麺が増えるほど、事態も広がる
「……よし、次は麺だわ」
かおりは、レシピ本を机の上に広げた。
昨日の夜から頭の中はラーメン一色だが、今は“遊び”では済まない。
「麺の作り方……あった」
基本はシンプルだが、配合で食感が変わる。
「この配合……参考にしてみるか」
計量し、生地をまとめる。
「……うん」
こねる、叩く、まとめる。
その動作は、もうぎこちなさが無かった。
「捏ねるのは……だいぶ、さまになったかも?」
自分で言って、くすりと笑う。
◇
生地を少し休ませてから、製麺機の前に立つ。
「さて……挟んで、回す、と」
ハンドルを回すたび、生地が薄く伸びていく。
「……楽しいけど、地味に重い」
伸ばした生地を折り、再び通す。
それを何度か繰り返してから、刃を細麺用に切り替えた。
「まずは……細麺ストレート」
さらさらと落ちてくる麺を見て、思わず目を細める。
「……ラーメンだわ、これ」
だが、すぐに首を振る。
「好みは人それぞれよね……」
配合はそのままに、今度は切り方を変える。
ちぢれ中麺。さらに、太麺。
机の上に、種類の違う麺が並んでいく。
「……作りすぎた?」
一瞬そう思ったが、すぐに否定する。
「いや、きっと必要になる」
◇
「……あー……」
製麺機から手を離し、肩を回す。
「腕、痛い……」
思った以上に体力を使っていたらしい。
外を見ると、日もだいぶ高い。
「昼には……どうやら間に合ったわね……」
並べた麺を眺める。まだ茹でていない。
味の確認も、スープとの相性も未知数だ。
「……何とも言えないけど」
「イメージは……伝わる、よね?」
そう自分に言い聞かせる。
◇
ふと、我に返る。
「……まさか」
ぽつりと呟いた。
「ちょっとラーメン食べようとしただけなのに……」
家の外が、朝からざわついていた理由。
リーナが真剣な顔でスープを飲んだ瞬間。
「……まさか、こんな事になるとは」
苦笑が漏れる。
「……迂闊だったわ」
だが、不思議と後悔はなかった。
「まあ……」
麺をそっと布で覆いながら、かおりは小さく息を吐く。
「もう、ここまで来たら……」
「ちゃんと“形”にするしかないわよね」
昼は、もうすぐだ。




