第十七話 九人の援軍の戦い
神司部と冒険部の面々と、オニキスが最後の戦いを繰り広げようとした時の事である。オニキスの連れてきた異形のドラゴン達を、彼らに変わって相手にしている者達はどうしていたかと言うと、
「はぁぁぁ、岩石落とし!!」
まず、ムシュフシュと戦うレイラは、装備している五本の刃を持つ爪を模した武器「ベアーネイル」を用いた格闘技と、大地属性を持つ大技で彼を追い詰めていた。
「くぅ!!」
レイラがベアーネイルを地面に突き刺して取り出した巨大な岩石を回避したムシュフシュは、口から火炎を吐き出して攻撃した。
「危な!!」
レイラはそれを回避し、ムシュフシュにベアーネイルを振り下ろした。ムシュフシュはそれを尾で受け止めると、レイラにこう言った。
「さっきから見ていて思ったんだが、お前、かなり疲れているだろ。」
「ギクッ! 何のことか分かりません。」
ムシュフシュの言葉に、レイラがこう返すと、彼はさらにこう返した。
「さっきから短期決戦にしたいのか、やたらと大技を連発してきている上に、格闘技の切れが極端に悪い。まあ、オニキス様にやられた重症者を治療して、すぐさまこの環境下で戦闘を行えば、植物族にとっては相当な消耗を強いられるだろうがな。」
「うう、否定できない自分が情けない。」
ムシュフシュの言った事に対し、レイラはこう言った。口で否定する事は出来ただろうが、アリスティーナを治療する際に相当な力を消耗して、更には植物、特に花にとって致命的な脅威である寒気の中で激しい戦闘を行っている為、口が上手く回らなかった。
「となると、このまま持久戦に持ち込めば俺は勝てると言う事だな。俺は蠍だし、寒気にも強い上に、忍耐だって得意中の得意だ。」
その後、剣のような大きさと形状を持つ尾の針でレイラをけん制し、彼女と同時に距離を取ると、こう宣言して構えを取った。このまま防御に徹しつつ必要最低限の攻撃を行い、レイラを確実に仕留めようと言う算段を付けた為である。
それに対し、レイラはこう言った。
「確かに私たちは虫や寒気が苦手ですし、ましてや疲労困憊の状態ですけど、そこまで舐められたら心外です。」
そして、源達と同い年くらいの少女と言う幼い見た目の割に、かなり大きいサイズの胸元に手を伸ばすと、一息にその箇所を押し潰した。
「え、何を?」
いきなりの行動に、ムシュフシュが驚くと、レイラはこう言った。
「私たちは動物のように動き回りますが、そもそもを辿れば植物何です。植物は自然のあらゆる驚異を乗り越えるために、ありとあらゆる無駄を省き進化してきました。故に、体の余分な個所を消すと言う事は、そこに回していたエネルギーを消費すると言う事。」
速い話が、彼女の大きな胸は胸では無く、いざという時の為に使用する予備のエネルギーをためておくタンクの役割を果たしていたと言う事である。因みにたった今押し潰された胸は、折れてもまた伸びる植物のように、再びエネルギーを与えれば元に戻るので、全く問題は存在しない。その為、次の瞬間には張が無くなっていた肌や骨格に、戦いを始める前までの活力が戻った。
「さあ、行きますよ。グリズリー・スラッシュ!!」
レイラは再びベアーネイルを構えてこう言うと、一息にかなりの高さまで飛びあがり、彼目掛けて片方の爪を振り下ろした。この技はレイラが編み出した、獣族の聖獣にも使える大技であり、技を繰り出す際にグリズリーが襲い掛かるように見えるため、レイラが技を出す所を見たラフレシアがこう命名したのだ。
ムシュフシュは、先ほどより鋭く重いレイラの技を見ると、背中の翼を大きくはためかせ、尾を地面に強かに打ち付けると、空高く飛び上がって回避した。
「地上戦での戦闘力アップか? なら空から攻撃を……」
空を飛ぶムシュフシュはこう言ったが、思うようには行かなかった。レイラはどこからか出した種の一つを地面に埋めると、それを急激に成長させた。それにより、硬い幹を持つ樹が急激に大きくなって空中のムシュフシュに迫った。
「痛え!!」
