第11話:ポコライオン4
〔ん? どうかした?〕
「呼び止めてしまってすいません。お、お礼を言いたくて……」
〔お礼?〕
「その……私、このゲームで勝ったの初めてで。色々と指示してくれたとり蔵さんのおかげです。ありがとうございました」
〔へぇそうだったんだ。良かった、まぁ俺は特になんもしてない気はするけど〕
「そんな、とり蔵さんはすごいです!! ────」
ネット上の知らない人とこんなに話をしたことが無かった私……。でもなぜか言葉はスラスラと口から出てきた。きっとお礼のセリフをきっかけに、今まで溜まりにたまっていた諸々があふれたのだと思う。
「私、皆から下手くそって言われて……。上手くなりたくって練習してるんですけど、全然ダメで」
〔なるほど〕
「とり蔵さんのプレイ見てビックリしました。こんなに上手い人、プロでも見たことなかったので……」
〔ははっ、ありがとう。まぁそれなりに努力はしてるつもりではあるかな。流石にプロレベルってことはないだろうけど〕
努力……。
私も自分なりに努力はしてきたつもりだったが、この人の言う努力とはきっと比べものにならないのだろう。いったいどれほどの……そんなふとした好奇心が口を動かす。
「努力……ですか?」
〔うん、フューた ──じゃなくて。うーんと……生命維持に必要な行動以外は全部ヴァペに費やした感じかな〕
生命維持とは、なんともまた独特な表現が飛んできた。
つまり、一日中ずっとヴァぺをやっているということだろうか?
「そ、それはすごいですね」
〔ははっ、ドン引きでしょ? まぁ色々犠牲にした結果辿り着いた極地なのかも〕
「そ、そんなことはないです! むしろ尊敬というか……私も見習わないと……」
〔ふーん、すごい向上心だ。でもあんま見習わないほうがいいよ、血とか出たし〕
「ち、血ですか?!」
〔うん、ケツから出た。あの時はまじで死ぬかと思ったね、会社休んだもん〕
え、えぇ……。
紳士的で好印象だった男の人が、実は変人だった件について……。この話はこれ以上深堀しない方が良いきがしてきたぞ。
「ち、ちなみにとり蔵さんから見て、私のダメなところってどこだと思いますか。……なんて、すいません急に変なこと聞いて、あはは……」
思いっきり舵を切ってみたものの……こんなことを聞いてどうするというのか。やっぱり今日の私はどうかしている。でも、この人なら私の改善点を教えてくれるかも、なんて妄想がふつふつと頭に湧いてきていた。
〔んー、別に俺はどこもダメだと思わなかったけど?〕
「ぇっ? いや、でも私めちゃくちゃ下手じゃないですか」
〔ただの伸び白だと思うけどなぁ〕
「伸び白ですか……」
あぁ……この人も一緒だ、綴り手さんと……。
そういってもらえるのは嬉しいけど、結局、気を使ってくれているだけで、伸びしろなんてものは私には存在しないのだ。
その証拠に……ヴァぺを始めてから今まで……。
「でも私、全然伸びなくて」
〔うーん、そうだなぁ……。ちなみにポコライオンさんは、こうなりたいみたいな目標はあるの?〕
「えっ、目標……。足を引っ張らないこと……でしょうか」
〔なら達成できてるじゃん。さっきの試合別に足引っ張ってなかったよ〕
「それはっ、とり蔵さんが上手いから」
そうだ、あれは私の力ではない。
〔いや、上手い人の足を引っ張ってないならどんな人の足も引っ張らないでしょ〕
「確かに……って。ん? いやそれはなんか違う気が……」
〔そう?〕
「そうですよ、実際そういうコメントばっかりだし」
〔コメント?〕
「あ、いや。よくチャットで言われるんです、足引っ張るなーって」
〔うーん……〕
思い起こされるのはアンチの暴言コメント達……そう、私のファンが過剰にフォローしてくれるだけで、やはり私が下手なのは間違いない事実なのだと思う。
〔女の子〕
「えっ?」
〔周りが見えていない〕
「えっ? えっ?」
〔動きが単調で撃ち合いが弱い〕
「えっ、えっ、えっ?」
〔結論、初心者〕
「な、なんですか? 急に」
〔俺がポコライオンさんを見た感想〕
「えぇ……普通に辛辣……」
〔でも足を引っ張ってるとは一度も思ってない、これが本音。《ドミネーター》のね〕
「そ、それは……」
屁理屈だ……。
結局私のこと……。
「下手くそだとは思ったんですよね?」
〔うーん、下手じゃない初心者を見たことがないからなぁ。だからこそ表現としては伸び白が適切だと思うけどね〕
「それは……でも私全然伸び……ってこれ堂々巡りしてますよ」
〔じゃあこういうのはどう? 最上位ランクの俺が言ってるんだから、そっちが正しいって論理。足引っ張ってるなんてチャット、そいつらみんな俺より下手くその戯言だーって思っちゃうとか〕
「ぼ、暴論すぎますよ」
〔ははっ、相手は暴言なんだからこっちも暴論で丁度いいじゃん〕
なんだこの人。予想外のとんでも理論を展開してきたぞ。
紳士的で好印象だった男の人が、実は過激派だった件について……。
とはいえまぁ、一理あるのかもしれない。ゲームを始めた初心者が皆、最初から上手いわけがなく、足を引っ張るなんてのは誰もが通る道なのだから多少の迷惑には目を瞑るべし……そういうことを彼は言いたいのだろう。
だが、それは一般的なユーザーの話であり、個人で楽しむ人の考え。
私のようにエンタメで、色々な人にプレイを見てもらう立場になってしまうと、結局下手くそなプレイはリスナーさんを不快にさせてしまうのである……。
「でも……私はやっぱり皆に楽しいって思ってもらいたいというか」
〔ふーん。でもそれも達成できてるよね?〕
「へっ?」
〔俺はめちゃくちゃ楽しかったけど? ポコライオンさんとプレイできて〕
「っ……だからそういうことじゃ……」
別にとり蔵さんの意見を否定したかった訳ではない。
嬉しい……。
嬉しいけど、やっぱり気になるのは……。
「ジャッカルさんとか凄い不機嫌でしたよね。私のプレイで」
〔あー……。でもさ、最後にあの人が何て言って出ていったか覚えてる?〕
最後?
