夜学首席、おじいちゃん
「……なんでいるんですか」
夜、いつもの倉庫。
【夜間 基礎訓練所(本日も開講)】
もはや常設。
そして、最前列。
背筋ぴーん!机に手を揃えて。
完全待機姿勢。
白髪のおじいちゃん。
「一番乗りだ」
「気合い入りすぎでは!?」
昼の子供より早い。
開場三十分前からいたらしい。
「昨日、孫に負けたのでな」
「負けた?」
「文字テスト」
真顔。
「今日は勝つ」
「だから勝負じゃないんですって!!」
ぞろぞろ。いつもの夜メンバー到着。
「こんばんはー」
「今日も来たぞー」
「昨日の続きやるぞー」
完全に常連。
「お、じいさんまた最前列か」
「今日は負けん」
「だから何と戦ってるの!?」
開始。
「今日は読み書き+計算の簡単な確認テストやりますー」
「「「おおー!」」」
なんで盛り上がるの?テストよ?
紙配ると全員、急に真顔。
しーん。昼より静か。
「受験会場かな?」
カリカリカリカリ……
大人たちの本気の筆音。怖い。
ちらっと見る。鍛冶師、眉間にしわ。
商人、指折り計算。料理人、舌出して集中。
そして。
おじいちゃん。めちゃくちゃ速い。
「早っ!?」
すらすら。迷いゼロ。
字、綺麗。
「昨日まで“あ”で止まってませんでした!?」
数分後。
「できた」
提出。
「早すぎません!?」
結果発表。
「満点はー……」
ぴら。
「……一人」
ざわ。
「まさか」
「誰だ」
「バケモンいるぞ」
「えー……」
名前確認。
「ゲルハルトさん」
「はい」
すっ。最前列のおじいちゃん、挙手。
「おじいちゃんんんん!?」
「うそだろ!?」
「昨日ひらがなだったよな!?」
「成長速度どうなってんの!?」
「家で復習した」
「どれくらい?」
「寝るまで」
「何時間!?」
「五時間くらい」
「学生か!!」
「孫に教わってな」
少し誇らしげ。
「“じいちゃん、遅い”と言われたので」
「それ悔しかったんですね」
「うむ」
めちゃくちゃ素直。
後ろの方々は。。。
「くそー!」
「じいさんに負けた!」
「俺もやる!」
なんで闘志燃やしてるの。学校じゃなくて大会?
その時。とことこ。
小さな足音。
「じーちゃん!」
昼の孫。
「終わった?」
「うむ」
紙を渡す。満点。
大きな丸。
「……!」
ぱぁぁ。満面の笑み!
「じーちゃんすごい!」
「えへへ」
「かわいいかよ!!!!」
さっきまで戦士みたいな顔してたのに。
今ただの孫バカ。頭なでなで。
「これで同点だな」
「次は負けないよ!」
「望むところだ」
だから勝負じゃないって!その光景を見て。
かおりはふっと息を吐く。
「……なんかさ」
リーナを見る。
「はい」
「学校っていうより」
「はい」
「ただの“居場所”になってません?」
子供も。大人も。おじいちゃんも。
みんな笑ってる。
出来たーって騒いで。悔しがって。
また来て。
リーナが、柔らかく笑う。
「それが一番大事かもしれませんね」
「……ですね」
その時。
「先生ー!」
「はいはい?」
「じいちゃんが“次もっと難しいの出せ”って!」
「ガチ勢すぎる!!」
「まだいける」
「目が受験生なのよ!!」
今日もまた。倉庫の夜は。
酒場みたいに騒がしくて。
でも。
どこよりも温かい。
小さな学び舎になっていくのだった。
なお本日の首席、最高齢更新!