結果、樹の幹から生えている枝の一本がムシュフシュの翼を掠め、翼にダメージを負った事で一瞬翼の動きが鈍り、彼は地上へと落ちて行った。
「未完成の超大技で決めてやる!!」
その様子を見ながらレイラはこう言って、両手のベアーネイルの間に光り輝くエネルギーを集中させた。集まって行くエネルギーは、大地の重さと光の鋭さを兼ね備えたエネルギー体となった。
「お願いだから決まって、未完成だけど、宝石落とし!!」
そして、必要な分のエネルギーが充填されると、レイラは落下してくるムシュフシュ目掛けて投げつけた。結果、宝石を思わせる輝きを放つエネルギーはムシュフシュに直撃し、凄まじい光を放って大爆発した。
「やったぁ、私の勝ち!!」
様子を見て居たレイラは、ガッツポーズを取りながらこう言った。
レイラの師匠である「植物女皇ラフレシア」は、愛刀「ノイバラ」を抜いてゴールデンドラゴンと戦っていた。
「はぁぁぁ!!!!」
ラフレシアはノイバラを鞘に仕舞い、居合の構えを取ると、目にも止まらない速度で鞘から引き抜き、居合切りを放った。
「くそっ! 何て速さだ!!」
ゴールデンドラゴンは、大剣を用いる事で何とか彼女の斬撃を受け止め、こう言った。自身の持つ羊毛を用いれば、斬撃を受け止める事は出来る。しかし、彼女は激しく刀を振るいながらも、一定の距離を保ちつつ切っ先だけをゴールデンドラゴンに掠らせるようにしている為、鋭い一撃を止める事は出来ない羊毛では、切っ先を貫かれて傷を突かれてしまう。
「先ほども言ったが私には時間が無い。それに、弟子に救われたとあっては、師匠としては鼻が高いが、女皇としては示しがつかないのでな!! 速攻で決めさせてもらう。」
どんどん引き腰となって行くゴールデンドラゴンに、ラフレシアはこう言った。アインに言われた通り、彼女は病み上がり同然の状態であるため、最大五分間しか戦闘行為を行えず、剣劇を始めてから既に三分が経過している。なので、
(奴を倒すにはあれしか無い、何とか奴に飛び道具を使わせる!)
と、彼女は考えながら戦っている。切っ先だけで攻撃を仕掛けているのも、彼に飛び道具を使わせる為なのだ。彼女がどれほど強くても、戦闘可能時間が切れればそれで終わりである。表は冷静かつ余裕に振る舞っているが、内心はかなり焦っていた。
「これならどうだ!!」
ラフレシアはこう叫ぶと、ノイバラの切っ先を力強く突き出して、ゴールデンドラゴンに突き刺そうとした。対するゴールデンドラゴンは、大剣の刃でそれを受け止めた。
「勝負を急いだな。」
剣を受け止めて見せたゴールデンドラゴンは、ラフレシアにこう言った。
「アンタは植物族最強の聖獣だろうが、俺だって一応は戦闘力レベル6000のドラゴン族聖獣だ。簡単に負けるつもりは無い。」
「それは勿論そうだ。聖獣達には皆、私達皇に勝つ事を目標にして貰わないと、世界の熱気が失せる事になる。」
ゴールデンドラゴンの言葉に、ラフレシアはこう返した後、こう続けた。
「だが、私の刀はただ止めるだけでは何も意味は無いぞ。」
「?」
ラフレシアの言葉に、ゴールデンドラゴンが疑問を覚えた瞬間である。突如ノイバラの刀身が、沸騰した水のようにブクブクと震え始め、その形状を鋭い刀の切っ先から、まるでフォークのような形へと変形し、両側からゴールデンドラゴンを貫こうと迫った。
「なにぃ?!」
彼は知らなかった事だが、ラフレシアの持つ刀「ノイバラ」は、今は現実に存在していない植物の特性を持つ金属で構成されている。その為、ラフレシアが霊力を刀身に送り込むと、まるで植物のように成長し形状を変え、元の形状に戻る事が出来るのだ。
その事を知らないゴールデンドラゴンは、刀が突如形状を変えた事に驚くと、その場から飛んで距離を取ると、ラフレシアの刀が届かない場所まで飛びあがると、そこから火炎を浴びせかけた。ドラゴン族の皇である「バロン・サムディ」に比べると威力は落ちるが、熱量を感じ取ればかなりの破壊力を秘めていると思われる。
(来た!!)
