給食という名の第二次カレー騒動
「……はい?」
かおりは固まった。耳を疑った。
今、目の前の少女――いや領主様は、なんて言った?
「ですから」
リーナは当然の顔で言う。
「給食を導入しましょう」
「きゅ、きゅう……?」
「給・食、です」
「……なんで?」
素で出た。
学校が出来る!ここまでは分かる。
授業する!分かる。
先生増やす!分かる。
でも。
「なんでご飯まで!?」
机の上には学校計画書。
その端っこにさらっと書いてある。
【給食制度(案)】
いやメインみたいな顔してるけど!?
「理由は単純です」
リーナは指を一本立てる。
「空腹では集中力が落ちます」
「まあ、うん」
「家が遠い子もいます」
「うん」
「保護民の中には食が安定しない家庭もあります」
「……うん」
「なら、学校で出せば良いのでは?」
「正論が強い!!」
ぐうの音も出ない。
経営者の理屈が強すぎる。
「で、でもですよ?」
かおりは抵抗する。
「食事って……準備大変ですよ?人数分ですよ?何十人……いやもう百人近いですよ?」
「はい」
「しかも毎日!」
「はい」
「調理場!人手!食材!仕込み!」
「はい」
「……」
「はい?」
「……やります」
負けた。論理に完敗。その日の午後。
旧倉庫の横。即席の大鍋が並んでいた。
「でかくない?」
「でかいですね」
「これ戦争用?」
「給食用です」
「同じでは?」
料理人見習い+夜学卒業組+カレー屋スタッフ。
総動員。なぜか大工までいる。
「俺ら何すんの?」
「鍋運び」
「力仕事!?」
「今日のメニューは簡単なものからです」
リーナが宣言。
「具沢山スープとパン」
「……あ、平和」
よかった。いきなりカレーとか言われたらまた暴動だった。
問題はそこじゃなかった。
「先生ー」
子供が手を挙げる。
「なんです?」
「量どれくらい食べていいの?」
「え?」
「俺いっぱい食べたい!」
「私も!」
「三杯!」
「五杯!」
「食堂か!!」
さらに。
「肉入ってる?」
「野菜嫌い!」
「甘いのがいいー!」
「俺塩濃いの!」
「注文多いな!!」
もう屋台!完全に屋台!
「……これ、学食じゃなくて祭りでは?」
かおりが呟く。配膳スタート。
どたばたどたばた。
「並んでー!」
「押すなー!」
「パン落としたー!」
「床はダメぇぇぇ!」
戦場だ!その時。
「おかわり!」
「早い!!まだ一杯目だよ!?」
職人のおっさんがすでに二杯目持ってる。
「仕事より体力使うんだよ勉強は」
「理屈がおかしい!」
さらに。
「あの……」
おじいちゃん。
「はい?」
「若いもんが遠慮してるから……わし少なめでええよ」
「優しい……!」
心が洗われる。やっと全員座る。
「「「いただきまーす!!」」」
しーん。
もぐもぐ。
もぐもぐ。
……静か。
「……あれ?」
さっきまで戦争だったのに。
「うま……」
「温けぇ……」
「パンふわふわ……」
「スープうめぇ……」
ぽつぽつ声が漏れる。
子供も!大人も!職人も!みんな同じ顔。
「あー……」
かおりは小さく笑った。
「これは……必要だわ」
リーナが隣で頷く。
「でしょう?」
「勉強って、体力使うんですね」
「はい」
「だから食べる」
「はい」
「だからまた来る」
「はい」
「……なるほど、循環だ」
食べて、学んで、働いて、回ってる。いい流れだ。すごくいい流れ。
その時。
「先生ー!!」
嫌な予感。
「どうしました!?」
「明日の給食、カレーがいいー!!」
「「それだぁぁぁ!!」」
全員賛同。
「待って!?待って!?」
リーナがにっこり。
「良いですね」
「よくない!!また匂い騒動起きますから!!」
「では香り控えめで」
「無理です!!」
かおりは空を見上げた。学校を作ったら。
次は給食。その次は――
「……これ絶対、給食センターとか出来る流れだよね」
領地の発展。止まる気配ゼロ。
そして今日もまた。新しい“仕組み”が。
盛大な混乱と一緒に、当たり前になっていくのだった。




