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僕と君は愛せない  作者: 朝澄 容姿
狂るいはじめる愛情たち
37/38

姉と妹とツンデレと

過去編です!まだ続きます!


「お、いい匂いだぁ〜」



部屋を出て階段を降りていると朝食の匂いが僕の鼻腔を通った。


高揚感からか、思わず声がこぼれる。

朝食の匂いというものはどうしてここまで気分を高鳴らせるのだろうか。



「もう朝ごはんできてるんだね」



「ほっほーんさすが真彩ネキですなぁ!」



ぶっきらぼうに言う真奈に対して真衣は嬉しそうに答える。


……真彩ネキ……。


真衣にそう呼ばれているのは君咲家の長女、君咲真彩だ。

都内でもトップクラスの偏差値を誇る大学に首席入学する程の頭脳を持っており、美人画に描かれている女性達を連想させるような儚げで美しくそして何より端正に整った顔立ちをしている……。


「才色兼備」「秀外恵中」「才貌両全」

その全ての言葉は彼女のためにあるのだと錯覚した事さえある。


うん……なんともまぁ……すごい人……だ。



しかし長年同じ屋根の下に暮らしていても、そのあまりに浮世離れした存在感故に親近感を覚えずらく、未だに適切な距離が分からない。




そんな僕の気も知らないで……姉さんは……。





「おはようユウラン」


「うぉ!?おはよう姉さん」


上の空で歩いていると、まつ毛の触れ合う位置に真彩姉さんの顔があった。

不意打ちの様に現れられたため、思わず上半身を後ろに下げる。



「ふふ、そんなに驚かなくていいのにユウランったら」


「いやちょっとボーっと……してたから」


僕がそう弁解すると、姉さんは踵を返し台所へと向かっていった。




「私達には挨拶無しなんだね」


真彩姉さんとやり取りしている背後で、真奈がボソッと何かを呟いたのが聞こえた。


「……真奈?」


「ん?なんでもないよ?」


「え?どしたの?」


「お兄ちゃんには関係の無いこと!」


「あっ、真奈!」


しつこく聞いたつもりは無かったのだが、真奈はこれ以上聞いてこないでと意思表示をするかのように僕を追い越しテーブルに向かっていく。


……真奈反抗期なのかな……。


愛しい妹に反抗期が到来したことに対して僕は喜ぶべきなのか悲しむべきなのか、目が回るほどぐるぐると両極の感情が頭の中を回っていた。


「心ここに在らず」だとしても、習慣化された足は勝手に進んでいて。

自分でも気付かぬうちにダイニングへと到着している。


「おはよー!おにーちゃん!」


「おはよ。真弥」


ダイニングでは姉さんと君咲家の4女である真弥が朝ご飯の支度をしていた。

準備、と言ってもほぼ終わっているのか真弥は既に椅子に座りフォークとナイフを持って体を横に揺らしていた。


今日は洋食の日のようで、純白のテーブルクロスが敷かれたテーブルにはパン、ハムエッグ、ポテトサラダ、コーンスープなどが人数分用意されていた。


真彩姉さんは料理の腕も浮世離れしていて、この食事の豪華さはどっかの貴族の朝食のそれと同等と言っていいほどのものだ。


一つ一つの食材が輝いて見える。




「うっひょー!うんまそーですなぁ!」


「フフフそう言ってくれると準備したかいがあるわ、ありがとう真衣」


「えへへへー!」


「……」


真彩姉さんに抱きつく真奈を冷めた目で見ながら、真衣は椅子に座る。


真衣は『ビジュがスーパーノヴァしているから』という理由でかなり真彩姉さんに懐いているが、真奈はその逆で『美人すぎるから嫉妬しちゃう』という理由で真彩姉さんを敬遠しているらしい。