心の中でラフレシアはこう思うと、刀を地面に突き立てて構えを取った。しかしその瞬間、彼女はゴールデンドラゴンの吐き出した火炎に飲み込まれ、その場から消え去った。
「やったか?」
ゴールデンドラゴンは、今までラフレシアの居た場所に彼女が居ない事で、仕留めたのかと考えたが、やがて地面にある物を見つけた。一か所だけであるが、地面が異様に盛り上がっているのである。
「地面の中に逃げたのか? 花の妖精と言うより、最早土竜じゃねえか。」
ゴールデンドラゴンが、地面の盛り上がりを見ながらこう言った瞬間である。突如、地面が激しく振動を始めた。
「じ、地震か?」
揺れる地面を空中で見ながら、ゴールデンドラゴンがこう言うと、地面が大爆発と共にはじけ飛び、巻き起こった砂埃の中より巨大な花の蕾のような物が飛び出した。
「な、何だこれ?!」
次々と巻き起こる驚くべきことに、ゴールデンドラゴンが驚いていると、巨大な花の蕾が開き、世界一巨大な花である「ラフレシア」を思わせる花となると、その花弁は龍を思わせる怪物の形状となり、口にあたる部分からエネルギーの波動を放ち、ゴールデンドラゴンを吹き飛ばした。
ゴールデンドラゴンを吹き飛ばした後、花の怪物はシュルシュルと縮んで行き、地面の中へと戻って行った。その後、植物が生えていた場所から、何も身に着けていない状態の植物女皇ラフレシアが這い出してきた。先ほどの花の怪物はラフレシアの変身した姿で、彼女は地面に埋まる事であの姿になる事が出来るのだ。ただし、変身の為には服を脱いで全裸になる必要があるため、服を脱いで地面に潜った結果、直後に放たれたゴールデンドラゴンが吐き出した火炎によって服は跡形も無く燃やされてしまった。その為、彼女が吹き飛ばされたように見えたのである。
「レイラに新しい服を持ってきてもらわないとな。」
ラフレシアはこう呟くと、同じタイミングでムシュフシュを倒したレイラに対し、精神感応でこう伝えた。自分の服を何でもいいから調達して来て欲しいと。
その頃、ラフレシアと同じようにして援軍に現れ、ミノス・ドラゴニスと戦いを繰り広げる機械皇プトレマイオスはと言うと、
「うおぉぉぉぉ!!!」
「おおぉぉぉぉ!!!」
プトレマイオスはミノス・ドラゴニスの角を掴み、体の彼方此方にある機関を全開で回しながら、ミノス・ドラゴニスは地面を踏みしめる四肢に力を込め、激しい押し合いを繰り広げていた。
その内に、プトレマイオスは掴んでいる角を思い切り捻ると、ミノス・ドラゴニスの体をひっくり返して見せた。
「しまった!!」
ミノス・ドラゴニスが何とか態勢を立て直そうとすると、プトレマイオスは金属で構成された硬い拳を強かに打ち付けた。ミノス・ドラゴニスはそれを回避すると、プトレマイオスよりある程度の距離を取ると、角を前に突き出してプトレマイオスに突進した。
「来るか!!」
プトレマイオスは突進するミノス・ドラゴニスと正面から向かい合うと、指に仕込まれたマシンガンを乱射して、ミノス・ドラゴニスを攻撃した。
ミノス・ドラゴニスは、自身の足元に大量の弾丸が降り注ぎ、その内の何発かが体を掠めようと、その突進の勢いを止める事無くプトレマイオスに近寄り、彼に体当たりしてその体を空中に舞わせた。
「ぐわぁぁぁ!!」
プトレマイオスが空中に舞うと、ミノス・ドラゴニスはすぐさまブレーキを掛けると、進行方向を変えて再び突進した。対するプトレマイオスは、
「機動力で勝負しようと言う事か。」
空中でミノス・ドラゴニスを見てこう言うと、プトレマイオスは全身の機関を再び高速回転させると、自身の姿を変えた。頭部を引っ込め、腕や足の形状を今までと違う形にすると、SF映画の中に出てくる宇宙船のような姿になった。
ロボットの姿から宇宙船の姿に変形したプトレマイオスは、その状態で空中を飛翔すると、大地を駆け回るミノス・ドラゴニスに狙いを定め、船体の彼方此方に装備されている機関銃を乱射し、ミサイルを大量に放った。
