第09話:ポコライオン2
《LOSER》
もう何度見たことだろうか、この画面上に表示される真っ赤な敗北の文字。
「あっ……やられちゃった。ごめんなさい」
:大丈夫大丈夫
:つづりんは悪くないよ
:最初はみんなそうだよ
:いや、センスを感じる
運営から課されたFPSゲームのノルマを達成するために、私はフューたんがオススメしてくれたヴァペックスをやることにした。
今まで『ほのぼのスローライフ系』のゲームしかしたことがなかった私は、基本操作すら怪しげで、FPS用語も何を言っているのか全く分からいという状態からのスタート……。案の定、全然上手くプレイすることができず、味方に迷惑をかけるばかりの毎日だった。
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「んー。やっぱり難しいですね、FPSって」
:いや上手くなってるよつづりちゃん
:今日も楽しかった!
:俺も初めてみようかな
:やはりセンスを感じる
だがそんな私でもリスナーのみんなは優しく接してくれた。
どんなプレイでも褒めてもらえ、的確なアドバイスをくれる。結果、他のゲームと変わらないくらいに配信は大盛り上がりで、皆が楽しそうだと私も嬉しかった。たとえ下手でも誰かのエンタメになっているのならばそれでもいいか、もっと続けてみよう。そう思えた。
「つづりさん。ちょっと急ですが来月、ヴァペの大会にオファーきてます」
……最初に変化を感じたのは、初めてのカジュアル大会に出た時。
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〔つづりちゃん、S側敵きてる〕
「あっと……えっと……S、Sは……」
〔逆逆!! 俺らの方!!〕
「ぎゃ、逆?! す、すいません、あっ!!」
〔うわー、やられたな〕
「うぅ……ごめんなさい。私のせいで」
〔いいよいいよ、つづりちゃんまだ初心者だし。気にしないで〕
〔あちゃー、ポイント的に今回は厳しいか。まぁエンジョイってことで〕
大会の成績は最下位で、私は完全に他箱の子やストリーマーさんの足を引っ張ってしまった。
:つづりん普通に上手かったよ!!
:うんうん、気にしない
:初大会で凄いよ
:いや、まじでセンスを感じた
そんな不甲斐ない私でも、綴り手のみんなは褒めてくれる。
:なんでこんなのが大会出てくんだよ
:下手すぎだろ
:こいつのせいで俺の推しが負けたんだが
:全肯定信者キメェ
だけど、その時からチラホラ私のことをよく思わないコメントも増えていった。
私だけならアンチの暴言などたまにあること……そう思うようにしていたが、綴り手のみんなまで叩かれるというのは正直きつかった。
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「つづりさん。今月のFPS配信のノルマ、未達ですね」
「すいません、ちょっと手が回らなくて」
「つづりさんは人気あるんですから、しっかり頼みますよ」
「は、はい……頑張ります」
そんなちょっとしたストレスからか、少しずつFPSから距離を置き始めていた私。
案件が重なった週や、イベントが多い週にはノルマ達成できないことがしばしば起こり、当時のマネージャーからはかなり詰められた。
〝会社の方針だ〟
〝業務命令ですよ〟
〝世界で今求められているのはこれです〟
〝数字を取るためにやってください〟
こちらの都合や、モチベーション等は一切関係なしにどんどん厳しくなっていくノルマ。正直、これ以上続けるのは厳しいと思っていたが……。
:最近つづりん、ヴァペやらないね
:けっこう好きなのにつづりちゃんのヴァペ
:見てて楽しいよな、わちゃってるつづりん
:絶対上手くなるから続けて欲しい、まじでセンスの塊
「綴り手さん……」
綴り手さんが求めているのなら……。
みんなが楽しんでくれるのなら……。
そう割り切ってなんとかノルマは守れるようにと、私は頑張って配信を続けた。
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「詞ノ葉 つづりさん。次の配信者ヴァペ大会、こちらのチームで出演してください」