その気持ちは僕にも分かる。

だけど、真彩姉さんは多忙な両親に代わってまだ幼い真弥の世話や家事全般をになってくれている。

この家の料理当番だって殆どは真彩姉さんだ。ほんとに頭が上がらない。



「姉さん……いつもありがとう」


「フフありがとう、ユウラン」


「あ、コップ出すよ」


「え?大丈夫よ」


「いいっていいって!姉さんは座っててよ」


真彩姉さんの手はこれ以上煩わせまいと、せかせかとキッチンへ向かう。


一回り大きい食器棚を開けると、手前の方に20個近くのコップが並べられている。

これが大所帯家族の食器棚かとこの家に来た当時は震えたものだ。




2……3……5

これで人数分だなーー



「ユウラン」



「ね、姉さん?」



振り向くとそこには、思わず息を忘れてしまう程魅入ってしまう美しき女性がいた。


何度観ても、どんなに同じ時間を過ごそうと、不意打ちの真彩姉さんは心臓が悪い。


『それ』は僕が血の繋がってない姉弟だから起こることなのかと悩んだ時期もあったが、「慣れないものは仕方ない」と最近はそんな自分を受け入れる方向にある。


「コップ半分持つわよ」


「半分って……重ねればほぼひとつだよ」


「……フフ……重ねる……ほんとだ。ユウランは頭がいいのね」


「……え?」



僕のツッコミに対して真彩姉さんは恍惚の笑みを浮かべ、満足そうな顔をしていた。

一体今のやり取りで真彩姉さんの何が満たされたのだろうか。


「フフいきましょ、ユウラン」


「う、うん…………!?」


ふと僕の背中に爪の感触が伝わってくる。

最初は硬い爪が当たっていたが、徐々に指の柔らかな感触も伝わってくる。

この指は、姉さんの細くてしなやかで綺麗な指だ。


そして次第に腕の感触も伝わってきて、感触の震源地は背中から腰に移動していた。


真彩姉さんはそのしなやかで白い腕を僕の腰に絡めつける。



「愛してるわ………ユウラン」


「ひ、ひゃい!?」


僕の肩に小さい顎をのせた真彩姉さんの唇が耳元で妖艶に囁やき、まるで体に電流が流れたかのように僕の背筋は強ばり硬直する。




「……?どうしたの?ユウラン」


「い……いや……なんでも」


「フフ……おかしなユウラン」


「…………っ……」


僕の顔を至近距離で見つめ、真彩姉さんはキッチンを出た。



漆黒の瞳。


その瞳を覗いたものすべてを取り憑かせてしまう魔性の瞳。

思わず声を失う。



……姉さん。



さっき姉さんは耳元で「愛してる」と呟いた。

……それはきっと真奈達とは違う意味での愛してる……だ。


真奈達は僕を家族として愛してくれている。


だけど姉さんは僕のことを「異性」として……愛している。

姉さんから直接言われたわけじゃない、ただの直感……言うなれば野生の勘。

その野生の勘が、姉さんが僕にむける感情の真意を主張しているのだ。


「姉さんは優蘭の事を異性として愛している」と。


そもそも一般的な姉というものは弟の肩に顎を乗せて耳元で愛してると囁くのだろうか、答えは否だ。


そんなこと……あるわけない。


他にも姉さんが僕に向ける感情の真意を示す証拠は沢山ある。


何故か学校の帰り道に遭遇すことが多い。


カバンに着けていたストラップにGPSが着けられていた。


お風呂に入ってる時に下着がなくなって居たりすることが結構ある。


勉強を教えると言い、やたら胸を押し当ててくる。


姉さんが作ってくれる弁当には必ず髪の毛が入っ

t……


いや、やめよう。思い返したら鬱になってきた。


正直真彩姉さんの美貌は未だに慣れないし、近付かれたり囁かれたりすると僕も他の男と同じような対応をしてしまう。

だけど……それでも真彩姉さんを本物の家族だと思っているし、僕にとってこの世にたった一人しかいない大切なお姉ちゃんだ。


だから姉さんの僕に向けている好意は受け入れ難いものがあったりする。




なんで、僕なんかを……



プルルルルル。


ポケットに入れていたスマホの振動が太腿に伝わり体全体へと伝播する。


こんな朝に、誰からだろう。


慌てた手つきでスマホを取り出し画面を表示し、振動(バイブレーション)の送り主のを確認するとそこにはーー


『蕾沢美織』



その四文字が表示されていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーー



「ご馳走様でした!!」


「お粗末様でした」


「あれ?兄、今日は随分早食いですな」


「用事忘れてたんだ!」


「はにゃ?用事ぃ?」



ティッシュで顔を拭きコップにまだ半分以上残っていた水を飲み干すと、急いで席を立ち床に置いてあったカバンを背負う。


「今日、期末テストだった!」


「……はぁ?お兄ちゃん忘れてたの?」


「てすと?」


「フフ、将来にかかわる大事な大事な発表会……ってとこかしら?」


「ぜんぜんわからにゃーい」



「ごめん!!」