しかし、どんな軍隊でもひとたまりも無い爆撃を受けながらも、ミノス・ドラゴニスは止まる事は無かった。機関銃の弾丸を受けようと、ミサイルが自身の間近で大爆発しようと、彼は止まる事無く走り続けた。
「このままでは埒が明かない!!」
どれほど弾丸を放ち、ミサイルを爆発させようと全く止まらないミノス・ドラゴニスに、プトレマイオスは焦りを覚え始めた。戦闘を開始してから既に四分は経過しており、戦闘が可能な時間が残り一分に迫りながらも、ミノス・ドラゴニスは止まる気配が全くない。
「ならば!!」
その為、出来れば使いたくないと考えていた、一世一代の一撃に全てを掛ける事にした。まずは宇宙船の状態で空高く飛び上がると、ミノス・ドラゴニス目掛けて急降下を始めた。
「勝負だ!!」
「望む所だ、串刺しにしてやる!!」
プトレマイオスの言葉に、ミノス・ドラゴニスは長く鋭い角に火炎を纏わせると、走る速度を速め、プトレマイオスにこう言った。
プトレマイオスは、急降下しながら宇宙船の形状から、騎士の甲冑を思わせるロボットの形状に変形すると、自身の近接専用の武器である戦斧「ジェットアックス」を取り出し、そのバーニアに点火した状態で勢いよく落下し、ミノス・ドラゴニスが自身に激突するか否かのタイミングで、勢いよくジェットアックスを一閃した。
ミノス・ドラゴニスがプトレマイオスの体を粉砕するか、それともプトレマイオスがミノス・ドラゴニスを一閃するか、その勝負を制したのはプトレマイオスだった。プトレマイオスが、ミノス・ドラゴニスの突進で粉砕された箇所が崩れると同時に、ミノス・ドラゴニスは倒れた。
そして、レイラと共に二人の皇を救出し、共に援軍にやって来た機械族の聖獣「アイン」は、アーク・ヤンカシュと戦っていた。
「ロケットパンチ!!」
アインが拳を構えると、腕からバーニアが出現して火を吐き出し、拳はその勢いに乗ってアーク・ヤンカシュに迫った。
対するアーク・ヤンカシュは、装備しているランチャーで拳を弾き飛ばした。その結果、アインの放った拳は地面にめり込んだが、拳は腕とワイヤーで繋がっている為、すぐに彼女の定位置へと戻って行った。
「ロケットパンチとは、ロボットの醍醐味発揮だな。さて、次はどんな変形や武器を使うんだ?」
アーク・ヤンカシュがランチャーを構えながらこう言うと、アインはこう返した。
「私は殆ど変形しませんし、そもそも貴方に私の武器は効かないでしょう。私がここで行うのは、ただ一つ。」
そして、両腕両足から再びバーニアを出現させると、こう言った。
「バーニア・アーツ、これが私の戦い方です!!」
対するアーク・ヤンカシュは、
「バーニア・アーツ?」
アインの言った謎の言葉に疑問を覚えた。アーツと言う名が付いている以上、彼女が使うのは格闘技の一種であると考えられるが、機械族の本来の取り柄は、様々な機関の動きによって構成、および制御される銃火器や機械による攻撃である。柔軟性に掛ける以上、ぶつかり合うと言う物理的な攻撃は、機械族があまり使いたがらない戦法だからだ。
「いつかの戦いで私の無力を知って、必死になって改造と強化を繰り返して編み出し会得したんです。」
アーク・ヤンカシュにアインはこう言うと、最初に足のバーニアを一瞬だけ点火させ、その推進力で勢いよく飛びあがると、両腕のバーニアで動きを制御しながらアーク・ヤンカシュをキックした。その際、再びバーニアを一瞬だけ点火させる事で、アーク・ヤンカシュの体を大きく吹っ飛ばした。
「成程な、バーニアで体位を制御しつつ、パンチやキックの破壊力を高める格闘技と言う事か。」
大きく吹っ飛ばされながらも、アーク・ヤンカシュは何とか地面に着地すると、武器のランチャーを構えた。このランチャーには放水する以外に、水の刃を発生させて接近戦を行う機能も付いている。なのでランチャーの周囲に水分が集まると、水の刃を発生させた。
「だがこちらも、簡単に負けるつもりは無い。」
アーク・ヤンカシュはこう宣言し、水の剣を構えてアインに向かって行き、時と場合によっては金属や宝石も切断する刃を一閃した。
「くっ!!」
