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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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離れているからこそ

数日後。


倉庫の前で、住民たちが話し合っていた。


「次は、量を抑えよう」


「いや、こっちは需要がある」


「じゃあ、分けてみるか」


誰も、かおりを呼ばなかった。


それに気づいて、かおりは小さく息を吐いた。


(……そう)


それでいい。


助けを求められなかったことが、今は、少しだけ誇らしかった。


リーナが、隣に立つ。


「……何も言いませんでしたね」


「ええ」


かおりは笑った。


「ちゃんと考えてる」


「ちゃんと迷ってる」


それは、とても健全なことだった。


リーナは頷く。


「かおりが前に出ないから、皆が前を見る」


その言葉に、かおりは目を伏せた。


「私は、この世界を引っ張るつもりはないわ」


「この世界が、私なしで進めるようになるなら――」


そこで言葉を切り、静かに続ける。


「それが、一番いい」


白いソースも、木の盤も、人々の手を離れて、もう勝手に広がっている。


混ぜたのは、最初だけ。

動かしたのも、最初だけ。


あとは、世界が自分で選んでいく。


離れているからこそ、見える景色がある。


そんなことを、かおりはようやく実感していた。


最初は、噂だった。


市場で交わされる、何気ない会話。

商人同士の、酒の席での与太話。

街道を行き交う人間が、つい口にする一言。


「最近、あの新しい領地……妙に落ち着いてるらしいぞ」


誰かがそう言い、誰かが笑って受け流す。


だが、その言葉は消えなかった。


「作物が安定してる」


「争いが少ない」


「住民の顔が明るい」


どれも決定打にはならない。

だが、積み重なると――無視できない。



商人の一人が、リーナの館を訪れた。


「失礼いたします。こちらの領地で作られている木製の遊戯盤について、お話を」


「リバーシブル、ですか?」


リーナは、表情を変えずに応じた。


「ええ。単なる遊びにしては、随分と評判がよろしい」


「子供から大人まで使える」


「教育にも良い、と」


言葉は丁寧だ。

だが、探るような視線は隠れていない。


「製造数は?」


「再現性は?」


「他領地への販売予定は?」


――質問が、少しずつ“確認”に変わっていく。


リーナは、一つ一つ、線を引くように答えた。


「現状は、当領地内向けが主です」


「外部販売は、限定的にのみ行っております」


「用途の拡張は、考えておりません」


「……なるほど」


商人は引き下がった。

だが、その目は言っていた。


“これは、もう遊びではない”と。



その夜。


リーナは、書類に目を通しながら、静かに息を吐いた。


「……始まったわね」


誰かが攻めてきたわけではない。

誰かが責めているわけでもない。


ただ、気づかれた。


それだけで、十分だった。

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