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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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重さと発想

「……んー……」


かおりは、腕を組んだまま唸っていた。


話は聞いた。

侯爵家のご令嬢。

足が不自由。

政治的な意味合い。

成功すれば恩。失敗すれば――。


「……中々の重大責任よね」


しかも相手は侯爵。

領主より上。

下手なことをすれば、何をされるか分からない。


「正直、怖いわ」


爺さんも、ミリャも、そこは誤魔化さなかった。


「ただし」


「断れば、別の誰かが口を出す」


「それが、より酷い形になる可能性もある」


かおりは、深く息を吐いた。


「……やるにしても」


「治す、じゃない」


「“楽にする”」


「それなら、私にも出来るかもしれない」



話を聞き終えたあと。


かおりは、無意識のうちに倉庫へ足を向けていた。


「確か……」


棚を一つ一つ見ていく。


「回収品……」


「処分予定……」


「……あ」


埃をかぶった、大きな物体。


「……車椅子」


元の世界の、古い型。

パンクしたタイヤ。

錆びたフレーム。


「この世界にも、似たのはあるって言ってたわね」


ただし、話を聞く限り、

構造は単純で、重く、操作に力がいる。


「比べると……」


かおりは、元の世界のそれを撫でた。


「やっぱり、こっちの方が合理的」


折りたたみ構造。

重心設計。

手元の操作性。


「……これに」


「動力を付けたら?」


人力補助。

いや、完全自動でなくていい。


「少し、押してくれるだけで」


「負担は、かなり減る」


「まずは……ここで再現、よね」


この世界の材料。

この世界の魔力。


「じゃないと、意味がない」



さらに、倉庫を漁る。


「……あー……」


今度は、小さめの器具。


「足用の補助器具……」


大人用。

しかも、片方だけ。


「何でこんなのまであるのよ……」


思わず苦笑する。


「ほんと、何でもかんでも倉庫に放り込んでたわね、私」


だが、形を見る。


関節。

固定具。

負荷を逃がす構造。


「……応用、出来そう」


大人用を、そのまま使うのは無理。

だが、構造を縮小すれば――。


「子供用に、作り直す」


「軽くして」


「成長に合わせて、調整出来るように」


かおりの目が、少しずつ真剣になっていく。



「……関節部分!ここが、肝よね」


単純な固定では、意味がない。

動こうとした時に、助ける。


「……魔法」


ふと、ミリャの言葉を思い出す。


生活魔法。

風。

圧。


「風の魔石……空気の圧力で、補助をかける?」


動かそうとした方向に、

少しだけ力を足す。


「常時じゃなくて、必要な時だけ」


「……うん。悪くない」


魔石は小型。

出力も抑える。

暴走しないよう、物理構造で制限。


「補助、だから歩けるようにする、じゃない」


「“動こうとした意思”を」


「支えるだけ」



かおりは、作業台に向かい、紙を広げた。


車椅子の構造図。

補助器具の関節。

魔石の配置。


「……これ」


「魔道具というより」


「生活道具ね」


そして、ふと気づく。


「……あ」


「これ」


「もし、侯爵家の話がなくても」


「必要な人、いるわよね」


戦で傷を負った人。

事故で足を悪くした人。

年老いた人。


「……やっぱり」


「慎重に、やろう」


政治の道具には、しない。

でも、閉じ込めもしない。


「まずは」


「試作品」


「それから……」


かおりは、静かにペンを走らせた。


「出来るかどうか、じゃない」


「どう作るか、ね」


責任は、重い。


でも。


それ以上に。


「……放っておく方が」


「後味、悪いわよね」


倉庫の中。

静かな明かりの下で。


かおりの発想は、

誰かの未来へ、少しずつ形を取り始めていた。

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