アインはその一撃を、姿勢を低くすることで回避したが、その際重量の違いにより一瞬だけ下がるのが遅れた彼女の髪の毛が、少しだけ切れて宙に舞った。
しかし、彼女は機械であるため、自身の正体を偽装する為の装備の損壊に付いては余り気には留めなかった。姿勢を低くした状態でアーク・ヤンカシュの剣が一閃されるのを待ち構えると、バーニアが点火した拳を振り上げ、アーク・ヤンカシュの顎に強烈なアッパーカットをお見舞いした。そしてそのまま、両腕両足のバーニアを点火させて、上空へと飛んで行った。
「逃がすか!!」
顎に強烈な一撃を受けながらも、その様子を見て居たアーク・ヤンカシュは、こう言うと同時に背中の翼を用いて飛びあがり、アインを追って空へ向かった。
戦いは地上での格闘戦から、ドッグファイトへと変化したが、アーク・ヤンカシュはアインに押されていた。両手両足にバーニアが付いている為、体位の制御が大変なアインではあるが、彼女はその特性を生かし変幻自在に宙を舞っている。対するアーク・ヤンカシュは、一対の翼で空を飛んでいる為、アインの動きに付いて行ききれていない。
「おのれ、ちょこまかと。」
空を飛びながら、アーク・ヤンカシュがこう言った瞬間である。
「ロケットパンチ!!」
空を飛ぶアインは、両腕を先ほどのように分離させて、アーク・ヤンカシュ目掛けて発射した。
「何?!」
アーク・ヤンカシュは、両腕両足で姿勢を制御して空を飛ぶアインの、腕を飛ばすと言う意外な攻撃方法に驚いたが、体を上手く動かす事で攻撃を回避した。
「腕を飛ばしたのは早計だったな、その状態では上手く姿勢を制御できないだろう。」
攻撃を躱した後、アーク・ヤンカシュはアインにこう言って、自身の水の剣でアインを真っ二つにしようと剣を構えた。しかし、その状態でもアインは慌てなかった、むしろ、外れたのが狙い通り、と言いたげに口元に笑みを浮かべた瞬間である。
「戻れ!!」
アインはこう言って、拳と腕を繋ぐワイヤーを伝って、飛ばした拳に方向を変えるように指示した。それにより、アーク・ヤンカシュの傍を掠めた彼女の拳は、急激に方向を変える事で、逆にアインの方に向かって行った。
「決れ!!」
アインがこう叫ぶと、アーク・ヤンカシュは彼女の試みに気が付き、すぐさまその場を離れようとしたが、手遅れであった。
戻って来たアインの拳、それと腕を繋ぐワイヤーは、まず最初にアーク・ヤンカシュの両腕に巻きつくと、そのまま彼の全身を捉えてしまった。その際、翼もとられてしまった為、彼は空中での自由が利かなくなった。
「良し!!」
アーク・ヤンカシュを拘束出来たと確認したアインは、そのまま腕のワイヤーを巻き取る事で、自身の体をアーク・ヤンカシュに密着させ、その状態で足のバーニアの出力を全開にすると、脚を交差させて回転しながら地面目掛けて飛んで行った。
「はぁぁぁぁ!!!!」
そして、物凄い勢いでアーク・ヤンカシュがアインによって地面に激突し、辺りには激しい衝撃と砂埃が舞い散った。
その後しばらくしてから、アーク・ヤンカシュの体よりワイヤーを解いて回収したアインが、砂埃の中から飛び出した。
「体内機関、一部損壊………補填及ビ点検修復ガ必要ト確認、救援マデ一時スリープモードニ移行。」
飛び出したアインは、機械的な口調でこう言うと、そのまま動かなくなった。しばらくしてからプトレマイオスの命を受けて、彼女を回収しに来た機械族聖獣が現れるまで、彼女はそのままであったと言う。
「それそれ!!」
「くぅぅぅ!!」
マスター、カンヘルは、武器である天秤で相手の攻撃を受け止めながら、思わず唸った。相手は見た目こそ、可愛らしさの中にも少年のような凛々しさを持つ、美しい顔立ちと佇まいが特徴の女性なのだが、背中からは巨大な翼、腰からは巨大な尾が生えている。おまけに、彼女の右手にはいくつの武器が仕込まれているのか、使っては消えてを繰り返す事で、既に五十個の武器が確認できている。
