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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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記憶の中の麺を今ここで

最初は、何を作ろうかしら?


かおりは台所に立ち、置かれた材料を眺めながら小さく首を傾げた。

小麦は潤沢にある。これは本当に助かる。


「でも……パスタは、もう飽きたかな」


この世界に来てから、小麦料理といえばどうしても似たものに寄りがちだ。

焼くか、煮るか、伸ばすか。

味付けも決まった範囲から大きく外れない。


「……うどん、打ってみる?」


ふと思い付いたその言葉に、かおり自身が少し驚いた。

でも、考えてみれば条件は揃っている。


小麦。

水。

塩。


そして――やる気。


「うん、これなら今ある材料でいけるわね」



ふんふんふん〜

ふんふんふん〜


鼻歌交じりに、生地をまとめ、こねる。

手のひらに伝わる感触は、少し懐かしい。


あ、これ……覚えてる!


前の世界で、動画を見ながら真似した時のこと。

失敗して、太さがまちまちになって、でもそれでも美味しかった。


薄く伸ばして、小麦粉を振って。

生地を重ねて、包丁を入れる。


「……よし」


太さは揃っていない。でも、それでいい。



次は茹でる工程だ。


たっぷりのお湯を沸かし、切った麺をそっと入れる。


「どのくらい……茹でるのかしら?」


時計は無い。タイマーも無い。


でも。


「まあ、少しずつ食べて、食感で確認すればいいか」


実にかおりらしい結論だった。


一口すくって、ふーっと冷まして、噛む。


「……まだね。もう少し」


再び鍋へ。もう一度、確認。


「……うん、いいかも」



つゆは、完全再現とはいかない。


醤油に似た発酵調味料。

干した川魚を削って、香りを出す。


(出汁って、こういうのよね!


正解かどうかは分からない。

でも、方向性は間違っていないはずだ。



「さて……食べてみるかな〜」


器に盛られた麺を見て、かおりは少しだけ緊張した。

期待しすぎると、がっかりするから。


そっと一口。


……。


「……あ」


思わず、声が漏れる。


完璧ではない。

前の世界のうどんとは、確かに違う。


でも。


「ちゃんと……うどんだ」


喉を通る感触。

噛んだ時の、あの独特の柔らかさ。


これ、ちゃんと再現できてる……


かおりは、知らず知らずのうちに笑っていた。


それは、この世界で初めて「記憶の味」に手が届いた瞬間だった。


うーん!良いわね!!


かおりは、もう一口すすってから満足そうに頷いた。

刻んだネギっぽい香草が、思った以上に良い仕事をしている。


「やっぱり、香りって大事よね……」


つゆの熱で少し柔らかくなったそれが、麺に絡む。完全に同じではないけれど、方向としては十分すぎるほどだ。


「小麦粉の扱いも……だいぶ上手くなったわね」


最初にこの世界で粉を触った頃を思い出す。

水加減が分からず、べたついたり、逆にボロボロになったり。


でも今は、生地の表情でだいたい分かる。

もう少し水。ここで休ませる。

今なら切れる。



「となると……」


自然と、次の発想が浮かぶ。


「餃子の皮……いけるわよね?」


薄く伸ばして、包む。中身は、肉と野菜。

蒸しても、焼いてもいい。


「焼売も……多分いける」


皮の厚みを変えるだけ。

技術的には、もう射程圏内だ。


かおりは、器を置いて、ふと天井を見上げた。


「……ん〜」


別の欲求が、むくむくと湧いてくる。


「なんか……ラーメンも食べたくなってきたわ」


うどんよりも、さらに複雑。

麺も違うし、スープも違う。


でも……


小麦はある。塩もある。

肉も、骨も、魚も、香草も。


「理論上は……出来るわよね?」


かおりは、ふっと笑った。


「次は……ラーメン、行くかな?」



それはただの食欲かもしれない。

けれど同時に、この世界で「再現できる範囲」が、確実に広がっている証でもあった。


小さな満足と、次の野望。

その両方を胸に、かおりは空になった器を見下ろした。

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