大きくして回してみよう
――というわけで。
かおりは製麺機を抱え、工場へと向かった。
「……重い」
いつの時代に販売してたのか不明とはいえ、改めて運ぶと中々の重量だ。
木と金属の塊は、しっかり“道具”の顔をしている。
◇
工場に入ると、鍛治師と木工師、それぞれ数名が集まってきた。
「これが、その麺を作る機械か」
「ほう……構造は単純だが、精度が要るな」
製麺機を作業台に置くと、皆が覗き込む。
かおりは、簡単に仕組みを説明した。
回転軸、ローラーの間隔、圧力のかかり方。
しばらく、沈黙。
そして――
「……この大きさのままでは、再現は難しいな」
鍛治師が、腕を組んで言った。
「やっぱり、そうですよね……」
「だが」
続けて、木工師が口を開く。
「二回りほど大きくすれば、加工の余地はある」
「部品も厚く出来るし、歪みも出にくい」
「回す力も、安定するな」
「……出来る?」
かおりが尋ねると、二人は顔を見合わせて頷いた。
「試作なら、な」
◇
方向性は、すぐに決まった。
「まずは、大きめの型を一台」
「それを実際に使ってみて」
「問題が無ければ、量産へ」
今まで何度もやってきた流れだ。
かおりも、リーナも、職人達も慣れている。
「急がない」
「急がせない」
それが、失敗しないための約束。
「じゃあ、まずはその試作品をお願いします」
「任せとけ」
鍛治師は、にやりと笑った。
◇
工場を出る頃。
かおりは、少し肩の力が抜けていた。
「……よかった」
無茶な量産ではない。ちゃんと、段階を踏む。
「大きくなっても、麺は麺よね」
小さく呟きながら、空を見上げる。
ラーメンから始まった話は、また一歩、“普通の道具”に近づいていた。
今度は、工場の中で、ゆっくり、確実に回っていく。
かおりは、工場を後にして自室へ戻った。
「さて……これは、これで一区切りね」
肩の荷が、すとんと落ちる感覚。
製麺機の試作は職人達に任せた。
構造も意図も、きちんと伝えた以上、あとは現場の力を信じるだけだ。
「全部を自分で抱える必要は、もうないもの」
◇
机に向かい、紙とペンを広げる。
「じゃあ次は……レシピ、ね」
頭の中にあるものを、一つずつ整理していく。
・骨の下処理
・煮込み時間の目安
・香味野菜の入れる順番
・火加減
・アクの取り方
「感覚でやってた所も、言葉にしないと」
書きながら、少しだけ笑う。
「私、いつの間にか“教える側”になってるわね」
麺の配合も、いくつかの案を併記した。
細麺、ちぢれ麺、太麺。
どれが正解かではなく、どう違うか。
「プロなら、ここからもっと良くするでしょうし」
◇
書き終えた紙束をまとめ、立ち上がる。
「料理人さんに渡しておこう」
リーナの元にいる料理人達。
この世界で“食”を支えている人達だ。
「私が作るより、ずっと安定するはず」
それに――
「私一人の味、にならない方がいい」
文化として残るなら、多くの手を通って、少しずつ変わっていく方がいい。
◇
廊下を歩きながら、かおりは小さく息を吐いた。
「ラーメン食べたかっただけなんだけどなあ……」
そう呟いて、くすっと笑う。
でも、不思議と後悔はない。
作って、渡して、任せる。
その流れが、ちゃんと回り始めている。
「完成を待つのも、悪くないわね」
かおりは、軽い足取りで歩き続けた。
今度は、“出来上がる音”を聞く番だった。




