表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/156

静かな皮、次の一歩

「……待てよ」


かおりは、部屋の中でふと足を止めた。


製麺機の件も一段落。

スープの匂い騒動も、今は落ち着いている。

――今なら、少しだけ“静かな実験”ができそうだった。


「餃子の皮なら……いけるんじゃない?」


小麦。

水。

塩。


特別な香りも、強い匂いも出ない。

茹でるわけでも、長時間煮込むわけでもない。


「うん。これなら平和」



思い出すのは、倉庫を探していた時のこと。


「そういえば……」


寸胴鍋を引っ張り出した時、奥に転がっていた道具。


「手回しの……ミンチ機」


当時はラーメンで頭がいっぱいで、軽く確認しただけだった。でも、構造は単純。

刃も問題なさそうだった。


「挽肉、作れるわね」


家畜は、もういる。

加工も、少量なら問題ない。


「皮があって、挽肉があって……」


自然と、頭の中で完成図が組み上がっていく。


「包む作業は……人手がいるかもだけど」


それはそれで、楽しいかもしれない。



机に腰掛け、軽く伸びをする。


「今日やると、また徹夜になりそうだし」


ラーメンの一件が、脳裏をよぎる。


「……明日にしよう」


無理はしない。急がない。


最近、少しずつ身についた判断だった。



窓の外は、穏やかだった。

工場の方角からは、かすかに金属音が聞こえる。

誰かが、今日も何かを作っている。


「私だけが動かなくても、世界は回る」


そう思えるようになった自分に、少し驚きながら。


「じゃあ次は……餃子、ね」


かおりは小さく笑った。


強い香りも、派手な変化もない。

けれど――


またひとつ、“生活に溶ける何か”が生まれそうな予感だけは、確かにあった。


――次の日。


「さて……」


かおりは腕まくりをして、作業台の前に立った。


「だいぶ、小麦を練るのも慣れてきたわね」


手のひらで生地を押し、畳み、また押す。

感触で水分量がわかるようになってきた自分に、少しだけ感心する。


「最初の頃は、粉まみれだったのに」


生地を薄く伸ばし、型抜きで丸く抜く。

同じ大きさの皮が、作業台に並んでいく。


「まさか、皮から作る日が来るとは思わなかったわ〜」


思わず苦笑する。


「でも……やっぱり、何かを作るのは楽しいわね」



次は挽肉。


手回しのミンチ機を固定し、肉を入れて、くるくると回す。


「よし、問題なし」


受け皿に落ちていく挽肉を確認して、頷く。


「それから……」


包丁を手に取り、キャベツっぽい葉物を刻む。

とん、とん、とん。


「うん、この音、いいわね」


最後に――


「やっぱり、大蒜は外せないわよね〜」


刻み始めた瞬間、ふわっと香りが立つ。


「……あ、でもこれは騒ぎにならない程度で」


そう言い聞かせながら、量を控えめにする。


皮、具材、下準備。

全てが、静かに、順調に進んでいく。


「今日は……平和に終わりそうね」


かおりは、そう呟いて、小さく微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