「あらっ」


申し訳ないと思いつつ、会話の盛り上がっていたキッチンを抜け出して廊下に向かう。


廊下を出たら直ぐに玄関がある。

靴箱から自分の靴を取りだし、床に投げる。



美織……めっちゃ怒ってたな……。



『蕾沢美織』

この家の隣に住んでいる同い年の女の子。

僕がこの家にやってきてからの付き合いで、所謂幼なじみと言うやつだ。


正直幼なじみだなんていう感覚は当事者である僕らには無いので分からないが、家が隣で高校までずっと一緒ともなれば、周りからはそう思われるのは当然の事だろう。


今日僕らは早めに学校に行ってテストの対策問題を出し合うという約束をしていた。

そんな約束を忘れて、妹と徹夜ドラハンをしてい他と知ればどうなるか長い付き合いなのでだいたい予想がつく。



怒られて、お詫びにスタベのフラペチーノを奢らされる。


「はぁ……」


思い返すと条件反射的にため息が零れるが

正直……美織に怒られるのは何故か悪い気はしない。


理由は、分からないけど。



ピンポーーン



靴を履き終わったタイミングで、インターホンが鳴る。

ドアスコープから覗いたらそこにはセーラー服に身を包んだ赤髪のツインテールの女の子がいた。


……美織だ。



ガチャッ



「おはよ、美織」



「フン!おそいわね、ゆーらん」



「ごめんごめん」


ドアを開ければ、ドア越しで覗いた時よりもずっと鮮明に映る美織の姿があった。


腕を組み、眉間に皺を寄せながらこちらをを見て、赤髪のツインテールを揺らす女の子。

それが蕾沢美織だ。


今は7月。視界を思わず塞ぎたくなるような燦々と輝く太陽が美織を照らしている。


「……この太陽って……美織の怒りのメタファーだったりする?」


「アンタ約束すっぽかすの何回目?」


「は、あははぐぇ!?」


小洒落たことを言いつつ、笑って誤魔化していると、美織は革靴の先端で僕の脛を攻撃してくる。


「くだらないこと言ってないで、まず言うことあるでしょ!!」


「あ、が、、」


ぼ……暴力はダメだろと思いつつ、さらなる被害を生まないためにも早急に美織に謝罪の意志を示さねば。


「す、すみませんでしたぁぁ!!」


斜め90℃の完璧な謝罪を決める。 


……決まった。

早朝からこのクオリティの高い謝罪を決められるとは今日は調子がいい。


「……わ、わかってるならいいのよ」


「うん」


僕が全力の謝罪をすれば、美織はドン引きしてこれ以上は追求してこない。

これは美織と長年付き合って知り得た『対美織用ライフハック』だ。



「じゃあ急いで学校行こうか」


「途中でスタベ奢ってよね!」


「わかったよ」


「あはっ!やった」



さっきまであんなに修羅の如き表情を浮かべていたのにそれがまるで嘘のように、美織は満面の笑身を浮かべている。


そんなにもスタベを奢ってもらえるのが嬉しいんだろか、きっと女子にとってスタベはタンパク源かなんかなんだろう。


ま……男の僕には分からないけど。



ガチャッ



「ユウラン、忘れ物よ?」



「うぇ!?姉さん?」



玄関先で美織と話していると、真彩姉さんがどうやら心配そうな顔をして扉を開けてきた。


「……忘れもの?」


忘れ物なんてしたっけ……?

部屋を出る前に鞄の中身はちゃんと整理したはず。

そう思いつつ、姉さんの方に向かった。



「忘れ物よ」


「う、うん?」




チュッッ



「え?」



その刹那。


しっとりした柔らかい2つの塊が、僕の右頬に当たった。


この感触の正体を僕は知らない。

恐る恐る視界を右に向ける。


なにが、何が当たって……




姉さんの、唇?



真紅に彩られた真彩姉さんの唇が、確かに僕の右頬に当たっていた。





「……え?」


「……え?」


僕と美織の衝撃に耐えきれず零れた声が重なる。




「え……っ?何……姉さ……」



「忘れてたでしょ?ほら、行ってきますのちゅー」



「……え?」



忘れてた……?何を言ってるんだこの人は。

まるで毎日やってるみたいな……。



「あら、美織ちゃん!久しぶりね」



「ど……どうも……」



「''ワタシ''のユウランを……よろしくね?」



「……はーー」



ガチャン!




''ワタシ''のユウラン……



姉はそう言い残し、家の中へと戻って行った。





去り際だけ、姉さんは美織に目線を合わせていた。


その目はどこか勝ち誇った様な、そして自分のおもちゃを取られ嫉妬に狂う子供のような。


そんな表情で美織を見つめていた。


「い、行こっか……美織」



「う……うん……そう、ね」




今思えばこの日が初めて姉・『君咲真彩』の僕向ける愛情の異常性を心の底から理解できた日だったのかもしれない

病んでない状態の美織を描けるのが新鮮でたのしい

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