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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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最初の持ち込み

森の朝は、静かだった。


だが、その静けさを、踏み慣れない足音が破る。


「……ここ、だよな」


倉庫の前で足を止めたのは、三十代半ばほどの男だった。

革鎧はくたびれ、剣もよく手入れされている。

典型的な、街の冒険者だ。


「副産物処理場……」


建物を見上げ、喉を鳴らす。


「……本当に、こんな所で」


周囲を見回すが、人の気配はある。

だが、騒がしさはない。


男は、腰の袋を叩いた。


中には、透明になった魔石が五つ。

価値は、ほぼない。


だが、捨てるのは気が引ける。


「……ええい」


覚悟を決め、倉庫の扉を叩いた。



「来たぞ」


爺さんが、短く言った。


かおりは、作業の手を止める。


「……本当に来るものなんですね」


「最初は、こういう連中じゃ」


「困ってるが、深入りしたくない」


爺さんは、表情を切り替えた。


「さて、“演技”じゃ」


倉庫の一角が、仕切られる。

魔力集束板は布で覆われ、充電器は奥へ。


表に出るのは、簡素な台と木箱だけ。


「……大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃ」


爺さんは、杖を鳴らす。


「わしが話す」


扉が開く。


男が、一歩踏み入れた瞬間、空気が変わる。


「……失礼」


「何用じゃ」


爺さんの声は、低く、事務的だ。


「空の魔石を……引き取ってもらえると聞いて」


男は、袋を差し出した。


「……確認する」


爺さんは、袋を受け取り、無造作に中を見る。


「五つか」


「再利用は、しない」


「了承しておるな?」


「はい」


「では、こちらへ」


男を、倉庫の端へ案内する。


そこには、魔力を吸い取る“処理槽”――

という名目の、ただの木箱が置かれていた。


爺さんは、儀式めいた動作で魔石を入れる。


「……終わりじゃ」


「え?」


「処理は、内部で行う」


「立ち会いは不要」


男は、拍子抜けしたように瞬いた。


「……それだけ?」


「それ以上、見たいか?」


「い、いえ!」


男は、慌てて首を振る。


「危険と聞いてますし」


「なら、帰るがよい」


「……ありがとうございました」


男は、そそくさと立ち去った。



扉が閉まった瞬間。


「……ふぅ」


かおりが、息を吐いた。


「怖かった……」


「上出来じゃ」


爺さんは、満足そうに言う。


「深入りさせんのが、肝要」


「見せるのは、最低限」


すぐに、内部作業に切り替わる。


布が外され、集束板が姿を現す。


「じゃあ……」


かおりは、魔石を手に取った。


「内部確認」


五つの魔石は、完全に空だ。


「劣化は……許容範囲」


「一度、通しましょう」


魔力充電器が、静かに起動する。


集束板に、淡い光が走る。


「……きれい」


かおりは、呟いた。


表では、“処理”。


中では、“再調整”。


同じ行為が、全く違う意味を持つ。


「……これ」


かおりは、爺さんを見る。


「本当に、世界変えますよね」


「じゃから、隠す」


爺さんは、即答した。


「世の中はな」


「良い物ほど、奪われる」


魔石の一つが、薄く色を取り戻す。


「……成功」


「初回としては、十分じゃ」


かおりは、胸を撫で下ろした。


「外に見せた顔と」


「中の本当の姿」


「……違いすぎますね」


「それで良い」


爺さんは、杖を床に立てる。


「二つを混ぜたら、壊れる」


倉庫の外では、風が木々を揺らしていた。


最初の持ち込みは、無事終わった。


誰も騒がず、

誰も疑わず。


処理場は、処理場として機能した。


そして、その裏側で――

静かに、次の準備が進んでいた。

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