奇妙にねじれ曲がった短剣を振り回しながら、楽しそうに立ち回る女性の名前は「ポラリス」本来は敵であるのだが、紆余曲折あった事で偶然行動を共にしていた部下「フギン&ムギン」と共に援軍として登場し、彼女はマスター・カンヘルと、フギン&ムギンは上空でジェミナ・ドライグと激闘を繰り広げている。
「人が作った聖獣とか何とかほざいていたが、一体何族の何属性だ?」
剣劇を繰り広げるマスター・カンヘルが、ポラリスと距離を取りながらこう言うと、
「部族無し、属性は鋼属性以外可変ですが何か?」
ポラリスはこう言って、今まで使っていた短剣を放り投げると、今度は穂先がドリルのように螺旋状となっているランスを取り出し、穂先を何らかの機関で高速回転させると、こう言った。
「どうやら、貴方を倒すのはこの武器が良さそうだ。」
一方、空中で付いたり離れたりと独特な行動を織り交ぜながら、様々な攻撃を放って空中戦を繰り広げるフギン&ムギンと、ジェミナ・ドライグはと言うと、
「喰らえ!!」
ジェミナ・ドライグは一人に合体した状態で、口から火炎を吐き出すも、
「はぁぁ!!」
フギンとムギン、両者が合体する事で、両者を成長させたような見た目の女性の姿になっている彼女たちは、元の二人に戻る事で、それを回避すると、
「えーい!!」
両側から挟み込むようにして飛翔し、互いが手に持った槍でジェミナ・ドライグを貫こうとした。ジェミナ・ドライグは、同じように二体に分離してそれを受け止めると、彼女たちにこう言った。
「何なのかは知らないが、妙な仲間意識を感じるな。」
「それは私たちも同じだよ。」
全く同じ見た目の為、どちらの言った事かは分からないが、フギンとムギンがこう言うと、
「だからこそ、負けられない!!」
フギン&ムギン、ジェミナ・ドライグは互いにこう宣言し、二体の状態を保ちつつ戦闘を繰り広げ、地上目掛けて飛んで行った。
そして、ジェミナ・ドライグはマスター・カンヘル、フギン&ムギンはポラリスと合流し、互いに相対する状況となった。
「行くぞ、合体技だ!!」
「了解!!」
マスター・カンヘルの言葉に、ジェミナ・ドライグがこう答えると、彼はマスター・カンヘルの天秤の皿の上に乗った状態となった。二体に分離したジェミナ・ドライグを天秤に乗せる事で、天秤自体の霊力と破壊力を高めた、マスター・カンヘルのオリジナル必殺技である。
「合体か、フギン、ムギン、あれをやるわ。」
「はい!!」
相手の行動を見届けたポラリスは、自身の背後に控えているフギンとムギンにこう言うと、手に持っている螺旋槍を空高く掲げた。
「風さん、来てください!!」
「雷さん、降りてきて!!」
フギン&ムギンの内、まずはフギンが、続いてムギンが空に手を掲げこう叫ぶと、周囲に強風が吹きすさび、空を黒い雲が多い隠し、雷鳴が轟き始めた。
「あんな可愛い姿で、やる事は風神雷神と同じか。」
天秤と合体しているジェミナ・ドライグがこう言うと、マスター・カンヘルはこう言った。
「嵐が来ようと問題は無い。山一つを吹き飛ばしたあの技を使うぞ!!」
そして、天秤を大きく振り回し、周囲に強い風の流れを作り上げた。その際、ジェミナ・ドライグは自身の力を限界まで高める事で、風属性のエネルギーを集中させた。
対するポラリスは、
「周れ、吸い込め!」
槍を掲げながらこう言った。その結果、螺旋状の穂は物凄い速度で回転を始めると、フギンとムギンが発生させた風と雷を吸い込み、一つの巨大な竜巻を作り上げた。
こうして、互いの準備が整うと、
「喰らいな!! ウィンド・デストロイヤー!!」
マスター・カンヘルは、振り回していた天秤を力強く振り上げる事で、山さえも吹き飛ばしかねない勢いの突風を発生させ、
「ヴォルティック・ハリケーン!!」
ポラリスは槍を振り下ろし、完成したばかりの鉄筋構成のビルを一瞬で飲み込み消し去る勢いを誇る竜巻を飛ばした。
両者の飛ばした突風と竜巻は、激突すると同時に周囲の地面を瓦解させながら、互いの力を比べ始めた。突風対竜巻と言う強風同士の対決を、発生している衝撃に耐えながら見届けるマスター・カンヘルは、こう言った。
「やったか?」
