爺さんの友達襲来!
「……散々な言われようだったぞ」
森を抜けながら、男は肩をすくめた。
街で護衛を雇おうとしたが、名前を出した途端に渋い顔をされ、
「一人で行かん方がいい」
「関わるな」
「命が惜しけりゃやめとけ」
と、口々に言われた。
「護衛拒否されるとはな……」
だが、同時に理解もした。
「あの爺さん、相当な噂を流してやがるな」
近寄るな。
深入りするな。
関わると面倒だ。
逆に言えば――
秘密は、しっかり守られている。
「……やれやれだ」
そう思いながら進んだ先。
見張りの者が、こちらに気づき、声を上げる。
「爺さんの知り合いってのが来てるが?」
その声に、倉庫の前にいた爺さんが顔を上げた。
「おー!奴め、やっと来たか!わしが対応する」
「……大丈夫か?」
「問題ない」
杖を突きながら、一歩前に出る。
「ここを見たら、腰を抜かすぞ」
◇
森を抜けた瞬間。
男は、言葉を失った。
「……」
建物。
柵。
人の動き。
明かり。
「……こんな所に、生活圏を、建てたのか?」
爺さんは、苦笑する。
「まあまあ、そう言うな!こればっかりは、成り行きじゃ」
男は周囲を見渡す。
「しかし……まだ、そんなに日が経っとらんはずだろう。建物が……多すぎる。人の数は、そこまででもないのに」
「お前さんに知らせたあと」
爺さんは、にやりと笑った。
「更に、色々出来たぞ」
「……見せてもらうか」
◇
倉庫内。
魔力帯鋸。
魔力鋸。
明かり。
作業する人々。
男は、次第に歩みが遅くなっていった。
「……何だ、これは?!この機械……それに、ここの連中?!魔法を……!?可笑しな使い方、しとるぞ!?」
爺さんは、満足そうに頷く。
「そういうことじゃ?如何じゃ?ひっくり返るであろう?」
男は、深く息を吐いた。
「……これは。想像以上だ!正直、甘く見ておった」
◇
倉庫の外。
二人は、少し離れた場所で腰を下ろした。
「そこでじゃ」
爺さんが切り出す。
「如何する?この地を」
男は、すぐには答えなかった。
森を見渡し、建物を見、行き交う人を見る。
「……あの街の領主なら。独占を、目論むだろうな」
「そうじゃな」
爺さんは、即座に肯定する。
「だが。かおりは、それを望んでおらん。見ながら、楽に暮らせる様に。それだけを、望んでおる」
男は、腕を組む。
「……なら。ここを、かおり殿の領地にするのは?」
爺さんは、フォフォと笑った。
「名誉や権力には、興味が無いと来ておる。自由気ままに、のびのびさせた方が伸びる娘じゃ。それに政治は、向かんな」
「……なるほどな」
男は、額を押さえた。
「それで、か。しかし……参ったな」
「だがな……」
しばらく黙り込み、やがて顔を上げる。
「少し、考えさせてくれ」
「まあ、ええが」
爺さんは、真顔になる。
「時は、それほど多くは無いぞ」
◇
男は、ふっと息を吐いた。
「……それならば。更に、上だ」
爺さんが、目を細める。
「この森を治める、侯爵家。そのご令嬢の足が悪いのは、知っておるな?」
「ああ。。確か……十代半ば、だったか?」
「そうだ」
男は、静かに言った。
「その子の足を歩ける、とまでは言わん。だが……少しでも自由に、出来んか?」
爺さんは、しばし沈黙し――
やがて、口元を緩めた。
「……んーかおり殿に相談してみるかの?」
二人の視線は、倉庫の方へ向く。
そこでは、かおりが図面を広げ、
弟子たちと楽しそうに話していた。
この場所は、もう。
ただの“拠点”ではない。
次の一手次第で――
世界の重心そのものが、動きかねない場所になっていた。