そんな中、マネージャーさんが持ってきた次の大会の企画書。そこに私と同じチームとして書かれていたのは他事務所の男性Vtuberと、元ヴァペックスプロの配信者だった。
「え!? これってけっこうガチなやつじゃないですか。絶対無理ですよ……私じゃなくて冬華の方が適任だと思います」
「フューさんは他のイベントが調整つかなかったんです」
「そんな……。でも他の参加者を見ても皆上手い人達だし、私の場違い感がすごいというか……」
「まぁいいじゃないですか。つづりさんはそういう枠だし」
そういう枠。
運営側は別にゲームにおいて私の活躍は期待していないということだ。面白おかしく賑やかし、事務所の売名ができればそれでいいという考えなのだろう。
確かに、業界最大手のウチが参加すればそれなりに話題性は出る。驕りや慢心でもなんでもなく、実際にヴァ―学のタレントが出演するイベントというのは視聴者数がとんでもなく伸びるのである。
詞ノ葉つづりはあくまでも客寄せパンダであり、結果など求めていない。きっと企画者サイドも同じ考え……でもそんなこと、他の参加者や視聴者には1ミリも伝わっていないことを私は知っていた。
そもそも出るからには勝ちたいなんてのは普通の考え。私のファンも、同じチームの配信者さんのファンも、推しが負けるところなんて見たくないに決まっているのだ。
「絶対迷惑はかけられないっ……頑張らないと……」
私はできる限りの練習を積み、大会へと臨んだ。
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オファーがあったのはかなり大規模な大会で、実況と解説まで豪華なキャストがついていた。
《さぁ終盤戦。この視点は……ヴァーチャ学園の詞ノ葉 つづりです》
《ほぅ、つづりさん。あのメンバーによくついて行ってますね》
《確かに。チームメンバーはVtuber最強ヴァペプレイヤーと名高いテオノール、それに元プロチーム所属のドレモルです。この二人だけでここは優勝候補と言われていますね》
《本大会初参戦の詞ノ葉 つづり、初心者ということですがまさかの優勝も見えています》
《さぁ、試合もいよいよ大詰め。お、つづりさんの部隊が接敵しますね》
〔つづりさん、それ俺!! ヤバイって!!〕
「えっ!?」
〔バカバカバカ!!〕
《おぉーっと!? 詞ノ葉 つづり!! ここで痛恨のミス!!》
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいいぃい」
物事は順調に見えている時が一番危ない。まさにこの大会がそうだった。
試合の最終盤、優勝が脳裏にちらつき気が急いてしまった私がやってしまったのはまさかのフレンドリーファイア。一度味方を撃ってしまってからはもうパニックで、そこから先何をやったのか全く覚えていない……。
そんな私の信じられないようなミスでチームは壊滅、結果優勝を逃してしまった。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい。本当にごめんなさい」
〔パニクりすぎよ……まぁしゃーなし、しゃーなし〕
〔一声あると良かったかもですね〕
:はぁまじこいつ何やってんの
:私のテオくんの足引っ張んなよ
:ヴァー学やべぇだろ
:なんでこの大会出てきた?
負けた理由を作りだしてしまった私は、チームメイトのファンから総叩きにあい、信じられないくらい炎上……。
私への誹謗中傷だけでなく、ファン同士の傷害未遂事件も起こる程に大事に発展してしまった。
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「はぁ……。今日の配信どうしよう……」
もう私は配信でFPSをやるのが怖くなっていた。
でもヴァー学に所属する以上はノルマは守らないといけない……。そして私の配信を楽しみにしている綴り手のみんなを裏切りたくもない。
「上手くなるしかない……よね。でも配信は無理かも……」
私は配信の裏で練習して上手くなるしかないと思い、配信していない時もヴァペックスの必死に練習した。
ただ……。
いくら個人で頑張って練習しても私はちっとも上手くならなかった。




