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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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呼ばれてから前に出る

かおりは、いつものように控えめな席でお茶を飲んでいた。


今日は特に予定はない。

報告書も急ぎではなく、会議も入っていない。


――はずだった。


「……かおりさん、少しよろしいですか?」


声を掛けてきたのは、集積屋のまとめ役を任されている男だった。

以前なら、こうして自分から声を掛ける事はなかった人物だ。


「はい。どうしました?」


かおりが立ち上がると、男は少し言いづらそうに頭を掻いた。


「今度、農家側と集積の時間をもう少し詰めたいという話が出まして……こちらだけで決める事も出来るんですが、一度意見を聞きたくて」



それを聞いた瞬間、かおりは内心で小さく笑った。


ああ……変わったんだ!


以前なら


「決めてください」


「指示をください」


「どうすればいいですか」


そう言われていた。でも今は違う。


彼らはもう考えている。動いている。

その上で――確認のために呼んでいる。


「もう案はあるんですか?」


「ええ。二つほど。ただ、どちらも一長一短で」


机の上に広げられた紙には、時間帯と人員配置の案が書かれていた。

どれも現場をちゃんと見ていなければ出てこない内容だ。


……ちゃんと育ってる!



かおりは紙を見ながら、ゆっくりと言葉を選んだ。


「どちらも、悪くないと思います。ただ……これ、農家側が忙しくなる時期はどうなります?」


男は一瞬考え、はっとしたように頷く。


「……あ、そこは確かに調整が要りますね」


「でも、それに気づいているなら大丈夫です。

私が決める事じゃないですし」


そう言って、かおりは微笑んだ。


「決めるのは、現場の人たちです。私は、困った時に一緒に考えるだけで」



その言葉に、男は少し驚いた顔をしてから、深く頭を下げた。


「……ありがとうございます。それでも、意見をもらえると助かります」


かおりは首を横に振る。


「意見じゃなくて、確認です。もう十分、前に進んでますよ」



男が去った後、今度はリーナがこちらを見ていた。


「……頼られていたわね」


「うん。でも、指示はしてないよ?」


「それでいいのよ」


リーナは静かに言った。


「必要な時に呼ばれて、呼ばれた分だけ関わる。今の立ち位置、悪くないわ」


かおりは少し照れたように笑う。


「……やっと、分かってきた気がする」



前に出なくてもいい。

引っ張らなくてもいい。


それでも、必要な時には名前が呼ばれる。


それは信頼で、役割で、そして居場所だった。


かおりは、空になった湯呑みを見下ろしながら思う。


私は、ここに居ればいい!


世界を変える人ではなく、世界が動くのを支える人として。


そう思えた事が、何よりの前進だった。


さて、何か食べようかしら。

かおりは軽く伸びをしながら、空腹を自覚した。

この世界の食事は、決して不味いわけではない。

素材は良いし、味付けも素朴で安定している。


……でも。


「同じなのよね」


焼く、煮る、蒸す。

味付けは塩か、香草か、たまに甘味。


悪くはない。

むしろ、慣れれば安心する味だ。


けれど。

メニュー数が、圧倒的に少なすぎる……

前の世界では、冷蔵庫を開けるだけで選択肢が山ほどあった。

コンビニに行けば、季節限定や新商品が当たり前に並んでいた。

それを思い出すと、どうしても物足りなさを感じてしまう。


「たまには、違う物を食べたいわね……」



かおりは顎に指を当て、記憶を辿る。

完全再現は無理でも……近い物なら出来るかも?


粉もの。揚げ物。

調味料は限られているけど、工夫次第で何とかなるかもしれない。


「……あ」


ふと、一つ思い浮かぶ。


材料は、ある。

調理道具も、たぶん揃う?

手間はかかるけど、不可能じゃない。


「これ、出来たら結構喜ばれるかも」


誰かの顔が、自然と浮かんだ。

驚いた顔。

最初は警戒して、でも一口食べて目を丸くする顔。


……実験、してみようかな?



まあ……「食べたいから」でいいか。


かおりは立ち上がり、軽く服を整えた。


「失敗しても、自分で食べればいいし」


そう呟いて、扉に手を掛ける。

今日の予定は何もない。

だからこそ――


小さな「食の実験」をするには、ちょうどいい日だった。

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