思い出される彼の言葉。
『じゃーなー、まぁ楽しかったわ』
「あっ……」
〔ほらね? 少なくとも二人は楽しんでたわけだ〕
「いや、でも結局あれもとり蔵さんのおかげっていうか」
〔そーかなー? 俺はポコライオンさんのキャラだと思うけどね……ぷっ、特にウィンナーは最高だった、くくっ……〕
「ちょっ?! 笑わないでくださいよ……恥ずかしい……だって私、今まで勝ったことなかったし……」
頬が熱くなるのを感じた。
顔から火が出るってこういうことを言うんだ……。
〔それにジャッカルさんがツッコんだのも最高だったよね。「ソーセージかよ」って。ドイツ人でもないとできないでしょ、あんなツッコミ。ふぁっはっはっは‼︎〕
「もうっ……ぷっ、た、確かに。ふふっ……面白いけど……くっふふっ」
──────
────
──
〔はぁー笑った笑った〕
「私も、ゲームでこんなに笑ったの久々かもしれないです」
【この時既に私の悩みは笑いと共に吹っ飛んでいたのかもしれない】
〔まぁまだ納得できないならさ、今後も一緒にやる? ヴァぺ〕
「えっ」
〔その人達が黙るくらいまで、教えてあげようか?〕
それは、突然の誘いだった。
「で、でも私じゃランクも合わないし……」
〔いや。実は逆に好都合っていうか、俺が助かるっていうか〕
「?」
〔探してたんだよね、ポコライオンさんみたいなキャリーの練習できそうな人〕
「へっ? そ、そうなんですね……」
マネージャーからはこういうことはするなって言われたけど……。
私にはこれが運命の出会いだとしか思えなかった。
「じゃ、じゃあご指導頂いてもいいでしょうか?」
〔決まりだ。じゃあこれからよろしく~、まぁブースティングになるといけないからしばらくはカジュアルかな〕
「は、はい! よろしくお願いします!」
それから私は定期的にとり蔵さんとヴァぺをするようになった。
「もう一人変な奴いるけど、良い奴だから心配しないで」
◇◆
〔なるほど。それでつづりさん、急にヴァペックスが上手くなってたんですね〕
「はい、全部とり蔵さんのおかげなんです」
〔ふむ……つづりさんの配信者人生までは言い過ぎでしょうが、それなりの恩人ってのは分かりました〕
言い過ぎ……か。
マネージャーさんはまだ分かってない。
あの時、私がどれだけ悩んでたのか……。
あの時、私がどれだけ配信者を辞めようと思ったのか……。
あの時、私がどれだけ……。
きっと、とり蔵さんと出会っていなかったら私は今ここに、ヴァー学の詞ノ葉つづりとして座れていないだろう。
「言い過ぎじゃないです、それくらい私はあの人に救われました。他人から見たら所詮ゲームの話なんて大したことじゃないのかもしれないですが……私にとっては……」
たかがゲーム……されど配信者にとっては生命線でもあるのがゲームなのだ。
有名タイトルであればそれだけで視聴者がつくし、それがヴァペックスほどのビッグタイトルならなおさらである。
〔まぁ確かに……。今の会社のFPS押しは異常ですし、それを嫌いにならずに済んだってのは、そういうことなのかもしれませんね。ボチボチ他の配信者からも不満は出てますから……〕
「そうですよ!! 会社への貢献度を考えても、とり蔵さんはライブにいく権利が十分にあると思います!!」
貢献度なんて少しずるい言い方をしてしまったが、生々しい話、登録者が百万人を超えている私が配信をすればそれなりのお金が動く……。詞ノ葉つづりがヴァペックスを配信でプレイすることの会社へもたらすメリットが、ライブのチケット一枚と天秤にかかるようなレベルではないことを私は理解していた。
「多少無理しても一回の配信で元は取れますよ……ね?」
〔それはそうかもしれませんが〕
「じゃあ!!」
〔でもダメです〕
「っ……なんでですか!?」
スポッ ──。
熱が入り、身を乗り出すように画面へ向かっていた私の肩をスカすような音が鳴る。みると、マネージャーさんからチャットが送られてきていた。
〔つづりさん。業界トップアイドルのあなたが、もしチケットを裏で一般男性へ根回ししてたなんてバレたら大変なことになるんですよ? それこそ一発アウトです〕
