投げ捨てれたことによって行き場をなくしたいっぱいに注がれていたコーヒーと、壁にぶつかり割れたカップの破片が私の身体に降り注ぐ



「いっ……っ」




「なんで……どいつも……こいつも……私とユウランの仲を引き裂こうとするの?」





「……え?」



破壊されたテーブルの向こうに立ち尽くしていたお姉さんはくねくねと体を動かしその美しい黒髪を自らで掻きむしりながらブツブツと独り言を呟いている。



「真奈も……そうだった……真奈も…虚言を吐いて私を騙して、苦しめて……」



「真奈ちゃん!?真奈ちゃんが何をーー」



「フフフフフフフフ!!」



「フフフフ……」




「そっかぁ……」




「ユウラン……これは試練なのね」






「なっ何を、言ってるんですか?」



私の目の前に居るのは、さっきまでの黒髪を靡かせた美しい女性ではなく。


まるで悪魔に取り憑かれ生存活動もままならなくなり堕ちていく人間のような……思わず戦慄してしまう狂気に満ちた姿の女性であることに間違いは無い。




どうして……どうしたらこんな姿に……!




この人はこんなにも優蘭をーーー




「ユウラン、フフ……あれは初めてあった日の事だったわね、私はその時は愚かで救いようのない人間で、フフ…きょうだいは真奈と真衣と真弥だけでいいと思ってアナタを疎んでいたの、だけどアナタはそんな私をイジメから救ってくれたのよね、家ではろくに口も聞いてあげず居ないものとして扱ってきた愚かな私を、アナタは救ってくれたの。その時私は思ったわ、あぁ……この人が運命のひとだったんだって……私はユウランと結婚するために生まれてきたんだって、フフ……ユウランは私と結婚するためにうまれてきたんだって。その日から私の生きがいはアナタの笑顔を見る事になっていった。アナタの喜ぶ顔を見るためならなんだってする、汚いおじさんに身体を売ることだってアナタの笑顔のためなら苦じゃなかったの。アナタの笑顔は眩しくて切なくて、私の心の隙を埋めていってくれたの。ユウラン……ユウラン……はぁぁ……その笑顔を思い出すだけで心が締め付けられるような、そんな感覚に陥るわ…フフフフ愛してる……ユウラン。だけどいつからかユウランは私の元を離れるようになって行った。私はユウランだけのために生きているのに、ユウランは私の為だけに生きてくれなかった!!だから閉じ込めて私と無理やりひとつになることにさせた、フフ……だけど私とひとつになれることにユウランは悦んでいたの、あの時は本当に嬉しかったなぁ……私の気持ちをユウランにも味合わせるつもりがまさか……フフ、悦んでもらえていたなんて。それにユウランのクラスメイト達からも祝福されていたみたいだし……でも……その数週間後、ユウランはどこかに消えた。私は、捨てられたのかと思った。私はもうユウランのことを考えないように……忘れて……生きていくことにした。だけど……全てがわかったの」




「この女が、悪いのよね」



「銀楼鈴音……お前がユウランを洗脳して、私から奪った……フフ……これが……試練」



「お前をここで殺せば……ユウランは戻ってくる」




「こっ……殺す!?」


バキッ。バキッ。




独白を終えた君咲真彩は、自らの手で破壊したテーブルの残骸の上を歩き私の元へ向かってくる。






その手で私のことを殺すために。





はっ……はっひっ……


この人は私のことを殺そうとしてる。

嘘でもなんでもなく、ただただ真摯に私を殺そうとしている。


わかる、わかるんだ。

この人は私を確実に殺す気だと。

逃げないと殺される




バキッ…… バキッ……





なんで、なんで動かないの?


動いてよ私の足!逃げないと殺されるんだって!



バキッ……バキッ



あまりの恐怖と本能的に伝えられる死の宣告が追突事故を起こして、私の体は言うことを聞かない状態になってしまった。


……なんで、なんで!



バキッ……



「はァァァあ」



「あ……」




グッギョ!






私の目の前に立つや否や君咲真彩は私の喉を両手で、力強くしめる。


「がぁ……あぁ」


とんでもない圧力に押し潰され喉が音を立ててスクラップにされたゴミのように潰されていくような苦しさ。

そしてその衝撃は頭にまで波及し、目や舌が飛び出して地面に汚く飛び散るんじゃないかというような感覚に陥る。




ただただくるしい、くるしい。



私はこのまま殺されるのか



ごめんなさい、優蘭。


ごめんなさーーー




「殺す!殺す!殺す!」



「あぁ……っぁあ」




脳髄が飛び散る。酸素が足りない。


銀楼鈴音という人間が生きるために必要な要素が片っ端から取り上げられていく。


死ぬっ……死ぬっ……死ぬ……



死ーーーー





死の間際、ふと思い出す。



この感覚、どこかで味わったことがある。





『鈴音、お前は男を知らない』



『お父さん?』



『だからな、父さんが教えてやる』



『やめてっ!お父さんーー』




あ……あ……ぁああ……








「ぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」











なんで私はあの時。武器を取らなかったのだろう。


なぜ私はあの時お父さんを殺さなかったのだろう。







「ぁぁぉぉあぁぁあぁア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ぁぁ!!」













「ゴッッぁ!?」

















あ……














その刹那、私の首を掴んでいた両手が力を失い下に落ちていく。


そして君咲真彩の体も電池の切れた玩具のように力無く、床に倒れる。






「はぁ……はぁ……はぁ……」







私の右手にあるのは、さっき割れたコーヒーカップの破片。


その破片には、べっとりと紅い血が着いている。







「はっ……はっ……はっ……」









はぁ……はぁ……



私の喉が潰されてしまう。その少し前。

わたしが突き出したコーヒーカップの破片は

















君咲真彩の首に突き刺さっていた。








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― 新着の感想 ―
[良い点] これからどうなってくのかが全く読めずワクワクする。(死者は出ませんように…) [気になる点] とは言ったものの展開が急展開過ぎてビックリした [一言] 1話から楽しく読ませてもらっています…
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