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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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触れられない向こう側

かおりは自室で、久しぶりに何も考えずにのんびりしていた。


以前なら、何となくスマホを取り出して、意味もなく画面を眺めていた時間だ。

ここには、当然そんな物は無い。


……いや。


有るには、有るんだけど。


そっと引き出しの奥から取り出したそれは、

もう電源も入らない、小さな四角い板。


前に撮った写メを、かおりは指でなぞる様に眺めていた。



そこに写っているのは、見慣れた街並みと、何気ない日常。


私が、この建物ごと急に消えちゃって……

向こうの世界では、今どうなっているのだろう。


家族は?

友人は?

職場は?


突然、丸ごと消えたら――驚くどころの話じゃない。


神隠し。事故。

それとも、宇宙人に誘拐されたとか……?


……流石に、それはないか?

自分で考えておいて、少し苦笑する。



けれど、答えはもう確かめようがない。

連絡も取れないし、戻る方法も分からない。


私は、もう……その続きを、かおりは口にしなかった。



スマホをそっと戻し、ベッドに寝転ぶ。

天井を見上げながら、ふと考える。


ここで、他にできる事はないかな?


道具を作るだけじゃなく。

仕組みを考えるだけでもなく。


もっと、誰かの負担を減らせること。

気づかれない所で、流れを整えること。


それなら、まだ出来る。

そう思うと、不思議と胸が軽くなった。



かおりは、静かに目を閉じる。


向こう側には戻れないかもしれない。

でも、ここには――


「今の私」が居る。


それだけで、十分だと。そう思える夜だった。


リーナは執務室で書類に目を通しながら、ふとかおりの事を思い出していた。


以前のかおりは、何か思いつけばすぐに口にし、形にするまでの勢いがあった。

それはそれで助けられる事も多かったし、

領地を前に進める原動力にもなっていた。


けれど――最近は、少し違う。


……前に出なくなった、というより。

一歩引いた場所から、全体を見ている。

自分で決めきらず、必ず誰かを交えて話をし、「どう思う?」と問いかける様になった。



今回の物流の件もそうだった。


答えを押し付ける事はせず、可能性と懸念だけを並べて、判断を委ねてきた。


結果として、現場は混乱せず、ゆっくりと、だが確実に動き始めている。


……変わったわね。


リーナは小さく息をつく。


それは未熟になった訳でも、意欲を失った訳でもない。


むしろ逆だ。


「自分一人で出来る事には限界がある」


それを理解した人間の立ち振る舞い。



かおりはもう、“異物”ではなくなっていた。


この領地の中で、この世界の流れの中で、

自然に呼吸をしている。


……頼れる、わね。


それは、一人の人間として。


リーナはそう評価し、机の上の書類に視線を戻した。


――今は、それでいい。


前に出る者が居て、支える者が居て、流れを整える者が居る。


その中に、かおりの居場所はもう、ちゃんと出来ていた。

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