形になった成果
建築に必要な道具作りは、驚くほど順調に進んでいた。
魔力帯鋸。魔力鋸。魔力ドリルの原型。
簡易だが確実な魔力釘打ち機。
それらが揃ったことで、作業の流れは一変した。
「次の柱、もう切り出せてます!」
「板足りないって言ってたの、昨日までだぞ!」
「屋根材、今日中にいけるな!」
現場の声が、明るい。
かおりは少し離れた場所から、その様子を見ていた。
「……すごい」
思わず、そう呟く。
ほんの数日前まで、丸太を担ぎ、汗だくで鋸を引いていたのだ。
それが今では、役割分担も自然にでき、無駄な動きがほとんどない。
「建築、こんなに早く進むなんて……」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
「これなら……」
かおりは、完成間近の家々を見回した。
ミリャの家。鍛冶師の作業場付きの家。
木工士の広い加工場。洋裁師の明るい作業場。
「……みんなの家」
「完成、するわね」
しかも、この人数で。特別な専門集団でもない。魔法が得意な者も、そうでない者もいる。
それでも、形になった。
「やっぱり……」
「道具って、大事ね」
何でも屋として、これ以上ない実感だった。
◇
その日の午後。
森の奥から、聞き慣れた足音がした。
「おーい!」
「戻ったぞー!」
「……ミリャ!」
かおりが振り向くと、そこにはミリャの姿があった。
軽装だが、いつものように余裕のある足取り。
「おー、早いな、完成!」
周囲の建物を一目見て、素直に感嘆する。
「……何だこれ」
「俺が出る前より、倍は増えてねぇか?」
「そうよ」
かおりは、少し誇らしげに胸を張る。
「道具が揃ったから建築、かなり短縮できたの」
「ははっ!」
ミリャは笑った。
「相変わらず、とんでもねぇな」
◇
倉庫の前。
爺さんが、ミリャに声を掛ける。
「如何じゃ?」
「売れたかの?」
ミリャは、肩をすくめる。
「問題なかったぜ」
「いつも通り魔石も、相場も誰も疑っちゃいねぇ」
爺さんは、満足そうに頷いた。
「ふふふ……」
「それで良い」
「“いつも通り”が、一番じゃ」
かおりは、そのやり取りを横で聞きながら、少し緊張していた。
だが、ミリャは続ける。
「むしろ」
「最近、魔石の質が落ちたって愚痴ってたな。透明なの増えたって」
爺さんの目が、僅かに細まる。
「……ほう」
「それは、好都合じゃ」
◇
夕方。
作業が一段落し、人々がそれぞれの持ち場へ戻っていく。
爺さんは、杖を突きながら、倉庫の外を歩いた。
完成に近づいた家々。動きやすくなった現場。
安定した明かり。
「……ひとまず、じゃな」
小さく、独り言のように呟く。
「芽は、根付いた。急に引っ張れば、折れるが今は……」
かおりの方を見る。
彼女は、次の道具の図面を眺めながら、何やら考え込んでいた。
「……次の手を、考える時期かの」
誰にも聞こえないように、爺さんは笑った。
表では、建築と生活の安定。
裏では、静かに進む仕込み。
「さてさて……次は、どこまで広げるか」
この場所は、もう偶然の集まりではない。
意図せずとも、確実に“流れ”が生まれ始めていた。




