最初の違和感と小さな成功
最初の日は、静かに始まった。
特別な合図もなく、鐘が鳴るわけでもない。
ただ、決めた時間に、決めた人たちが動き出す。
◇
「……少し、早いな」
農家の一人が、荷を積んだ籠を下ろしながら呟いた。
今までは、収穫したらすぐ市場へ向かっていた。今日は集積所に持ち込む。
頭では分かっていても、身体が慣れていない。
「待たせてしまうかもしれない」
そんな遠慮が、まだ残っていた。
◇
一方、集積側も同じだった。
「思ったより来るな」
帳面を確認しながら、集積者が首を傾げる。
今までは午後に集中していた荷が、今日はぽつぽつと、時間を分けて届く。
「……でも、これは」
誰かが気づいた。
「一気に来ない分、慌てなくていい」
◇
昼を少し過ぎた頃。
予定していた「重なる時間帯」が、静かに機能し始めた。
農家は、
「この時間までに持ってくればいい」と分かっている。
集積側は、
「この時間は受け取る」と決めている。
誰も声を荒げず、誰も急かさず。
◇
もちろん、問題は出た。
「今日は遅れたら、受け取ってもらえないのか?」
「急な雨の時はどうする?」
そんな声が、すぐに上がる。
だがそれは、拒否ではなかった。
「続ける前提」の質問だった。
◇
夕方。
リーナとかおりは、集積所の端で様子を見ていた。
「……どう思う?」
リーナが小声で尋ねる。
「正直、まだぎこちないです」
かおりは即答した。
「でも」
一呼吸置いて、続ける。
「前より、空気が軽い」
◇
実際、農家たちの表情は違っていた。
疲れてはいるが、焦ってはいない。
集積者も同じだ。
「今日は、仕事を“回した”感じがする」
そんな言葉が、ぽろりと零れる。
◇
「成功、と言うには早いわね」
リーナは言った。
「はい。でも――」
かおりは、集積所を見渡す。
「失敗、ではありません」
◇
完璧ではない。遅れる人もいる。戸惑う人もいる。
それでも、
「話せば直せる」
「次はこうしよう」
その言葉が、自然に出てきている。
◇
その夜、簡単な報告が上がった。
大きな混乱なし。
作業時間の極端な増減なし。
不満はあるが、怒りはない。
リーナは、その紙を見て静かに頷いた。
「……小さいけれど」
「はい」
「確かに、進んでいるわね」
◇
かおりは、少しだけ肩の力を抜いた。
仕組みは、まだ粗い。だが、流れは生まれた。
そして何より――
「合わせる」のではなく、「話しながら整える」
その感覚が、現場に芽生え始めていた。




