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倉庫ごと異世界転移したので、何でも屋を始めます  作者:


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待つという判断

「また新しい道具が出たらしいぞ」


そんな噂が、いつの間にか領内を巡っていた。


畑でも、作業場でも、井戸端でも。話題は自然と、最近よく聞くその言葉に集まる。


「今度は、運ぶやつらしい」


「手押し車とか、手引き車だって?」


「もう売らないのか?」


かおりの元にも、そんな声が届いていた。



「まだです」


それが、職人たちの共通した答えだった。


「まだ実験段階だ」


「使い手によって、感じ方が違う」


「壊れた時、どう直すかも見ていない」


以前よりも、ずっと厳しい。


それは意地悪でも、渋りでもない。

一度、成功を知ってしまったからこそだ。


「急いで出して、失敗するわけにはいかない」


職人たちは、そう理解していた。



「もう完成したんじゃないのか?」


「前の道具は、すぐ広がったのに」


そんな不満の声も、もちろんあった。


だが、職人は首を横に振る。


「前回は小さな道具だった」


「今回は、違う」


人ひとり分以上の荷を支える。転べば、怪我にも繋がる。


「だからこそ、時間をかける」


それは、現場を知る者の判断だった。



その話は、やがてリーナの耳にも入った。


「もう欲しがっている人が?」


「はい。結構な数です」


報告を受けたリーナは、少しだけ笑った。


「前例があるから、でしょうね」


便利さを知った。成果を知った。だから、次も期待する。


「気持ちは、わかります」


だが、すぐに表情を引き締める。


「しかし、販売はまだです」


職人と同じ説明を、丁寧に繰り返した。


「今回は、体格差、年齢差、安全性。すべてを確認します」


「領内で使うものですから、なおさら」


誰かが怪我をしてからでは、遅い。



それでも、状況は前とは違った。


「今回は、少し大きな道具です」


リーナは、机の上の書類に目を落とす。


「職人だけでは、手が足りませんね」


加工も、試験も、修正も。やることは多い。


「補佐を、募集しましょう」


すぐに決断した。


木材を運ぶ者。組み立てを手伝う者。試験使用に立ち会う者。


「経験は問いません。話を聞ける人を」


それが条件だった。



募集は、すぐに人を集めた。


「また、新しい仕事が始まるらしい」


「今度は大きい道具だって」


「ちゃんと作るみたいだぞ」


領内には、妙な安心感が広がっていた。


すぐに売られないこと。

すぐに広がらないこと。


それすらも、今では信頼の一部だった。



かおりは、その様子を少し離れた場所から眺めていた。


「……待つって、大事よね」


欲しがられても、出さない。

求められても、急がない。


「それが出来るようになったのは、皆のおかげかな」


成功を、焦りに変えない。

便利さを、無理に押し付けない。


この領地は、少しずつだけど、確実に変わっている。


新しい道具は、まだ完成していない。

でも――

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