先生が足りませんので生徒が先生になりました
「……人、足りなくない?」
朝。倉庫前。
かおりは名簿を見ながら固まっていた。
昼組、三十五名。
夜組、五十名。
増えてる。昨日より増えてる。なんで。
「講師は……書記官三名、商人二名、職人二名、私」
数え直す。
「どう考えても足りないよね?」
どう甘く見積もっても比率がおかしい。
先生1:生徒10どころじゃない。
1:15とかそれ以上。
ブラック部活か。
「おはようございます、かおりさん」
背後からいつもの穏やかな声。
「リーナさん、講師増えました?」
「いいえ」
「ですよねぇ!!」
即答だった。中を覗くと、もうカオス。
「先生ー!これ合ってるー!」
「こっち読めません!」
「チョークない!」
「机ガタガタ!」
同時多発テロか。
「あああ無理無理無理!!分身したい!!」
頭を抱える。その時。
「……かおり先生」
控えめな声。振り向くと、夜学常連の商人のおじさん。帳簿マスターおじさんだ。
「足りないなら……俺、教えましょうか」
「……え?」
「計算くらいなら、人に教えられると思うんで」
ぽりぽり頭をかく。さらに。
「じゃあ俺、読み書き見るぞ」
鍛冶師のゴツいおっさん。
「あ? なんでお前が」
「字くらい読めるわ!」
「俺より綺麗じゃねぇか!」
なぜか張り合い始める。さらにさらに。
「子供たちなら任せて」
昨日トップだった女の子が胸を張る。
「“あいうえお”教えるの得意!」
「先生だ!」
「ミナ先生ー!」
もう先生扱いされてる。
「……え、ちょ、ちょっと待って?」
状況が早すぎる。気付けば。
「初心者こっちー!」
「3の段からやるぞー!」
「字はゆっくりなー!」
あちこちで“即席先生”が誕生。
完全セルフ運営。
「……私、いらなくない?」
ぽつり。
リーナが横で微笑む。
「理想的ですね」
「どこが!?」
「教えられる者が教える。自然な循環です」
いやまあ理屈は分かるけど。見渡す。
子供が子供に教え。
鍛冶師が真顔で算数を説明し。
商人が帳簿の書き方を熱弁してる。
「そこ桁違う!破産するぞ!」
「こわっ!?」
やけに実践的。そして。
「出来たー!」
「よし!」
ハイタッチ。
「読めた!」
「すげぇじゃん!」
肩バンバン。なんだこれ。学校というか。
「……部活?」
「大家族ですね」
リーナが訂正してきた。
ああ、確かに。
先生と生徒というより。
ちょっと大きな家族みたいだ。
「……まあ、楽しそうだからいいか」
その時。ミシッ。床が鳴った。
「……ん?」
ミシ……ミシミシ……
全員止まる。
「今の音なに」
「床じゃね?」
「え、やばくね?」
倉庫、定員オーバー。
「……リーナさん」
「はい」
「物理的に限界です」
「そうですね」
さらっと頷いた。嫌な予感。
「では」
ぱん、と手を叩く。
「学校を建てましょう」
「は?」
あまりにも軽い。
「え?」
「え?」
「建てるって……建物を?」
「はい」
当たり前みたいに言うな。
「いやいやいや、そんな簡単に」
「土地はあります」
「あるの!?」
「資金も、乾燥麺と加工賃で潤っています」
「うん」
「職人もいます」
鍛冶師たちが「おう」と振り向く。
「人手もあります」
生徒たちが「任せろー!」って拳上げてる。
「……」
あれ?
「材料も木材備蓄が十分です」
「……」
「なので」
にこっ。
「今日から基礎工事を始めましょう」
「早い早い早い早い!!」
なんで決定事項なの。
「設計は今夜まとめます」
「スピード感が戦争なのよ!」
しかし。
「学校かぁ……」
「屋根あるといいな」
「机増える?」
「俺、窓作りたい!」
「黒板でっかいのがいい!」
なんか。みんな、嬉しそう。
目がキラキラしてる。ああ、もう。
「……止める理由、ないじゃん」
ため息混じりに笑う。
リーナが頷く。
「はい」
倉庫の中では、今日も即席先生たちの声。
「はい次!」
「そこ違う!」
「惜しい!」
にぎやかで。騒がしくて。
でも、すごく前向きで。
「……本当に学校になるんだなぁ」
ただの倉庫から始まって。
気付けば。ちゃんと“学ぶ場所”になってた。
その瞬間。
「先生ー!」
「はい!?」
「もう一人増えたー!」
「まだ来るの!?」
「床抜けるー!」
「急げ基礎工事!!」
今日もまた。
笑い声と悲鳴と一緒に。
この領地の新しい“学校計画”は、とんでもない勢いで動き出したのだった。




