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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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小さな滞り

最初の変化は、とても些細なものだった。


市場へ向かう道の途中で、かおりは足を止める。

いつもなら朝のこの時間、野菜を積んだ手押し車が何台も行き交っている。


「……少ない?」


完全にいないわけではない。

ただ、数が減っている。


「今日は、収穫日じゃなかったっけ……」


首を傾げながら歩いていると、知った顔の農家が立ち話をしていた。


「おはようございます」


「ああ、かおりさん」


声をかけると、農家は少し困ったように笑った。


「今日は市場に出さないんですか?」


「出すには出すんだけどな……」


歯切れが悪い。



話を聞くと、理由は単純だった。


「集め役が来るって聞いたからな」


「だったら、畑の作業を先にしようと思って」


なるほど、と思う。


物流の“仮の仕組み”。

農家が直接市場に出なくてもいいようにする試み。


「それで……集め役は?」


「昼前になるって話だ」


「……なるほど」


かおりは、心の中で小さく息を吐いた。


問題が起きている、というほどではない。

だが。


「市場は、朝が一番人が多いんですよね」


「ああ。昼を過ぎると一気に減る」


結果として、農家は楽になった。

だが、市場の活気は、少しだけ落ちた。



別の場所でも、似た話を聞いた。


「今日は品数が少ないね」


「午後には来るらしいけど」


商人たちは文句を言うほどではない。

ただ、いつもと違う、という顔をしている。


「……時間、か」


かおりは、歩きながら考えた。


農家の都合。集め役の都合。市場の時間。


それぞれが、ほんの少しずつずれている。



夕方。


今度は、集め役として動いている若者と話した。


「思ったより大変だな、これ」


「どう大変?」


「農家ごとに収穫時間が違う」


「畑も散らばってるし」


「全部回ると、市場に着く頃には昼過ぎだ」


それでも若者は、前向きだった。


「でも、農家の人は助かってる」


「俺も仕事になってる」


失敗ではない。むしろ、手応えはある。


ただ――


「流れが、まだ合ってない」


かおりは、そう感じた。



夜。


かおりは、一人でノートを開いていた。


「朝市」「集荷時間」「農家の作業時間」


箇条書きで、静かに書き出す。これ、誰かが悪いわけじゃない。

むしろ、みんな善意で動いている。


「……だからこそ、調整が必要」


今はまだ、誰も困っていない。


だが、このままでは、「慣れない不便」が積み重なる。かおりは、ペンを止めた。

私は、口を出しすぎない。


それは決めている。でも、気づいたことは、渡せる。


リーナの顔が浮かぶ。


「……報告、かな」


問題提起ではない。抗議でもない。


「こういう“ズレ”がありました」


それだけでいい。


小さな滞り。小さな違和感。


けれどそれは、仕組みが“動き始めた証拠”でもあった。

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