家庭菜園!?
「……うん、だいぶ楽ね」
かおりは、小型耕運機をゆっくり押しながら、耕した土を振り返った。
ざくざくと、土が程よく崩れている。
力を込めて鍬を振るうのとは比べものにならない。
「これなら、腰も痛くならないし深さも、ちょうどいい」
魔力出力を弱めに設定したのが、正解だった。
◇
――その時。
「……おい」
背後から声がした。
振り返ると、ミリャが立っている。
どうやら、音を聞きつけて来たらしい。
「何だそれ?」
興味津々といった様子で、耕運機を見る。
「便利そうだな」
「でしょ?」
かおりは、少し得意げに答えた。
「小型耕運機って言うのよ。土を耕すための道具」
「ほう……」
ミリャは、周囲の耕された土地を見回す。
「確かに、早ぇな〜俺がやったら、半日かかりそうだ」
「半日で済めばいいけどね」
かおりは苦笑する。
ミリャは、腕を組んで少し考えたあと、言った。
「なあ」
「俺にも、今度貸してくれ」
「え?」
かおりは、目を瞬いた。
「畑、作るの?」
「当たり前だろ」
ミリャは、当然のように言う。
「俺だって、ここに住んでるんだ」
「肉ばっかりじゃなくて野菜も食いてぇしな」
「……あ」
その言葉に、かおりは気づく。
「そう、よね。私だけの場所じゃ、ないものね」
ここは。
もう、みんなの生活の場所だ。
「……うーん」
かおりは、耕運機を見つめる。
「だったらこれ、ちゃんと弟子さん達にも見せないと」
「え?」
「一台だけだと、順番待ちになるし使い方、間違えたら危ないし説明も必要だし」
「……ああ」
ミリャも、納得したように頷く。
「確かにじゃあ、すぐには使えねぇか?」
「うん」
かおりは、少し申し訳なさそうに笑った。
「これ以外にも、作るから畑作る人が増えたら台数、足りなくなるでしょ?出来るまで、待ってて」
ミリャは、にっと笑った。
「おう!楽しみにしてるぜ!畑が増えたら食事も、楽しみになるしな」
「だね」
かおりも、笑い返す。
◇
ミリャが戻っていく背中を見送りながら、かおりは思った。
「……家庭菜園、どころじゃなくなるかも」
一人分の畑。それが、二人分、三人分。
「農機具、量産……は、しないけど必要な分は、作らないとね」
かおりは、耕運機のスイッチを切った。
畑づくりは、もう個人の趣味じゃない。
この場所の“生活”そのものになりつつあった。
「よし!次は、種まき計画かな」
家庭菜園(仮)は、静かに本格化し始めていた。




