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第20話:祝勝会 - 最後の団欒 -

 カシュッと音を鳴らし泡立つ缶ビールを高らかに掲げ、お決まりの掛け声をひとつ。


〔〔「かんぱーい!!!」〕〕


〔いやー!! まじで良かったなとりぞう、念願叶ったじゃん!!〕

「ありがとう、緊張で死ぬかと思ったけどな」


 あの後、勢いに乗った俺達は見事に一位を獲り、最高の形でフューたんの配信は終了。現在、俺はイツメンに〝とり蔵、配信デビュー祝い〟をしてもらっていた。


 デスクの上にはちょっと豪華な晩酌セット、コンビニで買ったお気に入りの砂肝に加え今日はデザートのエクレアまで買ってある。


 今日くらいは贅沢してもいいよな。

 ふふっ……。


 まだ手は震え、頭の中はふわふわしていた。人生における夢の一つが叶ったのだ、興奮冷めやまぬとはまさにこのこと……グビと一口含んだキンキンのビールですらこの熱は抑えられない。


 いやーあの配信アーカイブは永久保存版だな、フューたんに名前を呼ばれている部分を切り取ってスマホのアラームにでもするとしよう。


〔本当、ありがとうございましたとりぞうさん〕

〔ん? ありがとうってどゆこと? ポコライオン〕

〔あ、いや違くて!! えーっとですね……〕


 通話越しにも分かる震え声。

 ふっ。俺は見破ったが、察しの悪いコイツにも教えてやるとするか。


「あー、ジョン松。実はな、ポコライオンさんって綴り手なんだよ」

〔そ、そう‼︎ ソウナンデスヨ。私、綴り手なので〕


〔なぜカタコト……へぇ、やっぱりか。どうりでVtuberに詳しいと思ったぜ……ん? だったとしても、なんで〝ありがとう〟なんだ?〕

〔そ、それは……〕


 ジョン松よ、それは鈍感すぎるだろお前。

 ラノベの主人公じゃあるまいし、 配信見てたら誰だって分かるだろ。


「あれだよ、クレーヴァーの」

〔あ、そっか。とりぞうがつづりん助けてたもんな。アレはまじで神ショットだった〕


「あのシチュ。お前なら最後の一人は途中で抜いてたんじゃないか?」

〔三人目? んー……どうかな、五分五分って感じ〕


 コンマ数秒しか顔を出さないチラ見ピーク、それも600m先の豆粒を五分五分か……。やっぱり反射神経とエイムで俺はこいつに勝てる気はしないな。


「流石だな」

〔いやいや何言ってる? 俺には最初の置きエイムのが意味不明なんだが、まじで何が見えてんのお前〕


 何がって言われてもな。


「全部?」

〔はい? 丘で射線切れてただろ〕


「いや、マップのモデル含めシステムデータは全部頭に入ってるんだから一瞬でも位置取れたら、あとは演算でその先を予測できるじゃん? あの時は確か……256通りのケースでシミュレーションしてたから、まぁ確率の話」


〔………〕


 沈黙の向こうで、微かに「ぇぇ~何言ってんのコイツ……」とため息のようなものが聞こえた気がした。


〔ジョン松さん。言ってるじゃないですか、とりぞうさんは私達と同じステージにいませんって〕


「? てか、二人ともリアルタイムで配信見てたとかなんか恥ずかしいな」

〔ったりめーよ、全枠追ってるって言っただろ? まじで興奮したぜ、お前がマッチした時。叫んだもん〕

〔わ、私もびっくりしました。まさかとりぞうさんと当たるなんて〕


 俺に勝るとも劣らない興奮っぷりを見せる二人の様子に、あの時の熱が脳裏へと蘇ってくる。


 つづりんの参加から、順位投票、パスワードを入力した瞬間の暗転に、途中の雑談まで……あの配信の全てが記憶に刻まれていた。それこそ、流れていたコメントのひとつひとつですら思い出せるほどの鮮烈さである。


 例えば途中のジョン松のコメント……とか……あ……。


「そういえばジョン松お前さぁ。途中二人がボイスのネタ募集してるときに、また変なコメントしてただろ。見てたぞ」

〔は? え、何のこと?〕


 響く口笛が、ノイキャンによって途切れ途切れで聞こえてくる。


 コイツ、しらばっくれてやがるな……。危うくフューたんがエッなボイスを撮らされるところだったのだ、今日という今日は許すわけにはいくまい。


 そもそも最近、Vtuberに対してセクハラ発言をするリスナーが多すぎる。タレントが笑いに昇華させてくれているから事なきを得ているものの、リアルでやったら一発でアウトだ。


 そりゃぁ好きな女の子にちょっかいかけたくなる気持ちもちょっとは分からんでもない……。どこかで聞いた話、心理学ではこれを『反動形成』というらしい。抑圧された本心とは正反対の言動を取ってしまう一種の心の防衛機能で、好きすぎるあまり逆に悪戯したくなるそうな……


 とまぁ、コイツが推しのキア嬢にそういったコメントをするぶんには愛の歪な表現なのかもしれんが、フューたんにセクハラしようものなら……ね。俺は許さんよ?


「アーカイブが残ってるんだ、言い逃れはできんぞ」

〔なんてコメントしてたんです? ジョン松さんは〕

「えっとね、先に行っちゃだめーみたいなやつ」

〔うわっ……あれですか……〕

〔え、いや、違うって。なぁ、あんなの冗談じゃんかー〕

〔穢らわしいですね、潰しましょうか?〕


 何を!?


