動き始めた流れ
農家と集積屋の間で、細かな調整が何度も行われた。
時間のずれ。
受け渡しの手順。
量の目安や、無理の出るポイント。
一つ一つを話し合い、
お互いに納得できる形へと擦り合わせていく。
その結果――
流れは、目に見えて変わり始めた。
◇
以前のような慌ただしさは減り、どちらも「自分の仕事」に集中できるようになった。
農家は、畑にいる時間が明らかに増えた。
朝から畑に出て、土を見て、作物の様子を確かめる。
市場へ行くために作業を切り上げる必要がなくなり、細かな手入れまで行き届くようになった。
それだけで、作物の状態は違ってくる。
◇
一方、集積屋の方も変化していた。
集める量が安定し、作業の流れが読めるようになったことで、新たに人を雇う余裕が生まれたのだ。
受け取り、仕分け、運搬。
役割を分けることで、一人一人の負担は軽くなり、仕事として成り立つ形が見え始めていた。
◇
……上手く噛み合ってきた。
かおりは、その様子を見て静かに頷く。
今は、農作物だけ。
でも、この仕組みは――
他の業種にも、応用が効く。
物を作る人。集める人。運ぶ人。
その間に流れを作るだけで、無理は減り、仕事は増える。
◇
そして、その変化を見ていたのは、かおりだけではなかった。
リーナもまた、報告を聞き、現場の様子を確かめ、何かを掴んだような表情を見せていた。数字ではなく、理屈だけでもなく。
「領地が、自然に回り始めている」
そんな手応え。
◇
派手な改革ではない。
けれど、確実に前へ進んでいる。
かおりは思う。。これでいい急がなくていい。無理に広げなくていい。
流れは、もう動き始めているのだから。
かおりは、少し離れた場所からその様子を眺めながら、ふと思った。
……これも、前の世界では当たり前のことだった。
生産する人がいて、それを運ぶ人がいて、
まとめる人がいて、最後に売る人がいる。
役割は分かれていて、それぞれが自分の持ち場に集中していた。
この世界では――
商人が、物流も問屋も店も、全部を抱えている所が大半だ。
農家に至っては、作るだけでなく、市場で売るところまで自分でやっている。
だから、無理が出る。
◇
今、その形が、少しずつ変わり始めている。
農家は畑に専念し、集積屋がまとめ、商人がそれを扱う。
間を挟めば、確かに価格は上がるかもしれない。
でも――
まとめる事で、逆に下がるコストもある。
移動の回数。人手の無駄。時間のロス。
それらが減れば、全体としては、軽くなる。
◇
まだ、手探りだ。
うまく行かない所もあるし、調整が必要な部分も多い。
それでも――
慣れてしまえば、これが普通になる。
誰かが意識しなくても、自然と回る流れ。
それが「仕組み」だ。
◇
かおりは、小さく息を吐いた。
急ぐ必要はない。
押し付けるつもりもない。
ただ、形を作って、回るかどうかを確かめるだけ。……あとは、現場が育ててくれる。
そう思いながら、かおりはまた次の調整へと向かっていった。




