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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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乾燥麺は生活を変える

木枠に吊るされた麺が、風に揺れている。

細長いそれは、もう食べ物というより――

どこか保存用の資材みたいにも見えた。


一本、手に取る。


軽い。乾いている。

そして、折れない程度の硬さ。


「……うん」


満足げに頷く。


「これは、報告だな」


独り言のように呟いた。

料理の範疇は、もう越えている。


これはきっと――

生活そのものを変える類のやつだ。



その日の午後。


かおりは試作品を布袋に詰めて、領主館へ向かった。


「失礼します」


「どうぞ」


いつもの、落ち着いた声。

リーナが書類から顔を上げる。


「今日は何を持ってきたんですか?」


半分、楽しみ。半分、警戒。

最近のかおりの「試作」は、だいたい何かを起こす。


「これです」


机の上に、乾燥パスタを置く。

カツ、と軽い音。


「……棒?」


「麺です」


「……麺?」


さらに首を傾げるリーナ。


かおりは説明した。


乾燥させること。長期保存できること。

茹でれば戻ること。大量輸送できること。


一つずつ。


ゆっくり。

リーナは一本を手に取り、折る。


――パキッ。


乾いた音。


「……保存食、ですね」


「はい」


「しかも主食級」


「はい」


「小麦で量産可能」


「はい」


「運搬も楽」


「……はい」


かおりは途中から、少し不安になった。


この沈黙。これは――

リーナが何か企んでる時の顔だ。


やがて。リーナが、ふっと笑った。


「なるほど」


そして。


「これは、生活を変えますね」


やっぱり言った。かおりは内心で苦笑する。

同じ結論。


「保存が利くということは」


リーナは指折り数える。


「凶作時の備蓄。遠方交易。兵站。冬越し対策。孤立村への支援物資」


「……あ」


かおりが思わず声を漏らす。

そこまで考えてなかった。完全に。


領主の視点だ。


「ふふふ」


リーナは楽しそうに笑う。


「流石、かおりさん」


「え?」


「また、とんでもない物を自然に作りますね」


「いや、私はただ……ただ、が一番怖いんですよ」


にこやかに言われた。ちょっとだけ複雑だ。


そして、即決。


「増やしましょう」


「……はい?」


「製造です」


さらっと言う。


「先ずは乾燥パスタ。これを標準化しましょう」


「標準化……」


「長さ、太さ、重さを揃える。誰が作っても同じ品質に」


もう完全に政策モード。止まらない。


「工房を一つ専用に回します!保存倉庫も増設。交易品目に追加」


「……早いですね!?」


「善は急げです」


にっこり。


「乾燥麺は“商品”でもあり、“備蓄”でもある」


リーナは真剣な目で言う。


「これは武器と同じです」


「武器……」


「人を守る武器」


その言葉に、胸が少し熱くなる。


料理が。麺が。人を守る。

そんな考え方、前の世界では思いもしなかった。


「では、かおりさん」


「はい?」


「先ずは乾燥パスタの量産、お願いします」


「……やっぱり私!?」


「もちろんです。開発責任者ですから」


にっこり。逃げ道なし。


「はぁ……」


でも。悪くない。

嫌じゃない。むしろ。


「……やりますか」


自然と笑っていた。また少し。

この領地の暮らしが、変わっていく。

ただの麺から始まった、小さな革命は、

今度は――


保存食という“未来”へ広がり始めていた。

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