しかし、天秤と合体しているジェミナ・ドライグは、四つの目で場を確認し、こう言った。
「違う、そもそも奴ら事態居ないぞ!!」
「吹き飛ばされたんじゃ無いのか?」
ジェミナ・ドライグの言葉に、マスター・カンヘルがこう返すと、どこからか声が響いた。
「竜巻の目は無風となる。向かう者は全て取り込み巨大化し、結果的に一瞬だけどこよりも安全な直線を作り上げる。」
耳を澄ませると、風の吹く轟音の中であっても、その声が正面より響いている事を確認出来た。その正面を見た時、マスター・カンヘルとジェミナ・ドライグは驚愕した。竜巻の中に、ポラリスとフギン&ムギンが、背中の翼をはためかせた状態で存在しているのだ。
「まさか、最初からこのために?」
マスター・カンヘルが、竜巻によって彼女達の周囲に防御壁が形成され、外側は勿論、正面からの攻撃を吸い込んで無効化する守りに守られていると言う事実を認識し、こう言うと、ポラリスは両腕と尾を竜巻の中に一瞬だけ差し込んで、ある物を取り出した。
両腕はフギンとムギンの槍、尾はポラリスの基本的な武器である「ポラリストライデント」を掴んでおり、三者はそれぞれの武器を装備した状態になった。
「これで決める!!」
「やぁぁぁぁ!!!!」
ポラリスが止めを宣言して飛び出すと、フギンとムギンも槍を構えてそれに続いて行った。風のトンネルの中を突っ込んでくる三者を見て、マスター・カンヘルは急いで天秤を構えると、三者が自身の傍を掠めると同時に、渾身の力を込めて一閃した。
結果、勝負に勝ったのは、ポラリスとフギン&ムギンだった。背後の竜巻がはじけ飛ぶと同時に、マスター・カンヘルの天秤は粉々に砕け、体に大きな傷を負ったマスター・カンヘルは、倒れてそのまま動かなくなった。
「お仕事終了、帰りましょう。」
その様子を見届けたポラリスは、この戦いの中で使った武器を全て回収し、フギンとムギンにこう言って、自分達の拠点がある「東京都台東区浅草」へと帰って行った。
そして、話している言語が理解できない所から、外国人の神司と思われる相手と戦うジェットワイバーン・レオ、シャーク・ドランはと言うと、完全に苦戦していた。
ジェットワイバーン・レオは、長い金髪と高い背丈が特徴の、欧米系の特徴を持つ少女の呼んだ人馬を思わせる見た目のドラゴンと戦い、シャーク・ドランは短く揃えられた銀髪と少し低い背が特徴の、欧州系の特徴を持つ少年が呼んだ、虎を素体とした体に様々な獣の特徴を持つ獣族聖獣と戦っていたが、ジェットワイバーン・レオは相手の圧倒的なパワーに捉えられ、シャーク・ドランは逆に相手の柔らかいが力強い立ち周りを捉える事が出来ず、今まで一回も真面な一撃を喰らわせる事が出来ていない。
「it is good a Sagittariusdragon!!」
周囲を高速で飛翔し、死角を突いて襲い掛かるも、素早く反応してその方向に体を向けると、ジェットワイバーン・レオを捕まえて投げ飛ばした自身のドラゴンに、金髪の少女はこう言うと、一枚の技カードを取り出し、聖装と思われる独特の刃が付いた長物の武器のスロットに差し込んだ。
「A work card, the judgment Arrow!!」
少女がこう叫ぶと、ドラゴンの手元に巨大な弓矢が現れると、数本の矢が番えらえた。ドラゴンはそれを強く引き絞ると、それを上空目掛けて放った。
「痛てててて。」
思い切り投げ飛ばされたジェットワイバーン・レオは、頭を振りながら起き上り、すぐさま上空の矢に気が付いたが、時は既に遅かった。彼の元には大量の矢が降り注ぎ、逃げる間も与えずに彼を捉えた。
「ジェットワイバーン・レオが、速度の領域で負けた?」
様々な獣の特徴を持つ獣族聖獣と戦うシャーク・ドランは、様子を見ながらこう言って、相手の首と尾をそれぞれ片手で受け止めた。噛みつき攻撃を阻止する為に首を止めるのはともかく、尾を止めるのはなぜかと言うと、相手の聖獣の尾は蛇となっている為、接近と同時に敵に噛みついて来るのだ。
「Es ist jetzt!
