芽吹く日常、任せるという成長
朝の空気が、やわらかい。
かおりは家庭菜園の前にしゃがみ込み、ゆっくりと畝を眺めていた。
湿った土の匂いと、若い葉の青い香りが混ざる。
「……うん、いい感じ」
芽は、確実に増えている。
背丈も、少しずつ伸びている。
「まあ……何が育ってるのか、いまいち解らないけど」
紫がかった実をつけ始めたもの。
縞模様の葉を広げるもの。
見た目だけでは、名前も用途も想像がつかない。
「ほんと、謎野菜よね」
そう言って、かおりは小さく笑った。
「でも、食べられるって言われてるし……まあ、いいか」
◇
水やりを終え、腰を伸ばす。
「自給自足的な生活って、意外と悪くないわね」
必要な分だけ育てて、必要な分だけ食べる。
派手さはないけれど、落ち着く。
「便利すぎないのが、ちょうどいい」
魔道具も、仕組みも、ここにはある。
でも、全部に頼らなくてもいい。
◇
ふと、視線を上げる。
畑の向こう。
村の方から、槌の音や話し声が聞こえてくる。
「……村、少しずつ大きくなってきたかな」
建物は増え、人の動きも増えた。
でも、不思議と騒がしさはない。
「みんな、自分で考えて動いてる感じ」
誰かの指示を待つだけじゃなく。
誰かの真似をするだけでもなく。
必要なことを見つけて、相談して、動く。
「……いい流れ」
かおりは、そう思った。
◇
最近は、かおり自身が前に出る場面も減ってきている。
「教えることは、まだあるけど」
「決めることは、もう私じゃなくてもいい」
それが、少しだけ寂しくて。
でも――
「……嬉しいわね」
誰かが自分で考えて出した答えが、村を動かしている。
それは、この場所が“集団”ではなく、“共同体”になり始めた証だ。
◇
畑に戻り、葉の影に隠れた小さな実を見つける。
「……あ、増えてる」
昨日より、確実に。
「人も、村も、野菜も」
「育つのは、ゆっくりね」
でも、それでいい。
かおりは、土のついた手を軽く払った。
急がない。
奪わない。
押しつけない。
「……このペース、嫌いじゃない」
家庭菜園を満喫しながら。
かおりは、芽吹く日常を静かに受け止めていた。