「そ、それは……」
送られてきたのは、過去に彼氏バレして消えていったアイドルVtuberの記事だった。
・ゲーム画面にフレンド通知が映った。
・配信中に声が聞こえた。
・匂わせ写真がSNSに上げられた。
・クリスマスに配信しなかった。
直接的なものから、それは発想力が豊かすぎるだろうというものまで……。だがどの全ても記憶に残るほどの大炎上をしている。
確かに、配信者に処女性を求めるファンが多いというのがVtuber界隈の特徴で、異性関係は何よりも細心の注意を払わなければならないのは理解していた。
〔特につづりさんは男性の影を嫌うリスナーさんが多いんですから〕
「でも……」
〔大会で男性の配信者とチームになっただけでちょっと配信荒れたこともありましたよね?〕
そんなこと言われても……。
「この業界、裏で付き合ってる人なんていっぱいいるじゃないですか」
〔えぇ。おかげで運営は毎回、精神をすり減らしてますよ……。でもつづりさんやフューさん、あとはキアさんみたいなウチのエースタレントには絶対そういうことがないようにって釘を刺されてるんですよ〕
「そんな……それは会社の都合じゃないですか、契約上も恋愛は自由なはずでは?」
そう、異性関連に注意を払えと言われているだけで、別に禁止されているわけではい。プライベートで彼氏がいる子もいれば結婚している人さえ存在している。
〔もちろん、綴音さんが誰と恋愛しようが自由ですが、詞ノ葉 つづりという正体は絶対隠して下さいね。万が一表に出たら相手にも迷惑をかけることになるんですから、その方とも接する時は花見月 綴音として。でお願いしますよ〕
「もちろんそこは分かっています。それに、とり蔵さんは鈍感なんで全く気づいてないと思います。詞ノ葉つづりの事も、私の想いも……」
〔そんなに、その人のことが好きなんですか?〕
「それは……まぁ……はぃ」
──── !?
あれっ!? いま何言った私?!
違くて!! 違くて!!
いや、違くなくて……へっ?!
ヤバイヤバイヤバイ!!
マネージャーさん相手なのにめっちゃ心臓がドキドキしてきた。
〔ふーん。素顔も見たことないのに?〕
ととととり蔵さんの顔っ!?
確かに知らないけど……そんなの……。
「か、関係ないですね。てか、Vtuberを売りにしてる会社の人が素顔とか気にしちゃだめだと思いますけど?」
〔上手いこと言いますね。でもダメです〕
「もっー!! お願いします!! なんでもしますから!!」
〔気持ちは伝わりましたが、ダメなものはダメなんですよ。会社のルールなので〕
んー!!!!
…………だめか。
こうなったマネージャさんはテコでも動かない。
すいません、とり蔵さん……お力になれませんで────
〔まぁそのとり蔵って人が、ヴァペのプロとかなら可能性はありましたが〕
ん? 流れ変わったな。
「どういうことですか? 詳しく教えて下さい」
〔え、いや。今会社はFPSに力を入れてますよね?〕
「はいはいはいはいはい?」
〔えぇ……何そのテンション……。それで、最近ちょっとタレントの皆さんの実力が低いと色々プチ炎上しているじゃないですか?〕
「はいはいはいはいはい!! まぁ必ずそういったコメントはつきますよね!?」
マネージャさんの言う通り、かなり実力が上がったと思う私のヴァペ配信ですら未だにアンチコメントはゼロではなかった。それがFPSの苦手な他のヴァー学メンバーだと思うと、想像に難くないだろう。皆、苦労しているのだ。
〔そのため、会社はタレントに専属のFPSコーチをつけるという方向で今、対策を考えています〕
「ほうほうほうほうほう!! それで!?」
〔つづりさん……そんなキャラでしたっけ?〕
「私のことは気にせず続けてください!!」
私は食い気味にモニターへ顔を突き出していた。
これは……、まさか……、そんなラノベのような展開が!?
〔もしその方がプロ並みに上手ければ、これを機にウチで囲ってしまうというのは手とし────〕
「九位です!!」
〔は?〕
「とり蔵さんは世界ランク九位なんです!!」
私はまるで自分のことのように胸を張り、ドヤ顔でマイクに向かって叫んだ。




