音だけで我慢できない
ジューーーー
「……ふふふ!」
かおりは思わず口元を押さえた。
「良い感じに焼けてるわね!」
鉄板の上で並ぶ餃子は、底がこんがりと色づき、油の中で軽やかに音を立てている。
耳に心地いい、食欲を直撃する音だ。
「でも、これなら大丈夫」
換気を確認しながら、少しだけ安心する。
「ラーメンみたいに、強烈な香りが外まで届くことは……ない、はず!」
蓋を開けると、立ち上る湯気。
焼き色、皮の張り、完璧だ。
「……よし」
最後にごま油ぽっいのをほんの一滴、回しかける。
ジュワッ
「はいはいはい、もう反則」
小さく笑って、皿に盛り付ける。
「じゃじゃーん!」
自分で言ってしまう。
「異世界餃子、完成よ!……ふふ、笑っちゃうわね」
こんな世界で、まさか餃子を焼いているなんて。
少し前の自分が聞いたら、絶対に信じないだろう。
「さて……」
箸を手に取る。
「冷めないうちに、食べますか」
一口。
「……」
噛んだ瞬間、皮の中から肉汁が溢れ、刻んだ野菜と大蒜の香りがふわっと広がる。
「……うん」
静かに、でも確かに頷いた。
「これは……成功ね」
誰に見せるでもなく、誰に評価されるでもなく。
ただ、自分のために作った一皿。
「今日は……いい日だわ」
かおりはそう呟いて、二つ目の餃子に箸を伸ばした。
「ん〜……お腹いっぱい!」
かおりは背もたれに体を預けて、深く息を吐いた。
「ついつい餃子って、食べすぎちゃうのよね……」
皿の上を見ると、さっきまで山盛りだった餃子は影も形もない。
自分で作ったとはいえ、このペースはさすがに反省案件だ。
「はぁ……」
思わず天井を見上げる。
「ここで、キンキンに冷えたビールがあれば完璧なんだけど……」
喉を鳴らしながら、苦笑い。
「……流石にそれは無理だなぁ〜」
この世界にビールが無いわけではない。
でも、あの記憶にある“仕事終わりの一杯”とは、どうしても違う。
「ま、仕方ないか」
そう言って、湯呑みに残ったお茶を手に取る。
「これはこれで、悪くないわね」
温かいお茶が胃に落ちていくのを感じながら、ゆっくりと息を整える。
「餃子も作れたし、誰も押しかけてこなかったし……」
一瞬だけ外を気にしてから、ほっと肩の力を抜いた。
「今日は、平和な勝利ってことで」
そう呟いて、かおりは静かな満足感に包まれながら、しばらくその場でくつろぐのだった。




