あなたは変態さんですか?
凄まじい轟音と共に、化け猫の少女ミケは後方へ吹き飛ばされる。
「な、何ですかこれは!? どうして急に祠が爆発したんですか!?」
自慢の猫耳をピンと逆立て、明らかに警戒している様子のミケ。
「はっはっは。いやー悪い悪い。座標の計算間違えちまった。本当は颯爽と空から舞い降りる予定だったんだが(笑)」
祠の中に出現した光の渦、そこからほぼ全裸のエースが現れた。
まったく悪びれる様子もなく、豪快に笑い飛ばすエース。
ミケはただ茫然とその姿を見つめる。
それもそうだろう。祠が光りだしたと思ったら急に爆発して、爆発したと思ったらそこからパンツ姿の男が突如出現したのだ。とてもじゃないが思考が追いつかない。
「あの、すみません。あなたは『変態さん』ですか?」
思考が完全にパンクしたミケの、エースに向かっての第一声はそれだった。
「…俺は変態じゃあない。俺は便利屋のエース。お前が俺を呼んだんだろ猫耳少女、依頼通り来てやったぜ。それなのに…変態呼ばわりはねえだろ」
そんな少女の質問に対しても冷静に応えるエース。
「はあ…あなたが便利屋ですか。私はてっきり、背中から後光がさす、まるで神様のような姿を想像していたのですが…現実は酷いですね」
パンツ姿のエースを見て、哀しそうな目をするミケ。
「ッ……酷いってなんだよ。せっかく来てやったのに酷くねえか。ああもう依頼とかどうでもよくなったわ……よし、帰るか」
「すみません冗談です!! あなたの事を呼んだのは私です。あなたの力が貸りたくて」
必死に弁解するミケは、エースの脚に縋りつき鋭い爪を突き立てる。
「いっ…痛い! わかった…わかったから爪を突き立てるな!!」
咄嗟のことで、思わずミケは爪を出してしまった。
「あっ、ごめんなさい」
ハッと我にかえり、エースに爪を突き立てるのをやめた。
「お前なあ、いくら帰って欲しくないからって、便利屋の俺に爪を立てるなんて失礼…」
「失礼じゃないか」と、そう言いかけたエースだが少女の様子を見て、言葉をグッと飲み込んだ。
「ごめんなさい便利屋さん。お願いします…帰らないでください。便利屋さんが帰ってしまったら私は…」
少女は泣いていた。
小さな体を震わせ、静かに泣いていた。
その様子から、少女が必死な事、それだけ余裕がない事が容易に理解できた。
(なんか…俺が悪者みたいじゃねえか?)
「まあいいや、とにかく町に行こうぜ。話はその後だ」
なるべく、明るい声でそう言うエース。
「……え?」
「聞こえなかったのか? 町に行ってから悩みを聞いてやるって言ってんだ」
「あ…はい!! ありがとうございます!!」
ゴシゴシと涙を袖に拭い、ミケは元気よくエースに感謝した。
「別に、まだ感謝されるような事はしてねえよ。ほら、さっさと行くぞ」
少年はそう言うと、街へと歩き出した。
ミケについて、俺は少し驚いていた。
歩き出してすでに2時間は経っている。
だが、まだ森から出れてもいないのだ。
コイツ、こんなに暗い中を何時間も一人で歩いてきたのか?
「お前、祠に来るのに何時間かけてきたんだ? 一人で恐くなかったのか?」
「来るときは走ってきたので…30分くらいでしたよ」
「30分? ……お前、足速いんだな」
ミケの顔が赤くなった。褒められて少しうれしかったようだ。
「私は猫族ですから。体の構造は人間が半分、猫が半分ですから、猫の素早さと猫の聴力と暗闇でも辺りを見渡せる目を持ってるんです」
自慢げに、猫族の特性を説明するミケ。
ミケは自分の種族に誇りを持っている様だった。
さらに一時間ほどが経過して、ようやく町に着いた。
西洋風の街並みは、暗闇と相まって少し不気味な面持ちだ。
3時間…か。結構急ぎめで来たから時速10キロだとして…片道30㎞ってところか?
そんなことを頭の中で考えていると、ある驚愕の事実が浮かんだ。
片道30㎞を30分だと!!
つまりこいつは、時速60㎞で走ったって事かよ!?
だとしたら足が速いどころの話じゃねえぞ。
「猫族は…みんなお前くらい足が速いのか?」
もし、猫族のすべてが時速60㎞で疾走するのだとしたら…。
そんな種族でも解決できないような事が、この化け猫の国で起こっているのだとすれば…。
…問題解決は骨が入りそうだな。
「ニャハハハハw まさか」
「…だよな。お前が特別足が速いだけだよな」
安堵したのも束の間だった。
「いえいえ、私なんて全然ですよ。ここら辺じゃあ一番足が遅くて、いっつもバカにされてますから」
「……ああ…そう」
やっぱり今回の依頼は…骨が入りそうだな。




