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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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調整が仕事になる

朝の集積所は、以前よりも静かだった。


人が減ったわけではない。

声が消えたわけでもない。


ただ――慌ただしさが薄れた。



「今日は少し早めに来ました」


そう言って籠を下ろした農家に、集積側の男が帳面を見ながら応じる。


「ああ、聞いてます。雨予報でしたからね」


「昼前にもう一度来る人もいる」


それは特別なやり取りではなかった。

確認でも、交渉でもない。


ただの“共有”だ。



数日前までは、時間がズレるたびに小さな混乱があった。


待つ人。焦る人。

何となく居心地の悪い空気。


だが今は違う。


「今日は多そうだな」


「なら、こっちを先に受けよう」


そんな言葉が、自然に飛び交う。



リーナとかおりは、少し離れた場所からその様子を見ていた。


「……変わりましたね」


かおりが言う。


「ええ」


リーナも頷く。


「“仕組み”そのものは、ほとんど変えていないのに」



変わったのは、認識だった。


時間がズレること。量が前後すること。

天候で予定が崩れること。


それらを「問題」ではなく、「調整が必要な前提」として扱い始めている。



集積所の責任者が、リーナの元へやって来た。


「領主様」


「少しご相談を」


「どうしました?」


「時間と量の確認をする人間を、決めたいと思いまして」



リーナは、一瞬だけ目を瞬かせた。


「役目として、ですか?」


「はい」


男は少し照れくさそうに言う。


「今までは、誰かが何となくやっていました」


「でも、今は……それなりに大事な仕事だと思いまして」



かおりは、その言葉を聞いて胸の奥が温かくなった。


「調整する人がいないと、回らない」


それを、現場の人間が自分で言っている。



「農家側にも、一人立てましょうか」


別の者が口を挟む。


「まとめ役がいれば、連絡も早い」


「そうだな」


話は、すぐに形になり始めた。



リーナは、かおりを見る。


「……予想していました?」


「いえ」


かおりは首を振った。


「でも、こうなるといいな、とは思ってました」



道具を作っていた頃は、形があればよかった。


使いやすければ、広がった。


でも、仕組みは違う。形だけでは足りない。動かす“役割”が必要になる。



その日の終わり。


帳面には、新しい項目が書き足された。


・時間調整担当

・量の事前連絡

・天候時の例外判断


それは、命令でも規則でもない。


「必要だから、そうする」


その積み重ねだった。



「……仕事、増えましたね」


かおりが小さく言う。


「ええ」


リーナは笑った。


「でも、これは“負担”じゃない」



調整が、仕事になる。

誰かの善意でも、我慢でもなく。

役割として存在することで、仕組みは静かに強くなっていく。



かおりは、ふと空を見上げた。


道具を作らなくても、

魔法を使わなくても。


世界は、少しずつ変えられる。


そう、確かに感じていた。

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