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僕と君は愛せない  作者: 和茶 わさび
狂るいはじめる愛情たち
37/42

急・転・回

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「はぁっ……はぁっ……はぁ」



お兄ちゃんは突然私が家に押しかけても怒らないで受け入れてくれて、その上ご飯を用意してくれてるのに、鈴音さんも私に会いに来てくれたのに。


2人とも私を受け入れてくれたのに。


私は



そんな幸せな場所から逃げ出した。



自分から聞いておきながら、鈴音さんがお兄ちゃんを語るのが私の小さい器では耐えきれなかった。

ずっとお兄ちゃんを正しく愛しているのは私だけだと思っていた。


お姉ちゃんは言わずもがな、狂った愛情。

美織さんに関しては周りに流されてしまうような薄っぺらい愛とも言えない代物。


私は、鈴音さんも

そのどちらかに入っていると確信していた。



だけど、現実は違かった。

鈴音さんはお兄ちゃんを正しく愛していたし、お兄ちゃんも鈴音さんを心から信頼していた。

それに比べて私はお兄ちゃんを苦しめて、その心を奪おうとした。



おかしいのは私の方だったんだ。


そう思ったらいても立っても居られなくなって。


部屋を飛び出して、頭の中で起こっているホワイトノイズが消えるまで走った。






走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って走って、走った。




「はぁ……はぁ……」





ここ、どこだ……。




無我夢中で走っていたため自分の現在地が分からなくなっていた。そしてもちろんスマホはお兄ちゃんの部屋に置きっぱなし。


この大桜区に来るのはこれで二回目。

この街の地理など把握してる訳もなく、私は迷子になってしまった。


「やらかし……た」



ここに来て私の衝動的な行動を心から後悔した。

後先考えず家を飛び出して迷子になって……お兄ちゃんに迷惑かけて……何やってんだろ、私。



今私がいるのは恐らく大桜区に流れる『手毬川』の河川敷。春になると花開くだろう桜の木がいまかいまかとその時をまちわびている。


……つまり、あぁ……葉1枚ない木が並んで植えてあるだけの場所である。


しかも手前に見える川に掛る橋の奥にはさっきまで自分をこれでもかと主張していた太陽がしょぼくれたように沈んでいっている。


あたりは冬木立が侘しく立っているだけで何も無い、そして陽の光さえ失われつつある。


正直私の心はポッキリ折れた。


ただ30分前の自分のしでかした愚行に対する罰としてはしっかり意味を成しているのでは無いかとも思う。


自分の中で背反しているふたつの感情を抱きつつとぼとぼと足を動かした。




とりあえず……来た道を……覚えてる限りで……戻ろう。




……私はーー





「何をしているの?真奈」








………え?


私の耳にありえない声が聞こえてきた。

は……はは……私はどうやらここまで精神的におかしくなってしまったらしい。


こんなところで世界一嫌悪する、姉の声が聞こえてくるほどにーー



「なんで無視をするのかしら、真奈」






え?



ピタリ、と足が止まる。

いや、正確には止められた。

止まったのは私の意思ではなく、体に刻まれていた本能。防衛本能とでも言うのだろうか。



何故こんなところで私の生物としての防衛本能が働いたのだろうか。

まさかあの空耳を脳が姉であると解釈して私の体に危険信号を送ったのではないか?


1度止まった足を再び動かしーーー




ボコッ









「がっっ」




私の背中に稲妻のような強い衝撃が走り、体は一瞬の浮遊感を感じその勢いのまま土手を転げ落ちる。


視界がぐるぐるになり方向感覚も掴めず、私の体に面している土と草の感触や匂いを確かめここが土手の側面であることを認識でき、そしてこのまま私の体がこの坂を転げ落ちる運命であるとを悟った。



「がぁあっぐっあ」



地面に激しく打ち落とされ、背中や腰にはさっきの比にはならないような痛みが走る。


だけどそんなことがどうでも良くなるほど転げ落ち、何も分からなくなる恐怖から抜け出せたことに安堵した。


しかし安堵して数秒後、私の体に激痛が走る。


あれだけ坂道を転げ落ち、地面に打ち付けられたのだから当たり前と言えば当たり前だが。

人生で経験したことの無いような痛みが私を襲う。



……だけど……立たない……となにがどうなって……



軋む体を抑え、足腰に力を入れ何とか立ち上がろうとする。

しかしいくらやっても足に力が入らない。



いやーー





感覚が……無い?