Elektrischer Löschungsangriff!」
獣族聖獣の主である少年が、首と尾を相手に捉えられたと確認するや否や、すぐに次の指示を飛ばした。その結果、獣族聖獣の全身が黄金色に輝きだし、皮膚の周囲に稲妻を思わせるエネルギーが流れ始めると、シャーク・ドランの体に大量の電流が流れた。
「か、雷属性か?!」
シャーク・ドランは痺れながらこう言うと、掴んでいた首と尾を放して彼から距離を取り、片手をノコギリザメの頭部を思わせる形に変形させて、その結果手に現れた刃を地面に突き刺した。
その結果、地面は激しく瓦解し、獣族聖獣の立っている地面も崩れ始めた。
「?!」
言葉自体は発しなかったが、彼が驚きの表情を浮かべると、
「Die Arbeit fragt Bewegung nach dem Ausweis!
Das Erleichtern von Moment!」
神司の少年はこう叫び、一枚の技カードを使用した。その結果、獣族聖獣の姿が一瞬の内に消え去り、次の瞬間にはシャーク・ドランの体を貫いていた。
「Raijū Ermüdet mit Arbeit!!」
敵を倒した自身の聖獣に、神司の少年がこう言うと、既に自身の呼んだドラゴン族の聖獣を聖装にしまった少女は、彼にこう言った。
「although it was special this time the next it is very well .」
「Obwohl es besser für dort ist, nichts zu sein, wenn es machen kann.」
少女の言葉に、少年はこう言った。
そして、最後に残ったヴォルキャドンは、相対している聖獣達の珍しい戦い方に戸惑いを覚えていた。五体の内、四体までは普通に戦っているのだが、残りの一体の黒い甲冑に身を包むドラゴンだけは例外で、攻撃の際に腰の刀と共に、味方の聖獣の力を使っているのだ。
(聞いた事があるな。全ての聖獣の上に立つことが出来る聖獣だけが使う事の出来る、味方の聖獣の力を全て受け継ぐ融合があると、確か名前は………)
相手の変幻自在な攻撃を、たった一本の刀で捌いているヴォルキャドンは、刀を振るいながらこう考えた。その瞬間である、
「special rush OK!!」
突如男性の声でアナウンスが流れると、ドラゴンの周りに四体の聖獣が集まり、彼らは光の粒子となってドラゴンの中へと入って行った。その結果、ドラゴンは最初に蟷螂の鎌を思わせる形状の鎌を手に持つと、それぞれが赤と黄色に染まり、赤い鎌には熱、黄色い鎌には電流が流れ始めた。最後に、タコのように見える形状に尾が裂けている蛇が入り込むと、ドラゴンの脚の形状が変化した。巨大な爪が生えた三本指の脚から、タコを思わせる八本の脚になった。
「いっけぇ、ブシドラゴン!!」
神司と思われる少女が、ブシドラゴンと呼んだドラゴンの後ろでこう叫ぶと、ブシドラゴンと呼ばれたドラゴンは八本の脚を用いて高く飛び上がり、脚をねじって回転させると、自身の体を横に回転しながら急降下し、刀で防御の態勢を取るヴォルキャドンの刀に、自身の持つ鎌を振り下ろした。
激しい金属音が鳴り響き、刃と刃の間で大量の火花が散ったが、ヴォルキャドンはその際の音と火花の量で、鎌の刃の弱い部分を見つけると、その箇所を刀で粉砕した。
「こちらも、簡単に負けるつもりは……」
刀を振り上げたヴォルキャドンは、その態勢のままこう言った。最後に、無いと言おうとしたが、負けるつもりが無いのはブシドラゴンの方も同じのようで、彼の取った行動に言葉を失った。
鎌を持っていた手は振り下ろす勢いのまま、下へと落ちて行った。しかし、すぐさま両手で腰の刀に手を掛けると、居合の要領で刀を抜き放ち、ヴォルキャドンの体を切り裂いたからだ。
この一撃を受けた事で、ヴォルキャドンの頭上に出ていた数字が0を差し、ヴォルキャドンはその場から消え去った。恐らくは、元の世界に戻ったのだろう。
戦いが終わってから、ブシドラゴンの神司と思われる少女は、先ほどの戦いを思い出しながら、こう呟いた。
「それにしても何だったんだろう。あの相手、妙にリアルな動きをしたし、ブシドラゴンもやたらと良く動いたような。」
しかし、考えるのをすぐさま止めると、頭上を眺めそこに表示された数字を見ながら、こう言った。
「まあ良いか、経験値もたっぷり入ったし。」
こうして、九人の援軍たちの戦いが終わり、彼らはそれぞれの日常に一足先に戻った。




