麺と向き合う、昼の試食会
「ふーう……」
かおりは、額の汗をぬぐった。
どうにか、昼には間に合った。
「こんにちは! かおりさん!」
聞き慣れた声に振り向くと、そこにはリーナが立っていた。
後ろには、数名の側近と、興味津々といった様子の人影。
「はい……どうぞ」
少しだけ、気後れした返事になる。
◇
机の上には、布をかけた盆がいくつも並んでいた。その布を、かおりがそっとめくる。
「これが……麺、ですか?」
リーナは目を見開いた。
「はい。色々な形があるんですね」
「ええ」
かおりは頷く。
「好みもありますし……スープに合う合わないもありますから」
「ですので、何種類か試しに作ってみました」
細麺、ちぢれ中麺、太麺。
それぞれの質感を、指先で確かめるように見つめるリーナ。
「……なるほど」
「同じ材料でも、随分印象が変わりますね」
◇
鍋では、朝から温め直したスープが静かに湯気を立てている。
昨日から煮込まれた香りが、部屋いっぱいに広がった。
「では……」
リーナが、にこりと微笑む。
「早速、試食会と行きますか!」
「……解りました」
かおりは、深呼吸して答えた。
◇
まずは細麺。
湯にくぐらせ、頃合いを見て引き上げる。
「……このくらい、かな」
器に盛り、スープを注ぐ。
「……っ」
自分でも、喉が鳴った。
次は、ちぢれ中麺。そして、太麺。
机の上に、三つの器が並ぶ。
「……同じ料理なのに」
誰かが、ぽつりと呟いた。
「見た目が、全然違いますね」
◇
リーナは、まず細麺から口に運んだ。
「……!」
一瞬、目を見開き、そして――
「これは……」
「スープがよく絡みますね」
続いて、ちぢれ中麺。
「……こちらは、噛みごたえがあります」
太麺を前に、少し考えてから箸を伸ばす。
「……ふむ」
静かな時間。
やがて、リーナは顔を上げた。
「かおりさん」
「はい……」
「どれも、美味しいです」
その一言に、肩の力が抜けた。
◇
「でも」
リーナは続ける。
「用途が違いますね」
「軽く食べたい時、しっかり食べたい時」
「……選べる」
かおりは、小さく頷いた。
「はい。それが、この料理の面白い所です」
「一つに決めなくてもいい」
◇
昼の光が差し込む中、器は次々と空になっていく。試食会は、ただの食事ではなかった。
「……これは」
リーナは、最後にそう呟いた。
「また一つ、“広がる”予感がしますね」
かおりは、少し困ったように笑った。
「……そうですね」
昼の麺は、静かに、しかし確実に。
次の波を呼び始めていた。