目線を足に向けると、



足首が見た事のない角度に曲がっていた。





「ぁぁぁあああああ!?」


嘘だ……嘘だ……嘘だ!?


しかし現実は無常、その"事実"に気付いた瞬間思い出したかのように脳は私の足に耐え難い痛みを与える。



「痛いっ……痛いっ……いたっ」




痛みで頭が混乱する。


はぁ……はぁ……はぁ……




お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん




救けて……お兄ちゃん





「あなたが悪いのよ?真奈」




「……え?」




私の目の前に現れたのは、お兄ちゃんでは無く。







「あなたが家を飛び出していくものだから、心配で来ちゃったわ」







君咲……真彩…………







「あの女に嫉妬して家を出て」



はぁ……ちがう……



「こんな何も知らない街で」



この人の言ってる……はぁ ……はぁ……



「ひとりぼっちではしって」




家って…………



「私はすごく心配したのよ?」




お兄ちゃんの家だ………………。





「なんで……ここ……が分かった……の?」


私の質問にニヤリと不敵な笑みを浮かべた姉は、強引に私や着ているジャンパーを奪い内側にあるポケットの中を漁る。


そこに入っていたのは、お兄ちゃんに買ってもらったうさぎのキーホルダーがついている実家の合鍵。



「お……ね……ちゃん?」



姉はその実家の鍵を地面に叩きつけ、執拗に何度も足で踏み付ける。


「やめて……よ!」


それは、お兄ちゃんに買って貰った。

大切な……


私は動く上半身だけを動かしてキーホルダーに手を伸ばす








「え?」




そこにあったのは


粉々になったキーホルダーと


その中から出てた。




謎の……機械?





いや……これは



「GPSと盗聴器よ」



「ぁ……」



「あなたが昨日言っていた事がどうも気になってね」



言葉が……出ない。





「優蘭に、彼女がいるとかどうとか」





私の……せいだ……





「だからあなたの持ち物にGPSを仕込んでおいたの」




私のせいで……





「どうせあなたの事だから家を飛び出して優蘭の所へ行くでしょう?」




なんで気付か……な……かったんだ





「フフフ、予想は当たってたわ」





私の……せいでっっっ!!




「ありがとう、真奈。あなたのお陰でまた……優蘭と合える」






お兄ちゃんの幸せはこのひとに




壊される。





「あ……ぁあ……ぁぁぁあああああ!」




「うるさいわね、真奈。言ってなかったかしら、私って女のキンキンした声が嫌いなの」



もう、痛みなんてどうでも良くなるくらい今はただ絶望と、後悔と、そして己の愚劣さに打ちひしがれている



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ

ごめーーーーーー」









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





ドサッ



「馬鹿はここで寝て、頭でも冷やしてなさい」



私の蹴りは見事に真奈の顎にクリーンヒット。

さっきまでの激情は嘘だったかのように静かに地面に倒れ込んだ真奈を見てすこし微笑ましさを感じながらスマホの画面に視線を移す。


スマホのマップアプリに記録されて居るのは真奈の鍵に付けていたGPSのお陰で明らかになった優蘭の住所。

そしてマップアプリを落としボイスメモのアプリを開く。


スマホの音量を最大限まで上げて♯105と書かれているファイルを選択、ボイスの再生を始める



『…いいわけじゃないよ、ただ今僕には銀楼さんがいるしこの街での暮らしがある……だから美織にには会えないし……家にも帰らない』



「んっっふううううう!!」



ふぁぁ……ふぁ……この話の内容の是非は置いといて……優蘭の肉声は本当に私を昂らせる。

本当は優蘭の声を聞いて自慰行為にふけたいところではあるけど自分を律して何とかその衝動を抑える。


真奈、ほんとはね、こんな酷いことしたくなかったの。

でも妹をしつけるのも姉である私の役目でしょう?だから心を鬼にして真奈を……しつけたのフフフ

本当に感謝してるわ……真奈




お陰でまた優蘭に会える。



フフフ……真奈の躾は済んだし。






今すぐ逢いに行くわ……



愛しの



ユウランンンンンンンンハッァ…………!!!!!



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