「二対一だ、今後は考えを改めるんだなジョン松。ヴァ―学のみんなをいかがわしい目で見るのはやめとけ」

〔くっ……。でもお前だって、こないだつづりんのおっぱいに見蕩れてたじゃん〕


〔へ?〕

「は!? 何言って!?」


〔ふっ。俺は覚えてるぜぇ? てかいつもフューたんのことも、そういう目で見てるだろお前!! なんか以前、とんでもないローテーション説明してたのも思い出したぞこら。それに、おっぱいマウスパッドを買おうとしてたやつが何言ってんだ!?〕


「えっ、ちょっ、いや……」

〔くっくっく。何か反論はあるかぁい? 最古参パシリスさん〕


 やべっ、墓穴掘ったか。

 強烈なカウンターがきた。


 推しにするのはいいだろ、それは愛の歪な表現なのだから……なんて弁解がこの状況で通るとは思えん……詰んだ。


〔そ、そうなんですか? とり蔵さん〕

〔あぁ、コイツはフューたんのこといつも ────〕

〔そこじゃなくて!!〕

〔ん?〕

〔詞ノ葉 つづりのこともエッな目で見てたっていう……〕


 まずい……まずいですよ。


 フューたんならともかく、つづりん……ポコライオンさんの推しをそんな目で見ているなんて知られたら彼女も良い気はしないだろう。否定しかない、ここは絶対に否定一択だ。


「ないないない!! つづりんのことなんて全然、全く見てないから!!」

〔えっ……そ、そうなんですか……そんな……(ぶぅ)〕


 急にトーンの落ちたポコライオンさんの反応に疑惑の視線を向けられている気がして……。俺はひたすらにその気はないとディスプレイに向けて手を振り続けた。


〔いやいやぁ、まぁ聞いてくれポコライオン。こないだつづりんの配信で中の人が巨乳かを確認する質問があったんだけどさ〕

〔ん? それってもしかして肘がつくかーみたいなやつです?〕


〔なんだ、あの配信見てたのか。ってまぁ綴り手なら当然か〕


〔うわぁ……あれそういうことだったんだ。最低ですねジョン松さん〕


〔いや俺じゃねーよ!? あの質問したの〕

〔興奮してたのなら同罪です。汚らわしい……縫い付けましょうか?〕


 だから何を!?


〔まてまてまて!! 興奮してたのはとり蔵もだぞ⁉︎〕

「おい巻き込むなって」

〔そ、そうなんですか? とり蔵さん〕

「ノーコメントで」


 ポーカーフェイスならぬポーカーボイス。

 棒読みくらいが丁度よかろう。


〔だからそれは言ってるようなもんだって……。ほらなポコライオンよ、男は皆そういう生き物なんだって〕

〔ふ、ふーん……とり蔵さんもそうなんだ〕


〔いやなんか俺の時と反応違うくない!? 縫い付けろよ、とり蔵も!!〕

〔いやとり蔵さんなら別に(ごにょごにょ)〕


〔なんて?! ……てかポコライオン。綴り手というより、つづりん本人みたいな反応するのな〕

〔ふぇっ!? いやななななな何言ってるんですか!?!?〕


 つづりんとポコライオンさんか……。

 ヴァペ中にみた彼女の面影が思い出される。


「確かに俺もプレイ中、何回かつづりんのことポコライオンさんみたいだなぁって思ったんだよね」


〔とり蔵さんまで!? い、いや違くて……た、たぶん逆ですよ逆!!  私がつづりんの配信見てるから彼女に似ているんじゃないかなーと。そう!! きっとそれだーあはは〕


 なんかヤケクソになった人みたいな笑い方になってるけど……。なるほど?


「あぁポコライオンさんのスタイルってつづりん由来なんだ」

〔なーんか、引っかかるなぁ〕

〔は、ははは……そ、そうだ!! すいません私。日曜は予定があってINできないかもです〕

 

 不自然な話題チェンジ……。ポコライオンさんが話をはぐらかそうとしているのは明らかだったが、彼女の口にした〝日曜の予定〟というワードは俺にも重要事項だった。


「あ、そうだ俺も日曜予定あるんだった」

〔なぬ!? まさか二人でデートじゃないだろうな!?〕


〔ばばばかなkt言wないdくdsい〕

〔なんて!?〕


「いや、俺は副業の面接」

〔あー例の? そうかそうか、がんばれよ。俺とのオフイベのためにも〕


〔とり蔵さんなら絶対大丈夫ですよ〕

「サンキュー。バッチリ決めてくるわ」


〔でもあれだなー〕

「ん?」

〔とり蔵が副業始めちゃうと、こうしてとり蔵と通話する時間も減っちゃうよな……〕


 この時、何故かジョン松も妙なテンションだった。普段ならそんなしんみりとしたセリフは出てこない……というよりも先のことを考えて発言するような奴ではない。コイツにも何かあったのだろうか?


「いや、心配すんな。ちゃんと二人と遊ぶ時間は確保するから」

〔お、流石相棒。頼んだぜ?〕


 週に数時間程度のバイトなら残業と一緒。なんて高を括っていた俺は、この後の未来を想像することが全くできていなかった。


 そう、ジョン松とポコライオンさん、この二人とバカを言い合いながら団欒とするこんな時間が、今日を境に無くなってしまうということを……。


 この先、想像を絶する修羅場が待っているのだということを……。

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