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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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畑に残る安心、胸に残る戸惑い

朝の畑は、静かだった。


鍬の音と、土を踏みしめる音だけが響く。

以前なら、この時間はもう少し慌ただしかったはずだ。


「……楽になったな」


そう呟いたのは、年配の農家だった。

背を伸ばし、腰を叩きながら畑を見渡す。


「市場に持って行かなくていい」


「集め役が来てくれる」


それだけで、朝の段取りが随分と変わった。



別の畑では、若い農家が籠を並べていた。


「今日は、ここまででいいか」


以前なら、売れるかどうか分からない量を抱えて市場へ向かっていた。

売れ残れば、そのまま持ち帰る。


だが今は違う。


「全部、引き取ってくれるって言われると……な」


肩の力が抜ける。収穫量を調整する余裕。

畑の手入れに使える時間。


「助かってるのは、間違いない」


それは、誰もが感じていた。



けれど。


「……で、値はどうなるんだ?」


昼休憩の時、自然とそんな話題が出る。


「前と同じ、とは言われてるけど」


「直接売らない分、感覚がな」


市場でのやり取り。客の顔。売れ行き。

それらが、少し遠くなった。


「売れてるのかどうか、分かりにくい」


「そうそう」


不安というほどではない。

だが、完全な安心でもない。



集め役の若者が来ると、空気は和らぐ。


「今日も助かります」


「いやいや」


受け渡しはスムーズだ。

帳面にもきちんと記録が残る。


「ちゃんとやってくれてる」


それは分かる。


「でもな……」


農家は、ふと畑を見た。


「俺たち、今まで“売る”とこまでやってたからな」


作って、運んで、売って。全部、自分の仕事だった。


「今は……半分、任せてる」



夕方。


作業を終えた農家は、以前より早く家に戻れた。身体は楽だ。時間にも余裕がある。


「悪くない」


「むしろ、いい」


そう思いながらも、心の奥に残るものがある。


「これで、本当に大丈夫なんだろうか」



夜。


家族と食卓を囲みながら、農家は笑った。


「今日は、早く帰れたな」


「お父さん、楽そう」


その言葉に、頷く。


「まあな」


畑に残る安心。生活の余裕。

けれど、胸に残る小さな戸惑い。


「慣れ、だよな」


そう自分に言い聞かせる。


この仕組みが、“当たり前”になるまで。

農家たちは、静かに様子を見ていた。

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