形になる流れ
「……よし、まずはここまで」
かおりは、描きかけの設計図から顔を上げた。
帯鋸――魔力帯鋸。
頭の中で考えるだけだった流れが、少しずつ紙の上に落ちてきている。
「じゃあ、これを一回見てもらおうか」
設計図を抱え、弟子たちの作業台へ向かう。
◇
「……なるほど」
「駆動部は、魔力鋸の応用ですね」
「ここに、魔力充電器を噛ませて……」
弟子たちは、図面を囲み、次々と指を差す。
「でも、このままだと」
一人が、首を傾げた。
「魔力の戻りが、刃に干渉しませんか?」
「……あ」
かおりは、すぐに気づいた。
「確かに」
「循環が早すぎる」
「一度、逃がす経路が必要だな」
別の弟子が、魔術式を指でなぞる。
「ここに、緩衝用の式を入れましょう」
「魔石集合体の前に」
「魔力を、少し散らす」
「いいね」
かおりは、設計図に赤線を引く。
「じゃあ、ここ修正」
「それと……」
弟子の一人が、言いにくそうに続けた。
「刃のテンション調整」
「魔力振動だと、金属疲労が心配です」
「……うん」
「ここは、物理でいこう」
「魔法に頼りすぎない」
弟子たちが、少し驚いた顔をする。
「物理、ですか」
「バネと、調整ネジ」
「壊れたら、誰でも直せるように」
その言葉に、皆が納得したように頷いた。
◇
修正を終えた設計図を、もう一度見直す。
「……よし」
「これなら、魔道具化できる」
次は、部品。
「鍛冶屋さんに、頼まなきゃ」
刃。
支軸。
テンション機構。
かおりは、必要な部品をリストアップする。
「精度は、そこそこでいい」
「でも、丈夫なのが最優先」
「あと」
「刃は、交換前提」
「使い捨てじゃ、困るから」
弟子の一人が、メモを取りながら笑った。
「完全に、現場目線ですね」
「現場が止まるの、一番困るもの」
◇
数日後。
鍛冶屋から、部品が届いた。
「……いい仕事」
刃は均一。
軸も歪みがない。
「じゃあ、組み立てよう」
倉庫の一角が、即席の組立場になる。
弟子たちは、設計図を見ながら動く。
「ここ、こう?」
「違う、先に軸を通す」
「魔力充電器、後だ」
かおりは、少し離れた場所から全体を見る。
「……流れ、出来てきたわね」
設計。
確認。
修正。
部品手配。
組立。
自然と役割が分かれ、無駄が減っている。
◇
試作品。
魔力帯鋸・一号。
丸太をセットし、固定。
「……行きます」
弟子が、魔力を流す。
――ウゥン。
刃が、静かに走り出す。
「……安定してる」
「振動、少ない」
恐る恐る、丸太を押す。
ザァ――。
均一な板が、切り出された。
「……!」
「切れ味、問題なし!」
かおりは、思わず笑った。
「よし」
「合格」
弟子たちから、歓声が上がる。
◇
完成した魔力帯鋸は、すぐに現場へ運ばれた。
「これ、使ってください」
大工役の男が、目を輝かせる。
「おお……」
「これなら、板が一気に作れる!」
その場で、すぐに使われ始める。
作業速度が、目に見えて上がった。
かおりは、その様子を眺めながら、静かに息を吐いた。
「……やっぱり」
「流れが出来ると、強い」
一つの道具が、完成するたび。
この場所は、少しずつ“工房”から“拠点”へ変わっていく。
かおりは、次の設計図を取り出した。
「さて」
「次は、ドリルかな」
自然と、次の一歩が見えていた。




