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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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何も起きない一日が、いちばん尊い

久しぶりだった。何も起きない朝、というのは。


「……静か」


窓を開けると、冷たい朝の空気が流れ込んでくる。


鳥の鳴き声。遠くで荷車の軋む音。誰かの笑い声。


悲鳴も。怒号も。


「かおりさーん!大変ですー!」も。


ない。

 

「……平和だ」


ぽつりと呟く。


ここ最近。何かしら毎日事件が起きていた気がする。カレー騒動にラーメン行列。


製麺機量産と乾燥麺工場。

三交代制。商人渋滞。


「うん。濃すぎるのよ、毎日が」


そりゃ疲れるわけだ。

今日は特に呼び出しもない。

リーナからの伝令もないし、工場からの相談もない。


完全フリー。


「……何しよ?」


逆に困る。とりあえず外に出る。

工場の前を通ると。朝組が普通に作業している。


「おはようございます、かおりさん!」


「おはよー」


「今日も順調ですよー!」


「それは良かった!」


みんな笑顔だ!余裕がある顔。

前みたいな死んだ目じゃない。


乾燥棚には、麺がずらりと並び。

一定の間隔で裏返され。淡々と工程が進んでいる。


止まらないし、でも慌てない。


「……うんうん」


これこれ。これが理想。


「私いらないんじゃない?」


小声で言ってみる。

でも。

それが一番いい形だと思う。自分がいなくても回る。それが“仕組み”ってやつだ。


少し歩いて、カレー屋の前へ。


「いらっしゃいませー!」


「本日は甘口と辛口ございますー!」


「並んでくださーい!」


もう完全に店として完成している。

弟子たちがテキパキ動き。


鍋を回し、盛り付けに配膳そして会計。


誰もこっちを見ない。


「……成長したわねぇ」


ちょっと寂しくて。でもすごく嬉しい。

親みたいな気分になる。


「かおりさん!」


弟子の一人が気付く。


「味見、お願いします!」


「え、まだ私いる?」


「もちろんです!」


差し出されたスプーン。


一口。


「……うん、美味しい」


普通にお店の味だ。もう私の味じゃない。

この子たちの味だ。


「合格!」


「やったー!」


ぱぁっと笑う顔。


ああ。

これを見るためにやってるんだろうな。

私。


その後。市場をふらふら。

野菜が並び。パンが焼けていて。

子供が走り回っている。


「あ、かおりさん!」


「あの運搬具、まだ売ってますか?」


「母ちゃんが追加欲しいって!」


「今度うどんまた作って!」


次々声を掛けられる。

道具も。食べ物も。仕組みも。


気付けば。


ちゃんと、この町に溶け込んでいる。


「……なんか」


胸がじんわり温かくなる。派手な成功じゃない。大きな事件でもない。


ただ。みんなが普通に生活してるだけ。


でも。


「これが一番、嬉しいかも」


何も起きない。トラブルもない。誰も困ってない。そんな一日。


前の世界じゃ、当たり前すぎて気にも留めなかったけど。


今は。

 

「尊いわねぇ……」


しみじみ思う。


「さて」


背伸びを一つ。


「今日はほんとに休もう」


甘いパンでも買って。お茶でも淹れて。

のんびり本でも読もう。


たまには。


世界を変えるのを休んでも、いいよね。

穏やかな風が吹く。領地は今日も。

何事もなく。静かに、確かに。

回っていた。

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