第33話 切磋琢磨することを②
婚約をしてから1年と少しがたったある春の日。抜けるような青空のもと、私とジュスト様の結婚式が執り行われました。
高位の貴族の結婚式ともなれば、王都の大神殿で挙げるのが一般的ですが……私たちはオルトラ領、しかも神殿ではなく森の手前の広場で挙式したのです。
竜は私たちの良き隣人ですし、是非とも祝ってほしいですからね。おかげさまでオルタンシアの山頂から竜の咆哮が轟き、会場を沸かせるという一幕も。
参列者はどなたも笑顔で、私はそれが本当に嬉しい。
「あの呪術による襲撃事件は忘れられませんな!」
「もしやあの日もオルトラにいらしたのですか。当時の話を是非お聞きしたいですなぁ」
「いや全く面白い余興でしたよ」
こんな会話も色々なところから聞こえてきます。
もちろん誰も、あれが本当に余興だったとは思っていません。けれど表向きは余興です。
そして犯人たちは、裏側でしっかり罰せられています。王国の歴史にも記録にも名を残すことなく、まるで最初から存在しなかったかのように、彼らは姿を消しました。
後世、突然ミラベラ伯爵が宰相職を辞したことについて、歴史家の間では色々な憶測が飛び交うこととなるかもしれませんね。
「オリエッタ様、ご新郎はどちらに?」
参列者の皆さまへ挨拶をしながら会場内をうろうろしていると、友人の公爵令嬢が声を掛けてくれました。
私は会場の隅を指し示します。そこには、白い衣装に身を包んだジュスト様と、ファルカード公爵夫妻の姿が。
「あちらでご両親とお喋りを」
「まぁ。せっかくの結婚式ですのに」
「結婚式だからこそですわ」
ジュスト様とご両親との間には長い時間をかけて蓄積された誤解がありました。
いらない養子だと思い込んだジュスト様と、無理に成果などあげずともジュスト様を息子として愛しているご両親と。
彼らは互いに胸の内を明かす必要がありました。新たな家族を持つ結婚式は、家族の話をするのにうってつけだと思うのです。だから話してきたらどうですかって。
「それはそうと、他の皆さまは……」
「あちらでアンドレア様を取り囲んでいらっしゃいますわ」
今度は友人が会場の逆側を指差します。
彼女の言う通り、そこには若い女性の姿がたくさんあって中心にはお兄様がいるようでした。兄は未だに結婚相手を決めかねており、さもありなんといった感じでしょうか。
「あらー。我が兄ながら、人気ですわね……。って、ここにいていいのですか?」
「アンドレア様はきっと、オリエッタ様と仲良しな方をお相手に選ぶ気がするのです」
「私と?」
「はい。彼は騎士ですから。もしものときの心配事は少ない方がいいでしょう? だから、わたしがここにいるのは作戦ですのよ」
楽しげに片目をパチンとつぶって見せる友人に、私は思わず笑ってしまいました。
なんて計画的犯行!
けれど彼女はとっても綺麗な微笑みを浮かべ、私をぎゅっと抱きしめたのです。レモンにも似た香りがふわりと漂いました。
「お幸せそうでよかった。笑ってくれてよかった。わたし、本当に嬉しいのです。必ず、幸せになってくださいませ」
「ありがとうございます……!」
グズ、と鼻をすすりあげる音が聞こえて、私も泣きたくなってしまいました。
それから乾杯をして互いの幸せを祈っていると、不意に私の肩を抱く人が。
「お話し中失礼。彼女をお借りしても?」
「ジュスト様」
「もちろんですわ。わたしは散々オリエッタ様を独り占めしましたもの。お返しいたします」
友人にあらためて礼を言って、ジュスト様に連れられるまま会場を出ます。
どこへ行くのかもわからないまま彼について行くのは、王城での夜会以来でしょうか。あの夜は確か、竜が私たちを待っていて――。
橋を渡って西側の平原へ至ると、そこにはなんと竜の姿がありました。
「ふふ。また竜だわ」
「はい。オルトラの民は今後、竜と手を取り合って生きていきます。その証として夫婦で竜の背に乗り、領地を一周したいのです」
そんなこんなで飛び立った空の上。人々が小指の先ほどの大きさになるまで高く飛ぶと、もう気分はふたりきりです。
ふたりきりだと思うと、まだちょっとだけ緊張しちゃうのですが。
でも薬指に嵌まった竜の涙が視界の隅でキラっと輝くたび、幸せな気持ちが沸き上がってきます。プロポーズの際にいただいた竜の鱗は、ジュスト様の提案で指輪へ加工しました。
隣領の宝飾品店で、魔物素材の加工についてジュスト様が相談を重ねていたおかげで、スムーズにかつ素敵に加工していただけたのです。
「養父母と話をしました」
最初に口を開いたのはジュスト様でした。
私は頷くのみにとどめ、彼が話すのを聞くことに専念します。
「どうやら俺はずっと勘違いしていたらしい。養子に迎え入れたことを後悔しているのだろうと考えていたのですが、そうではありませんでした」
「はい」
「両親は俺を『愛している』と……」
背後のジュスト様が私の首元に頭を埋めました。温かくて、くすぐったくて、私は片手を手綱から離し、彼の頭を撫でます。サラサラのプラチナブロンドが風に煽られ、くしゃっとなりました。それもまた可愛い。
「誤解が解けてよかったです」
「オリエッタのおかげです。俺はあなたに成長させてもらってばかりだ」
「あら。私こそ、ジュスト様にたくさん磨かれましたわ」
お互いに磨き合い、成長し合って生きていきたい。
そんな思いを込めて、私たちの結婚式には「切磋琢磨することを誓う」という言葉を盛り込みました。
自分磨きとは人生を豊かにするものだと、フィオレ殿下に教えていただきましたが……ふたりでやればきっと何倍にも豊かになるんじゃないかと思います。
ジュスト様に感謝を伝えようと腰をひねりながら振り返ると、真っ直ぐにこちらを見つめるグレーの瞳と視線がぶつかりました。
いつも涼やかな彼の目元が、今はなんだか熱っぽい。まるで触発されたみたいに、私の心臓が大きく跳ねて。
彼の手が頬に触れ、私は目を閉じました。
終わりです!
最後までお読みいただきありがとうございました。
ジュストみたいに完全無欠なようで、お酒飲んだり好きな子の前だと全然そんなことはない
みたいな男子が好きです。
同好の士に届いて欲しい…!
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