外から伸びる手、内で積み上がる土台
この荷馬車に、最初に目をつけたのは――
領外からやって来ていた商人たちだった。
「……これ、売り物か?」
実物を前にした商人の目は、隠しようもなく輝いていた。
荷台の大きさ。足回りの頑丈さ。無駄のない構造。どれも、彼らが日々扱っている“運ぶ”という仕事に直結している。
◇
商人たちは迷わなかった。
「次に来る時までに、用意してもらえるか?」
「数は……まずは、これくらいで」
具体的な数字が、その場で出る。
今までの道具、運搬具、そして小型の荷車。
それらが確実に役に立った実績が、判断を早くしていた。
「ただし、すぐには無理だろ?」
かおりは、正直に頷いた。
「物が大きいですから。時間は、ください」
「構わん。次の往復までにあれば十分だ」
そう言って、商人は続ける。
「今まで使っていた荷馬車は、こちらで引き取ってくれるんだろ?」
「はい。回収して、こちらで改修します」
それを聞いて、商人は満足そうに笑った。
◇
話は、すぐにリーナの元へと共有された。
「……想定通り、外が食いついてきましたね」
「ええ。だからこそ、人手が足りません」
リーナは、すぐに動いた。
「補佐を、さらに募集します」
領内だけでなく、領境にも声をかける。
働き手を探している者は、少なくない。
「仕事は増える。だが、安定もする」
その言葉は、確かな重みを持っていた。
◇
一方、領内では――
住宅の建設が、変わらず続いていた。
家が増え、人が住み、道具が使われる。
外へ向けた生産が始まっても、内側の整備は止めない。それが、この領地の方針だった。
「外に売る前に、内を整える」
誰かが言い出したわけではない。
だが、いつの間にか、それが当たり前になっていた。
◇
荷馬車の生産は、すぐに工程表が引かれた。
「ここまでは、これまでと同じ」
「ここからは、人数を増やして」
職人たちが自然に役割を分ける。
新しく入ってきた者には、補助的な作業を。
慣れた者が、要となる部分を。
流れは、すでに出来上がっていた。
◇
かおりは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。
「……大丈夫そうね」
自分が前に出なくても、回っている。
外からは注文が入り、内では家が建ち、人が増え、仕事が回る。
「ちゃんと、“領地”になってきた」
荷馬車は、ただの道具だ。だが、それをきっかけに――
外と内が、確かにつながり始めていた。




