積み重ねた日数の重さ
今回の荷馬車は、完成までに数十日を要した。
「……やっと、だね」
かおりは、完成した試作品を前にして、静かに息を吐いた。
今まで作ってきた道具とは、明らかに違う。
大きさも、重量も、かかる負荷も段違いだった。
だからこそ――
一気に作り上げる、という選択は最初からなかった。
◇
制作は、段階的に進められた。
ある程度形になった時点で、一度使ってもらう。実際に荷を積み、引かせ、曲がらせ、止める。
「ここ、少し重いな」
「段差で軸が沈む感じがする」
「方向転換がきつい」
出てきた意見を、その場で記録する。
そして、作業場に戻って改修。
「ここは厚くしすぎたわね」
「逆に、ここは補強が足りない」
直しては、また使ってもらう。その繰り返しだった。
◇
途中の試作品は、もはや「未完成品」ではなかった。だが、かおりはそこで止めなかった。
「まだ、直せる」
一つ直すと、別の部分が見えてくる。
負荷の逃げ方、重心の位置、引く側の負担。
「大きな道具ほど、誤魔化しが効かない」
そう実感する日々だった。
◇
完成した荷馬車は、最初の案とは少し違う姿になっていた。無駄な装飾は一切ない。
だが、どこもかしこも、意味のある形をしている。
「壊れにくくて」
「直しやすくて」
「誰でも使える」
その条件を、すべて満たしていた。
◇
領内での最終確認。
実際の運搬に使ってもらう。
重い荷を積み、長い距離を移動する。
数日が経っても――
「特に、不満はないな」
「前より楽だ」
「これなら長く使える」
出てくるのは、そんな声ばかりだった。
変更点も、追加の要望も出てこない。
「……合格、ね」
かおりは、そう呟いた。
◇
判断は早かった。
「生産を始めましょう」
試作段階は、ここで終わり。ここからは、量を作る段階だ。職人たちも頷く。
「型は、これで決まりだな」
「部材の準備に入ろう」
これまでの成功パターンが、ここでも生きていた。
◇
こうして。
時間と手間を惜しまず積み重ねた荷馬車は、正式に生産へと移った。
一気に広げるのではない。だが、確実に。
それは、領地の中だけでなく――
その先へと物を運ぶための、確かな足となる。
数十日分の試行錯誤は、確かに、この形の中に残っていた。




