設計図より先に決裁が飛んでくるのはこの領地の仕様です
「……よし」
かおりは大きく伸びをした。
ぱきぽき。背中が鳴る。
机の上は紙、紙、紙。
走り書きのメモ。
時間割案。
担当表。
進捗表フォーマット。
「生徒が先生制度(仮)」とかいう謎タイトルのページまである。
「……文化祭の実行委員かな私」
誰も頼んでないのに本気で作ってるのが怖い。
でも。
「学校系は……大体、纏まったかな?」
ぺらぺら確認。
午前:子供基礎(読み書き計算)
午後:職業訓練(道具・帳簿・技能)
夜:大人夜学(復習+実務)
講師ローテーション制。
生徒先生制度。
日誌と進捗管理。
簡易テスト。
「……うん、わりと“それっぽい”」
昨日まで「倉庫でわちゃわちゃ」だったのに。
急にちゃんとした教育機関感。
紙を重ねて、トントン揃える。
「リーナさんにも一度、見せないとなぁ〜」
あの人。建物の決断だけは爆速だけど。
中身はわりと「かおりさんにお任せします」タイプ。
丸投げ女領主。
「……いや、信頼されてるって思っとこう」
前向き大事に廊下を歩く。
外では。
トンカン!ガンガン!
「まだ作ってる!?」
もう夕方よ!?
「梁もう一本いけるぞー!」
「夜露?気合いで乾く!」
「理論がおかしい!」
完全に体育会系建築。
これほんと学校だよね?
砦じゃないよね?呆れつつ執務室へ。
コンコン。
「どうぞ」
中ではリーナが書類の山と格闘していた。
優雅な顔で。めちゃくちゃ量。
「うわ……まだ仕事してたんですか」
「ええ、学校関連の予算申請が爆増でして」
「あ、原因私だ」
「自覚ありましたか」
にこっ。笑顔が刺さる。
「で、どうしました?」
「これ」
どさっと紙の束を置く。
「学校の中身。仕組み案」
「……もう出来たんですか?」
「勢いで」
「仕事が早い」
褒められてるのか呆れられてるのか分からん。
リーナが読み始める。
ぺら。
ぺら。
静か。
「……」
真顔。怖い。
「……ダメでした?」
「いえ」
もう一枚。
「……ほう」
さらに一枚。
「……なるほど」
反応が経営会議なのよ。数分後。ぱたん。
書類を閉じる。
「素晴らしいですね」
「ほんと?」
「はい」
即答。
「時間割、担当分担、進捗管理、講師育成……完全に“回る組織”の設計です」
「工場の応用です」
「教育を工場化しないでください」
「言い方!」
でも、リーナは楽しそうに笑う。
「生徒が先生制度、良いですね。あれ自然発生してたんで、自主性が育ちます。あと講師不足の穴埋め」
「現実的」
大事。さらに。
「日誌と記録……これが特に」
「改善できないと意味ないですから」
「……やはり、あなたは怖い人ですね」
「なんで!?」
「善意で組織を最適化していくタイプです」
悪の軍師みたいに言わないで。
しばらく沈黙。そして。
「では」
さらっと。
「この内容で、正式に学校制度化しましょう」
「……はい?」
「え?」
「え?」
「え??」
「明日、建築班に第二校舎の設計も依頼します」
「待って待って待って」
「はい?」
「今なんて?」
「第二校舎」
「まだ一校舎も完成してませんが!?」
「需要的に足りません」
即答。
「夜学、既に定員オーバーですし」
「それはそうだけど!」
「今建てれば冬前に間に合います」
「判断が早すぎるのよ!!」
この人、決裁スピードが弾丸。
「あと寮も作りましょう」
「なんで増えるの!?」
「遠方からも来るでしょう?」
「来る前提!?」
「来ます」
断言された。未来が見えてるの?
「……あの、まずは様子見とか」
「機会損失です」
経営者の顔してる。強い。
「それに」
ふっと柔らかく笑う。
「学びたいと言っている人を、待たせる理由はありませんから」
「……」
ずるい。
それ言われると反対できない。
子供も。大人も。おじいちゃんも。
みんなあの「出来た!」の顔してた。
「……もう好きにしてください」
「はい、好きにします」
即答。
「でも」
リーナが紙をトントン叩く。
「設計者は、引き続きかおりさんで」
「ですよねー!!」
逃げ道ゼロ!はぁ、とため息。
でも。
嫌じゃない。むしろちょっとワクワクしてる自分がいる。
「……ま、いっか」
「はい?」
「どうせやるなら、最高の学校にしましょ」
リーナが嬉しそうに頷いた。
「ええ。きっとこの領の宝になります」
窓の外。まだ響く建築音。
どうやらこの領地。
学校一つで終わる気、全くないらしい。
「……これ、私また忙しくなるやつだ」
嬉しい悲鳴を飲み込みながら。
かおりは、新しい書類をもう一枚引き寄せたのだった。




